辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり?

神室さち

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入れ替わりは突然に。

今後について考える暇もなく。

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 お父さんお母さん、二人からもらった大事な体……分捕られましたごめんなさい……でも、私は生きてます! めんどくさい状態からも解放されました。信じてくれるかどうかわからないけど、いつか会いに行きます……
 引き合わせるための客間らしき部屋にあったライティングデスクの引き出しから勝手に紙とペンと封筒を取り出して、こんな感じの手紙をしたためて、実父の名前と村名を書いた封筒に入れ魔法封印をすると、ドレスとコルセットの間に挟み込む。お金はないけど、今身に着けているアクセサリーを使ったら、実家まで届くはず。郵便に似たサービスはそこそこ整ってるのよねこの世界。
 ほかにも、王宮の客室で私の世話をしてくれていたファーラを筆頭とした気さくなメイドの皆さん。王都のことも学校のことも貴族のことも、とにかく右も左もわからない状態だった私に呆れつつもちゃんといろんなことを教えてくれたルームメイトのマチルダ先輩や、寮母のユアンナさん。教会で仲良くしてくれた、治療メインの水魔法が得意なロビンやスー。治療院の院長をされていた、厳しくも優しい枢機卿のジョーンズ様……私が預けた荷物、できればそのまま置いておいてください。決して恵まれた環境ではないのに、明るくたくましい教会の孤児院の子供たち。気さくな下町のみんな。短い王都の生活の中でも、知り合いはできた。彼らに何も言えずに突然いなくならなくてはいけないのは、少し……いや、すごく寂しい。
 でもいきなり入れ替わったのとか言ったら、ただのアレな人。しかも、私に生命を脅かすレベルの意地悪をした張本人で、みんながすごく嫌っていたリリアーネだ。無理。
 ここから逃げ出すべく出ていこうとしたら、ドアがノックされ、やって来たメイドに連れていかれた先は、ザ・書斎。
 リリアーネの父である公爵様に呼び出され激しく叱責された。虫けらか汚泥を見るような目で見てエステルソリス家の恥さらしだとか、それはもう口汚く、貴族の父親ってこんな下種なのかと思うくらいに。そういえば私を誘拐して勝手に娘に仕立て上げたデドロス男爵も下種だったなぁ そもそも親からもらった素敵な名前があったのに、今日からお前はアリシアだ! と言いやがったんだよなあのおっさん。予想通り糖尿病からの内臓不全と思われる症状でこの間お亡くなりになられた。惜しくない人を亡くした。
 とか思いつつ聞き流していた、父親の言っていたことも要約すると、クリストファー王子の婚約者にするために幼いころから根回しするのに金がかかり、その後の王妃教育にもめちゃくちゃ金がかかったのに、お前のせいで全部無駄になったってことかな。終始カネカネ言ってた。役立たず恩知らずとも言ってたな。何回も。王子の婚約者でなくなったリリアーネには何の価値もない。その辺に捨ててもいいが万が一場末の娼館で公爵家の血を引く子供を産まれてもこまるから、嫁ぎ先だけは用意してやったからありがたく思えってことだった。
 この人は、リリアーネのことを政治的な道具としか見てなかったんだろう。そして、思い通りにならなかったら捨てるのだ。



 嫁ぎ先はこの国の南を治めるメリステル辺境伯。辺境っていうからどんなところかと思ったら、王都から馬車で五日も行けばたどり着けるらしい。王都まで二十日以上かかった懐かしい我が家は、ではどう表現すべきだろうと一瞬頭をかすめたけど今考えることじゃない。しかしこんな短期間に遠方の辺境伯と結婚する段取り、よくできたな。リリアーネが婚約破棄されてからまだ二週間ほどしかたってないぞ。あ、魔法があるか。辺境伯にはいろいろ政治的優遇がされているものの、一応こっちの方が爵位は上だし、ゴリ押しでねじ込むくらいはやりそう、この人。
 リリアーネとは一回り以上年上で、数年前に妻を亡くした人らしい。妻に先立たれ、再婚しようとしない辺境伯に押し付ける気満々だ。陛下の憂いを晴らして差し上げられるとか言ってたけど政治的だなー しかし、父親が言う通りならリリアーネは相手からするとなかなかの不良債権だと思うんだけど、おそらく相手の迷惑とかは考えてないな。娘が嫁ぐ相手のこともあしざまにののしっていたので、むしろ嫌がらせも兼ねてるのか。辺境伯はこの男に何か弱みでも握られてるの?
 今すぐ出ていけと父親の書斎らしき部屋から追い出されたけど、玄関ってどこよ? さっきの部屋はおそらくリリアーネの部屋じゃなくて客間だったんだよね。そこに呼びに来たメイドに連れられてここまで来ただけだからさっぱりわからない。
「あの、お嬢様……」
 どうしたものかと立ち止まっていると、ためらいがちに声をかけられた。振り返ると、先ほど案内してくれたのとは別人の、そこそこ中堅っぽいメイドが立っていた。








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