やさしいキスの見つけ方

神室さち

文字の大きさ
上 下
120 / 259
AFTER DAYS 終わらない日常

02 草野キリカの視点

しおりを挟む
 
 
 
「げ」
「チョットマチナサイ。ヒト見た第一声がそれかい」
 大学の正門。ココで張ってたら絶対来るだろうからアサイチから待ってた私の労をねぎらうキモチっつーのはないのか? キミタチ。
「何でいるの?」
「あのねぇ学部違っても同じ大学受けたでしょうが」
「受かる気なのか?」
「がー!! もうムカツク!! 掲示板見てきなさいよ」
 どうせココよりずーっとレベルの低い私立、ことごとく滑ったけど!!
「え? 受かったの!?」
 うわ。ナニその心底驚いたような顔。どうせね、一番びっくりしたのは私ですけど。今年は絶対浪人決定のつもりだったですから。
「エイプリルフールはまだ先だぞ?」
 …………
「もう一回確認してきたら?」
 なんか、もう、ホントに。見間違いかもとか思えてきた。ちくしょう。
「ほらっ! 一緒に行くよ!!」
 離したらそのまま逃げられそうだったから、がっしり腕組んでお互い一緒に番号確認。
「あ。ホントだ。あるね」
 私が持ってる控えにある番号を掲示板に見て見つけて、納得したみたいにカスミがつぶやく。カスミの方は自分の番号がないなんてこれっぽっちも思ってない上に、この広い掲示板、見上げて二秒で自分の番号見つけたんだよ。そう言う部分のカンってすごいんだ、この子は。
「でしょう!? ヒトのことウソツキみたいに言わないで下さい」
 全くもう。
「ごめんごめん。でもすごいじゃない。第一志望だったんでしょう?」
「うん。ま、私立は受かっても行くなって言われてたからねぇ」
 ヒドイ親でしょ? 三つ上のねーちゃんなんか都内の私立女子短大行かせてたくせに私には、三つ下に妹、そのすぐ下に弟がいるから、オマエにばっかりカネかけてらんないからって。ねーちゃんにかけられるカネがどーして私にはかけられんのだ。クソオヤジ。
 女は四大行かなくていいなんて、いつの時代の人間だよ。
 国立だったら行ってもいいっつったのは、絶対受からないって思ってやがったんだよ。ザマーミロ。
「うれしい? やっぱり。私もね、学部違ってもキリカと同じ大学ってのは結構うれしいよ」
 親父との勝負の勝利に握りこぶし作って邪悪に笑ってたら、にっこりこっちは天使かもってなくらい清らかに笑ってカスミが言う。ぐは。毒気抜かれる。
 普通、勉強がよくできる人って、自分よりはるかに程度の低い人間が同じ学校とかに受かっちゃうと、言葉にしなくてもなんとなくイヤな顔とかするのに、ホントに心の底から喜んでるよ、この子。そういうとこ、好きなんだけどさ。
 しかし。目立ってるなー先生。
 でかいって便利ね。入学手続きの用紙をもらって、いろんな勧誘に引っかかるカスミをその都度人垣から引っこ抜いて正門に帰ると、そこそこの人ごみなのにすぐわかるよ。ウチのダンナもアレくらいあったら見つけやすいのに。
「先生先生っ! キリカのあったよ。見間違いじゃなくて」
 第一声がそれか? 自分のは言わなくても分るってか? ああ、分るよね、大学の封筒持ってるもの。
「用が済んだし帰るぞ」
「あ! ちょっと待って」
 すたすたそのまま帰る体勢の二人を呼び止める。だから、何のためにココで待ってたと思ってるのよ。
「ハイ。コレ」
 カバンに突っ込んでたけどよかった、よれたりしてなくて。
「なに……これ」
 ナニって、アナタ。
「第一回三年A組クラス会のお知らせじゃん」
 パソコンのプリンタが昇天しちゃって、押入れの奥からプリントゴッコ出して作ったのよ。わざわざ。
「いや、それは分るんだけど……」
 卒業式の四日後だろうが、三十年後だろうが、卒業したあとにするのはクラス会でしょ?
「来なかったら、私、みんなにナニ言うかわかんないから。ゼッタイ来てね。カスミだけ」
 あることあること想像による脚色と尾ひれ手足付きで全部暴露してやる。と言うより、卒業式がぶち壊しになったあの時、質問攻めになりそうだったから、なら本人から直接聞こうって事にして逃げたら幹事させられたんだけど。
「私、だけ?」
 井名里先生が来ると聞きたいことも聞けないから、今回は恩師……なんか抵抗あるなこれ。気色悪い。井名里先生は呼ばない。ってか、今後も呼ぶのか? 三十年くらい経ったら……やっぱり呼ばない気がするわ。
「先生も来たい?」
 渡されたカードの端を握りしめて、封筒落としたことにも気付かないで呆然と立ってるカスミ。
「誰が行くか」
 落ちた封筒拾い上げて、井名里先生が思ったとおりの答え。うん。この人は三十年経っても来なさそう。
 双方の思惑が同じなら、お互い無理することないもんね。
「そうそう、写真持ってきてね。結婚式の」
 実冴さんに聞いたのさ。写真頂戴って言ったら全部この二人に渡しちゃったんだって。実冴さんってああ見えて個人情報のガードは固いんだよね。一緒に撮ったのはあるだろうから、持ってるの見せて、って言っても『本人の了解とってから』ってお答え。
 半分以上脅しじゃないと持って来なさそうだから、ワタクシ企んでますわよ、って顔で笑ってやったらカスミが深々とため息ついて頷いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

恥辱の日々

特殊性癖のおっさん
大衆娯楽
綺麗もしくは可愛い女子高校生が多い女子校の銀蘭高校の生徒達が失禁をする話 ルーレットで内容決めてんで同じ内容の話が続く可能性がありますがご容赦ください

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...