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AFTER DAYS 終わらない日常
42b 真宮真吾の視点 8
しおりを挟む誰もみんな、あるものは使わなきゃもったいないって言うけれど、それはやっぱり、礼良の能力を自分たちの都合のいいように使いたいって言うことだったんだ。
人より秀でた力は、劣る人を補うためにあるわけじゃない。中学二年の時キレるまでの礼良をちゃんと思い出すと、なんでもほいほいやってくれていたわけじゃなくて、できることは断らなかったし、滅多になかったけど、できないことはちゃんと断っていた。そして自分が加わることによって不公平になるようなことは極力避けていた。
どうしてそこまで気を遣って、ってくらい、なにをしても誰にもばれないように、不自然にならない感じで手を抜いていたことに気がついたのは、後になってからだけど。
あのころ、ほとんど毎晩、夜中に突然、夢から逃げるように跳ね起きていたことも知っていた。最初のころこそ声をかけていたけど、いちいち謝られるのがイヤで気がついても寝たフリをすることにした。そして、起きたらおそらく朝までちゃんと寝てなかっただろう事も。俺はすぐ寝ちゃってたんだけど。それも、二年のあの成績表オールイチ事件以後は、そんなことも減っていっていた。卒業する頃には、朝俺が起こすまで寝ていられるようになっていた。
物腰も当り障りも柔らかかったけれど、断る態度は頑なな感じで、だから、思わず聞いたんだ。
もしかして、全力でなにかをするのが怖いのか? って。
あとにも先にもあの質問の時だけだったっけ。礼良が虚を衝かれたような顔したの。そのあと逆にどうしてそう思ったかって聞き返されて、自分でも深く考えて口にした質問じゃなかったから、理由を上手く答えられなかった。体(てい)よくはぐらかされたんだけど、今聞いたらどんな答えが返ってくるだろう。
駅の改札でカードをかざして構内に入った直後に、電話が鳴り出す。昔は電話が鳴ったら誰もが自分の携帯電話を確認、なんて笑えるシチュエーションだったけど、今はいろんな音源だからさすがに誰も俺の着メロには反応しない。
「もしもし?」
『電話、バカみたいにかけてんじゃねぇ。出られないって悟れって速人に言っとけ』
「言っても直らないって。それにもう分かれたし」
『もう終わったのか?』
あっという間だなと言いたげに礼良がつぶやく。誰かさんのおかげでね。
「お前も今いいの?」
『今さっき車止めて歩いてる最中。で、なんだ?』
「ああ。礼良お前、野球部の顧問だって?」
『なんでお前が知ってんだよ』
「多分ミサエサン経由。心当たりないの?」
『ある。けどこんな早く知れるとは思わなかったな』
「やっぱりホントなのか。でもどうして。礼良、野球キライじゃなかったのか?」
『まさか。野球自体に何の恨みもつらみもないけど、やってる奴がキライだったんだよ」
「あ、っそう」
…………じゃあアレは私怨だったのか?
「生徒も気の毒に……」
『バカか、気の毒なのは俺のほうだよ。余計な仕事が増えたんだからな』
「でも受けたんだろ?」
『まぁな』
「俺が甲子園に連れて行ってやるぞって?」
『なんだそりゃ。連れて行ってもらうんじゃなくて自力で行くんだよ。あいつらが勝手に』
「ひっでぇ」
でもらしいか。そっちのほうが。
「急いでるとこに悪かったな、それが確認したかっただけなんだ」
『ふーん。ま、昔のこと知ってたら確認したくなるのも分ってやるよ』
なんだその態度……
「今思い出してたけど、やりたい放題だったもんな、あのころ」
結局礼良は本当に野球部の予算を全てカットしてしまって、さらに成績が悪ければ補正予算を組む時にまたカットするって言い放って、最初に言ってた運動部執行部長闇討ち事件へと発展させた。完膚なきまでに返り討ちにされて、それからは誰も表からも裏からも、文句を言える根性の座った人間はいなかった。今でもウチの高校が、野球部が死ぬほど弱いのは、絶対あの時叩きのめされたせいだ。逆に野球部とサッカー部は部ぐるみでいがみ合っていたせいもあってか、サッカー部は闇討ち事件に関与してなかった。
そのせいかどうかは知らないけど、サッカー部はその年度にソコソコの成績を残して、最終的な決算額としてソコソコの支給額をゲットし、現在も時々国立に顔を出したりしているし、在学中からどこかのプロチームに入ったりするヤツもいたりする、ソコソコいけてるチームを編成している。
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成績オール1事件はシリーズの最終に予定している過去編で明らかになる予定。
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