やさしいキスの見つけ方

神室さち

文字の大きさ
上 下
189 / 259
ANOTHER DAYS

10 side夏清

しおりを挟む
 
 
 
「誘ったらダメかな?」
 だって、誘われようが誘おうが、結局同じでしょ? 思ってるだけで言わないけど。樹理ちゃんには。
「ダメ……ってことは、ない……と、思う、けど」
「けど?」
「は、はずかしく、ない?」
「あー……うん。どきどきするよ」
 どきどき、っていうか、ばくばくって言うか。心臓。未だにね。
「先生ってねぇ意地悪いんだよ」
「は?」
「うん。誘わされるの」
 変な日本語。
「こっちから行かないと、なんにもしてくれないんだよ。ときどき」
 一緒に居たかったらお前が言いなさい、みたいな。
「なんかもう、私なんか、ギリギリいっぱいなのに、余裕かまして放置するの」
「ほう、ち……」
「そう、だからくやしいけど、だって一緒に居たいし」
 そしたら絶対。
「受身だけじゃいられないよ」
 きっとね。そのまま私が我慢したら、きっとそのままにされるなんてことは、ないんだと思う。でも。
「もらうばっかりは、なんかやだから」
 うまく言えないけど。だからって何でもするわけじゃないけどっ……なんかいろいろさせられてるけどっ!!
「夏清ちゃんって」
 うん?
「すごいね。そういうのは、思ってても、私はできないから。大事にね、してもらってるなって、いつも感じてるけど」
 うん。
「やっぱり、面と向かうとお礼とか言えないし、氷川さんが普通だと、こっちが改まっちゃうのも変だし、そしたらなんとなく、時間が過ぎちゃって、じゃあおやすみなさいって」
「なっちゃうわけね」
 樹理ちゃんが頷く。
「で、氷川さんも普通におやすみなさい、と」
 うんうんと、樹理ちゃんが頷きつづける。そこで呼び止めてくれたらよさそうなもんだけど、きっと氷川さんはやらなさそう。というより目に浮かぶ。なんかこう、お互い踏み込む境界の手前でじりじりしてるのがっ! 他人事なのに手がわきわきするー!! あーもう、いじりたい。
「樹理ちゃん」
「ハイ?」
 起き上がって樹理ちゃんの目の前に座ってずいっと体近づけたら、樹理ちゃんがじり、と仰け反る。
「氷川さんは帰り、遅いんだよね?」
「うん」
「お風呂は? ご飯は?」
「え? お風呂は先に、入ってるけど、ご飯はなるべく、一緒に食べてる」
「お風呂から上がったら、そのパジャマ?」
「う、ううん。服。普通の。寝る前に着替えるから」
「服? 普通の?」
「ふ、ふつうの」
「今日着てたみたいな、長いスカートの?」
「え、私、短いの、持ってない、から」
 じりじり樹理ちゃんがあとずさっていく。逃がさなくてよ。
「持ってない!?」
「う……うん」
 私も人のことは言えないけど、黙っとく。
「変な服いっぱいあるから。もう好きなだけあげるから持って帰って着なさい。こっちから状況変化させなきゃいつまで経ってもそのままよ!? ありがとうのお礼の気持ちは伝わらないわ!! まずはそこから打破しよう!! 大丈夫よ!! 喜ばれこそすれ、嫌われることはないから!!」
 なんか我ながら詭弁なカンジ。でもあの服、捨てるのはダメって言われたけど、あげるのは止められてないもんね。貸したって事にしたらオッケー。もう返してもらわなくていいけど。
「え? へ、変な服?」
 あ、言い間違い。でも他になんて言うんだ?
 着るのも、部屋に置いとくのいやだから、この部屋の押入れに突っ込んであるのよ。
 押入れを開けて中から衣装ケースを取り出す。ああもう、みっちり入ってる……いつの間にこんなに増えたのかしら。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】天国か地獄のエレベーター(女の匂いに翻弄される男)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:181

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:94,998pt お気に入り:663

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,909pt お気に入り:4,495

わんこな部下の底なし沼

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:25

花嫁の勘案

恋愛 / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:49

公女は祖国を隣国に売ることに決めました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,470pt お気に入り:122

いつでも僕の帰る場所

BL / 連載中 24h.ポイント:7,250pt お気に入り:1,184

処理中です...