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AFTER DAYS 終わらない日常
02 草野キリカの視点
しおりを挟む「げ」
「チョットマチナサイ。ヒト見た第一声がそれかい」
大学の正門。ココで張ってたら絶対来るだろうからアサイチから待ってた私の労をねぎらうキモチっつーのはないのか? キミタチ。
「何でいるの?」
「あのねぇ学部違っても同じ大学受けたでしょうが」
「受かる気なのか?」
「がー!! もうムカツク!! 掲示板見てきなさいよ」
どうせココよりずーっとレベルの低い私立、ことごとく滑ったけど!!
「え? 受かったの!?」
うわ。ナニその心底驚いたような顔。どうせね、一番びっくりしたのは私ですけど。今年は絶対浪人決定のつもりだったですから。
「エイプリルフールはまだ先だぞ?」
…………
「もう一回確認してきたら?」
なんか、もう、ホントに。見間違いかもとか思えてきた。ちくしょう。
「ほらっ! 一緒に行くよ!!」
離したらそのまま逃げられそうだったから、がっしり腕組んでお互い一緒に番号確認。
「あ。ホントだ。あるね」
私が持ってる控えにある番号を掲示板に見て見つけて、納得したみたいにカスミがつぶやく。カスミの方は自分の番号がないなんてこれっぽっちも思ってない上に、この広い掲示板、見上げて二秒で自分の番号見つけたんだよ。そう言う部分のカンってすごいんだ、この子は。
「でしょう!? ヒトのことウソツキみたいに言わないで下さい」
全くもう。
「ごめんごめん。でもすごいじゃない。第一志望だったんでしょう?」
「うん。ま、私立は受かっても行くなって言われてたからねぇ」
ヒドイ親でしょ? 三つ上のねーちゃんなんか都内の私立女子短大行かせてたくせに私には、三つ下に妹、そのすぐ下に弟がいるから、オマエにばっかりカネかけてらんないからって。ねーちゃんにかけられるカネがどーして私にはかけられんのだ。クソオヤジ。
女は四大行かなくていいなんて、いつの時代の人間だよ。
国立だったら行ってもいいっつったのは、絶対受からないって思ってやがったんだよ。ザマーミロ。
「うれしい? やっぱり。私もね、学部違ってもキリカと同じ大学ってのは結構うれしいよ」
親父との勝負の勝利に握りこぶし作って邪悪に笑ってたら、にっこりこっちは天使かもってなくらい清らかに笑ってカスミが言う。ぐは。毒気抜かれる。
普通、勉強がよくできる人って、自分よりはるかに程度の低い人間が同じ学校とかに受かっちゃうと、言葉にしなくてもなんとなくイヤな顔とかするのに、ホントに心の底から喜んでるよ、この子。そういうとこ、好きなんだけどさ。
しかし。目立ってるなー先生。
でかいって便利ね。入学手続きの用紙をもらって、いろんな勧誘に引っかかるカスミをその都度人垣から引っこ抜いて正門に帰ると、そこそこの人ごみなのにすぐわかるよ。ウチのダンナもアレくらいあったら見つけやすいのに。
「先生先生っ! キリカのあったよ。見間違いじゃなくて」
第一声がそれか? 自分のは言わなくても分るってか? ああ、分るよね、大学の封筒持ってるもの。
「用が済んだし帰るぞ」
「あ! ちょっと待って」
すたすたそのまま帰る体勢の二人を呼び止める。だから、何のためにココで待ってたと思ってるのよ。
「ハイ。コレ」
カバンに突っ込んでたけどよかった、よれたりしてなくて。
「なに……これ」
ナニって、アナタ。
「第一回三年A組クラス会のお知らせじゃん」
パソコンのプリンタが昇天しちゃって、押入れの奥からプリントゴッコ出して作ったのよ。わざわざ。
「いや、それは分るんだけど……」
卒業式の四日後だろうが、三十年後だろうが、卒業したあとにするのはクラス会でしょ?
「来なかったら、私、みんなにナニ言うかわかんないから。ゼッタイ来てね。カスミだけ」
あることあること想像による脚色と尾ひれ手足付きで全部暴露してやる。と言うより、卒業式がぶち壊しになったあの時、質問攻めになりそうだったから、なら本人から直接聞こうって事にして逃げたら幹事させられたんだけど。
「私、だけ?」
井名里先生が来ると聞きたいことも聞けないから、今回は恩師……なんか抵抗あるなこれ。気色悪い。井名里先生は呼ばない。ってか、今後も呼ぶのか? 三十年くらい経ったら……やっぱり呼ばない気がするわ。
「先生も来たい?」
渡されたカードの端を握りしめて、封筒落としたことにも気付かないで呆然と立ってるカスミ。
「誰が行くか」
落ちた封筒拾い上げて、井名里先生が思ったとおりの答え。うん。この人は三十年経っても来なさそう。
双方の思惑が同じなら、お互い無理することないもんね。
「そうそう、写真持ってきてね。結婚式の」
実冴さんに聞いたのさ。写真頂戴って言ったら全部この二人に渡しちゃったんだって。実冴さんってああ見えて個人情報のガードは固いんだよね。一緒に撮ったのはあるだろうから、持ってるの見せて、って言っても『本人の了解とってから』ってお答え。
半分以上脅しじゃないと持って来なさそうだから、ワタクシ企んでますわよ、って顔で笑ってやったらカスミが深々とため息ついて頷いた。
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