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入れ替わりは突然に。

大歓迎ですね!

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 そうして何事もなく、五日後、私はメリステル辺境伯の砦のような領都に到着した。

 そのままお屋敷に向かうのかと思ったら、領都の高級宿で一泊して、念入りに支度をしてからお屋敷に行くのがマナーでした。


 げっそりこけていた頬は、旅の間にバクバク食べまくったらしっかり戻った。あんまり食べ過ぎるのもよくないのでそろそろセーブせねば。

 何はともあれ美少女復活である。


 一応私が来ることは早馬で通達はあったようだし、昨日御者が翌日の来訪を知らせていたので、家令とメイド長らしき人と、その他使用人が出迎えてくれた。


 そして本当に、御者とダーリアは、お屋敷の玄関まで私を送り届けて挨拶もそこそこにそのまま帰っていった。たった一人残された私を見て、家令とメイド長らしき人がちょっと困った顔をしてた気がしないでもない。


 領都の外壁も頑丈な感じだったけど、お屋敷も外観は武骨な岩! って感じだった。入ってみると中はきちんと温かみのある空間だった。


 広い吹き抜け玄関ロビーに定番の大きな階段。金糸で縁取られた緋色の絨毯は年季が入った色合いだけどきちんと手入れされている。


「……ようこそ、メリステル辺境伯領へおいでくださいました。リリアーネ・エステルソリス様。わたくし、当家の家令を任されておりますセバスと申します。こちらはメイド長のメグでございます。何かあればメグにお申し付けを」

 家令……セバスって定番! でも割と若いと思う。

 三十代後半くらい。

 慇懃無礼を絵に描いたように、大仰に腰を折って挨拶をする。

 おお、そうきたか。

 貴族のよくわからんやり取りはさっぱり理解できないけど、わざわざリリアーネのことをエステルソリスで呼ぶってことは、メリステル側はまだこの婚姻を承諾してませんって意思表示なんだろう。


 いや別にいいけど。



「お部屋にご案内いたします、こちらへどうぞ」

 隣のメイド長、こちらは四十代くらいの女性、メグが、中央の階段へ促すので、軽くうなずいて続こうとして。


 その階段の上、バルコニーになった柵の陰から小さい男の子がひょっこり顔を出すようにこちらを見ているのに気づいてしまった。


「ぼっちゃま、お部屋にお戻りください」

 セバスも男の子に気づいたらしい。やんわりとそう言って、彼の後ろにいたメイドにアイコンタクト。

 メイドがその小さい体を抱き上げようと伸ばすのと同時に、すいっとその手をかいくぐって階段を下りてきてしまう。


「おい、セバス! こないだからメイドたちが噂してた父上に輿入れを申し込んでいるという女はこいつか!!」

 おう。概ねその通りだけど小さい割に態度が尊大なガキンチョだな!

 とん、とんっとちょっと危なげな足取り。睨みつけるような視線はばっちり私に向けられていて、足元を見ていない。

「ぼっちゃま、お戻りください」

 メグもセバスと同じことを繰り返すけど、男の子はどこ吹く風。


「メイドたちがすっごいヤな奴がくるって言ってたけど、なんか全然弱そうだな!! こんなやつ、俺様が追い出してやるぞ!!」


 あー この場の大人がみんなすごい居心地悪そう。階段の上にいる若いメイドさん、メグにめっちゃ睨まれてる。


 しかし、今更泣きそうな顔してもダメよ。子供に聞こえるような所でそんなうわさ話した自分が悪いからあとでこってり叱られてね。


 どうしよう? ここはいっぱつ、か弱く追い出されちゃう?


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