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AFTER DAYS 終わらない日常
42b 真宮真吾の視点 3
しおりを挟む『あのっ なんだか氷川さん、信じてくれてないんですけどっ』
向こうもおそらく、机の上に電話を置いているのだろう、その机を誰かが叩いたのか、携帯の画像がぐるんと天井を向いて振動でガタガタ揺れている。なんだか酔いそうな映像。そのあと奇妙な笑い声が聞こえて、画面が持ち直る。
「その前に場所移動。横で出来上がってるのからなるべく離れろ」
『あ、ハイ』
『あらぁ? そう言うこと言う?』
携帯を持ち上げたらしい樹理ちゃんの後ろからべったりと張り付くようにして画面に現れたのは。
北條先生。
じゃなかった。この人こそ先生じゃない。それに今は哉の兄貴と結婚して苗字が変わって、アレ? でも離婚したんだっけ。よくわからねーや。えーっと、ミサエサン。
『せっかくおもしろいこと教えてあげようと思ったのにー』
本当に出来上がっているのかよっぽどおもしろいことがあったのか、ケタケタ奇声を上げながら笑っている。全っ然、変わってないな。この人。
「で、なんなんですか?」
そう、この人が俺の知る限り最強。この速人が、敬語を使う数少ない人物のうちの一人。
『あ、あのですねっ』
樹理ちゃんからドーゾと言われて、彼女がずいっと画面に近づく。すごいなーアップに耐えられるよ。この子の顔。
『井名里さんが野球部の顧問をするって、そんなにすごいことなんですか? 学校の先生って、部活の顧問とかするのはあたりまえなんじゃないですか? さっき言ったら、氷川さんも何も言わずに電話落としそうになるし………………あの、聞いてます?』
画面の右上に、こちらからあちらに配信されている映像が小さく写っている。こっちのは小さすぎて表情が分らないけれど、多分、あちらがわには、三人分の間抜け顔が、しっかり映し出されているのだろう。わかっていても、身動きが取れない。ああ、こう言うのを金縛りって言うんだ。
最初にその呪縛を抜けたのは速人で、これはもう追い出される前に帰らなくてはならないだろうくらい大きな声で笑いながら壊れた。その声で、やっと俺も止めていた息がつけた。
「冗談だろ? 哉の誕生日はもうだいぶ前に終わってるぞ」
『冗談じゃないですー さっき夏清ちゃんに電話したら、どうしてか、お友達が出たんですけど、確認したらそうだって。間違いないから言いふらしてやるんだって言われたんです。あ、最初の情報は実冴さんのところにその子から電話が来たんですけどっウソじゃないみたいなんです』
なんだか必死だ。
「樹理」
『ハイ』
「こっちから本人に確認するから」
『ハイ』
「とにかく、後ろの人にはその携帯電話を渡すな」
『どうしてですか?』
『もう哉くんの新しい電話番号なら変えた直後から知ってるわよ』
今更遅いわーって、うしろから、高笑いが聞こえる。気の毒にな、哉。
「多分間違いないだろう、確認した返事は迎えに行ったときするから……」
『ダメよーん。樹理ちゃんは今日ウチにお泊りだもーん』
『え? え? ええっ!?』
「………今すぐ行く」
ぶち、と携帯の通話を切って哉が立ち上がる。待て待て待て待てっ!
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