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入れ替わりは突然に。

得意なんですけどね。

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 そばには青い顔をした回復役と思われる魔法使いが、辺境伯の手を握って魔力を注ぎ続けていた。周りには片づけきれなかったらしきマナポーションの空き瓶が転がっている。お疲れ様です。


「代わりますね」

 空いている右手を取り、私がそういうと、回復を担っていた魔法使いの人がばったりと倒れた。

「彼が目を覚ましたら、水をたっぷり飲ませてください」

「え? 水、ですか?」

「はい、水です」


 そんな話をしている間も、ゆるゆると、繋いだ手から魔力が吸い取られていく。割とこれ、回復魔法止めたら即死するレベルでは……


 意識して魔力を注ぎ、治すべき場所を探す……オゥ……内臓ぐっしゃぐしゃやんけ。

 よくこんな状態で持ちこたえてたよ。

 肺が半分くらいつぶれてた?

 腰の骨も折れてる……あ、これ、予想よりひどかった。

 どう考えてもこの人、五・六回死んでるくらいには重体。

 もしや、上と下が離れた瞬間があった?

 きっとすぐに治癒魔法でとにかく外傷をふさいで、魔法で延命してたのか。

 ぐしゃぐしゃのままの内臓を、脳内で収まるべき場所にきちんと収まったイメージを作って、さらに魔力を流す。

 じわりじわりと、壊れたところを再構築する。


 体内の水まで奪われないように、周囲の水を集める。

 おそらくだけど、ほかの元素の魔法でも、治癒をしようと思ったらできると思うの。

 でも、水魔法が一番適している。

 理由は、人体の七割が水だから。

 怪我をすれば、血と体液という水分がダイレクトに失われる。

 それを補充しやすい水魔法が、治癒するのに適している、それだけ。

 こっちの体の水分を無意識に治癒の時使うことがあるから、治癒魔法を使った後は水分補給が鉄則。


 私の治癒魔法がよく効くのは、このイメージ力にあると思うのよ。

 無くなった水分を補給して循環させつつ、切れた腕をくっつける時、血管や筋、神経なんかをイメージして、スムーズに『流れる』ように治すのと、とにかくどうでもいいからくっつけるイメージで治すのとでは、後遺症のレベルが全く違ってくる。


 私は知識があるからイメージしやすいけど、これ、なかなか人に教えようと思ってもうまくいかない。さすがに人体解剖して『人ってこういう構造でーっす』とかやるわけにもいかないからねぇ


 あと、けがをしたての方が治りやすい。

 なんていうか、細胞が治ることに前向きな感じ。

 切れた神経同士、お互いくっつこうと勝手に相手を探してくれるのだ。

 辺境伯の背骨とその周辺の神経の皆さんも、勝手に感動の再会中。

 でも、時間が経つとお互いを認識しづらくなるんだよね。数年前の怪我でしびれが残ったり、動かしづらかったりする部位の修復は難しい。

 古傷をきれいに消せないのはそのせい。


 内臓疾患の場合は、病んでいる内臓を特定して、それが元通りになるイメージをする。

 元に戻りそうにないくらい悪化していて、切除可能なら患部の水分を奪って機能を完全に停止して周りにばれないよう取り出す。

 ただ漠然と、おなか痛いの治れー☆ みたいなのとはそりゃ治り方が違うよ。


 そのせいで、ただの水の治癒魔法ですって言ってるのに、あのバカどもは何回否定しても聖女聖女うるさかったなー


 ちぎれたりつぶれたりした内臓をゴリゴリ治す。

 なんかちょっと漏れちゃったのか肝臓の組織が足らないけど仕方ないよね。

 お酒は控えていただこう。

 腸もちょっと短くなったかなー……何が言いたいかって、さすがの私でも、失った手や足は再生できません。

 切れた先があればくっつけるのはやぶさかではありませんが! 辺境伯が一応くっついてて、五体満足な状態でよかった。


 そんなことを考えていたのはものの五分ほど。内臓の再生が終わるのとほぼ同時に、辺境伯が小さくうめいて、身じろぎした。


「……ここ……は……私は、たすかっ……た、のか?」



 私が手を離すのと同時に、周りにいた騎士の皆さんがわっと辺境伯に群がってきた。

 寄ってきた人々にドンっと弾かれた。

 と思った瞬間、思考も視界もブラックアウトした。


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