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前世の記憶は突然に。

ちょっと昔々の話。

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 目を開けたら、粗末な小屋の天井が見えた。屋根がそのまま天井だ。

 びゅうびゅう風のが鳴る音がして、室内は薄暗く隙間風で肌寒い。

 ここはどこだろう。私は……友達と山登りに行こうと思って、家を出て、駅に向かって歩いて……電車、乗ってないな。


「お母さん! リリが起きた! 目を覚ましたよ!!」

 目覚めてもぼーっと天井を見ていたら、突然にょっきりと女の子の顔がのぞき込んできて、そう叫んでどこかに行った。

 今のは……えっと、ララ……だ。

 すぐにばたばたと複数の足音が聞こえて、のぞき込む人が三人になった。


 二十代後半くらいの女性と、中学一年生くらいの女の子と、小学一年生くらいの男の子。お母さんと、姉のララと、弟の、レット。


「ああ! よかった! リリが助かったわ! 神様!!」

「リリ、だいじょうぶ?」

「リリ、お水持ってきたよ。起きられる? あんた三日も寝込んでたんだから……もう」

 お母さんが起こしてくれて、ララが水の入った木の器を口元に持ってきて、水を飲ませてくれた。冷たくておいしい。


「熱も下がったわね。まってて、今食べるものを持ってくるから」

 三人とも私が目を覚ましたことをとても喜んでくれている。当たり前だ。家族なのだから。



 いやいや待って。私の家族は──姉も弟もいなかったはずだ。妹はいたけれど。母はこんなにやさしくなくて、妹ばっかりひいきして──



 高校生になって、家を出て……ほとんど実家に帰ってなくて──



 家だって、こんな、山小屋みたいなものじゃなくて、普通のワンルームマンションで。今、私の体に掛けられているのは森イノシシの皮。敷いてあるのも。待って。羽毛布団。軽くて暖かい、めっちゃ高かったお布団は。プロのスポーツ選手も使ってる最高の寝心地のマットレスは……


 着ている服も、荒い糸で織られたシャツ。綿? この硬さは麻かもしれない。


 シャツの袖から伸びている腕はひどく細く、手も小さい。十歳くらいの女の子くらい……? なんで? 私、もうすぐアラフォーなんですけど。


「リリ、あーん」

 お母さんが当然のように、木の匙で何かを掬って差し出してくれた。

 口を開けると適度に温かい、ドロッとしたおかゆみたいなもの。

 シンプルに甘くておいしいけどお米じゃないなこれ。


「リリねーちゃんおいしい? おいしい?」

 男の子がキラキラした目をしながら何度も聞いてくるから頷いておく。

 おいしいよ。麦は貴重だもの。

 こんなに濃い麦のおかゆ、早々食べられるものじゃない。いつものはもっと薄い……と、思う。いつもの?


「レット、騒がしくしないの」

 私とお母さんの周りをちょろちょろしていたレットが、ララにたしなめられておとなしくなった。かわいい。うん、レットはいつだってかわいい。

 器いっぱいのおかゆを食べたら、また眠くなってきた。起きていないとと思うけどふーっと寝入りそうになる私を見て、お母さんは優しく横にならせてくれた。

「食べられたし、もう大丈夫そうね。ゆっくり休みなさい」

 少し荒れているけど、優しい手がおでこに添えられた。いろんな記憶がまじりあってよくわからない。

 考えなくてはと思ったのに、なんだか幸せな気分のまま、私はスーッと眠ってしまった。


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