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LОVE GAME
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しおりを挟む覆い被さって、ちゅーって。
「きゃ」
直後に先生が、声も出さずに叫んで思い切り起き上がる。上にかぶさってた私ごと。
「っ! お前はっ!! ナニいれやがるんだ!?」
この動きは、確かに鍛えてないと無理かも、なんて、どうでもいいところで感心してた私に先生の、珍しく焦ってる声が聞こえる。
えー。
「ナニって」
さすがに全部はムリだったわ。残りはやっぱり自分で飲むしかないのね。
「先生のせー……」
……えき。
言い切る前に唇、上下からつままれた。聞きたくないなら聞かなきゃいいのにぃ。
「だって。全部飲むの、結構大変でしんどいんだよ?」
「だからってなぁ……」
「ほら、今日神父さん言ってたじゃない。どんな苦楽も二人で、分かちあいましょうって。だからもう、ぜひ」
「違うだろう、それは。ナニがゼヒ、だ?」
いやーん。怒らないでよう。笑ってるけどちょっとだけ本気で怒ってるでしょう?
「だってだって。私なんか、自分のだって、舐めてるし。じゃあ先生だって、一回くらいやってみてもいいでしょう?」
「…………」
「……うー。ごめんなさい」
またするかもしれないけど。忘れた頃に。
「覚えてろよ」
いや。やっぱり忘れます。すっぱり。
そう言って、先生がベッドから降りる。
「口洗ってくる」
「待って。私も連れてって」
両手上げて、連れてってのポーズ。
「まだ立てない」
「ハイハイ」
「いつもみたいじゃなくて、横向きがいい」
そう。先生、ヒトのこといつも荷物みたいに担ぐのよ。今も、同じようにされそうになったから、慌てて抱き方に注文をつけてみる。
「『初めてのとき』みたいにして?」
思い出したらどうも、あの時限りなの。俗に言うお姫様抱っこしてもらったのって。
えへって笑いながらお願いしたら、返事なしでひょいと抱えあげられた。こんな簡単にして貰えるならもっと前からしてもらったらよかったな。
「……重くなっただろう」
「先生ひどい。女の子になんてこと言うのよ」
「五キロ……」
当てないで。確かにあの頃よりそのくらい増えました。体重。でもっ! 身長も伸びたのよ!? うー分ってるもん、さすがにソレ全部、胸にまわったわけでもないし。全体的に丸くなってきたかもって。他のみんなはそのくらいでいいからダイエットなんか考えるなって。でも、さすがに、これ以上は、太らないようにしよう……
「……腰痛めたら面倒看ろよ」
ワタシ的には構わないどころかちょっと歓迎です。それ。いくらでも看てあげるから。
あ。でも。
自分、動けないから口でとか、上でとか言われるのはヤダなぁ。先生って、そう言うのヘイキで言いそう。出来るだけ健康でいてください。でもね。
「ボケようがなんだろうが、ずっと一緒にいるから大丈夫だよ」
それに先生、鍛えてるんでしょ? それなら当分心配ナイナイ。今だって、全然ヘイキそうに歩いてるもん。
「……ほら、最後の『死が二人を分かつまで』って」
コレもちゃんと、誓いましたから。
どう考えても、平均余命の男女差とか、年齢差とか考えたら、先生のほうが先にいろいろガタついてくるんだからさ。そんな先のこと、わかんないけど、生きてる限り絶対あるお別れとか、まだ考えたくもないし、考えてもないんだけど。それまでは絶対離れないって、誓ってるから。自分に。
洗面所到着。しばらくぶりに足の裏、地面に着地。ちぇーっ。もうちょっとくっついてたいのに。
後ろに立ってる先生の手が伸びてきて、蛇口のバーを上げる。お先にドウゾ、ってジェスチャー。だから、おいてあったグラスに水入れて、先に濯ぐ。上半身の体重移動でナナメにずれて、タオルハンガーにかかったタオルの上に背中を乗せる。カベ、タイルと漆喰だから冷たいんだもん。空いたスペースに体を入れて、流れ出る水を手ですくって、おもいっきり、あっという間に口の中濯いだ先生が、水滴を手の甲でぬぐってから、私をみて笑う。
「俺としては」
顎に指。そのまま顔を、くいってあげられるのは、いやじゃない。そうやって、ギリギリ、唇と唇が触れない場所で、先生が言葉を続けた。
「『まで』じゃなくてそれからもそのつもりだけど?」
触れるだけのキスが、すぐに、噛み付くようなキスに変わる。水の味なんて普段気付かないのに、このキスは水の味がした。
「うん。私もね」
首に手を絡めて、先生にぶら下がるようにしながら見上げる。
「先に死んだら絶対、先生に取り憑こうと思ってるから」
「それは……ちょっと違うだろう」
「うーん。でもね、私は絶対、先生のこと想ってるから」
この間、北條先生と、ちょっとまじめに……いや、北條先生にはわりといつもまじめにしてるんだけど……話してた時に『本当の死』ってどういうことか北條先生の考え方を聞いたり、自分で考えたりしたの。死んじゃうってことじゃなくて、なんていうのかな、死をどう考えるか。そういうこと。
死んじゃうこと。体が動かなくなって、魂が無くなっちゃう、物理的な、避けられない死と。
誰からも忘れられちゃう、死。
どっちが悲しいかっていうと、忘れられちゃうことかな。逆に、誰かが覚えててくれるだけで、もしかしたら、本当には死んでないのかもしれないの。
抽象的で、そう言う話を突き詰めると宗教的になってしまうかもしれないのだけど。もしもそうなっても、悲しくても大丈夫なくらい、絶対先生のこと、覚えてて、想うの。そして先生にも、想ってて欲しいの。
「じゃあ、誓いの言葉換えなきゃね」
「なんて?」
「んー……そうだなぁ」
目と目を合わせて。何がいいか考えてるのに、またキスが降りてくる。顔中に。
『死が二人を分かつとも』
うーん。これでよかったっけ?
小さい声で言ったら、でもちゃんと聞こえてたみたいで、先生が同じコトを言う。
他の誰でもない、鏡の向こうにいる自分たちを証人にして、もう一回どちらからともなくキスをした。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
サイトに載せていた時のサブタイトルが「I'm quits with you(対等な私たち)」なんですけど、対等とは。
LOVE GAMEにはゼロって意味も込めて、AFTER DAYSの数字につながってるっていう説明がないとわかりにくい仕様でした。
次もまた時系列がゴリっと戻ります。ごめんね。
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