やさしいキスの見つけ方

神室さち

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キス xxxx

8-1 真実

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「あーごめんキリカ、アレ持ってる?」
 昼休み、ざわめく教室の中で他の女子と最後の追い込みと言わんばかりに無駄にあがいて問題集を解いている草野に、夏清が小さな声で聞く。
「アレですか。持ってるよ」
「頂戴」
「フツーのでいい?」
「いい」
 言いながら草野が立ち上がって、教室の前の廊下にあるロッカーへ行く。その後ろを憂鬱そうな顔をした夏清がくっついて歩く。
「明日試験なのに、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。生理痛とか、全然ないし」
「カスミが切らしてるなんてめずらしいね」
 ロッカーの扉とお互いの体でナニを出しているのか外から見えないようにしながら目的のものを夏清がポケットに滑り込ませる。
「うん。今月来ないかと思ってたから」
「は?」
「ううん。こっちの話。ありがと」
 礼を言ってふらふらとトイレの方向に向かう夏清を見送りながら草野が苦笑いをする。
「なんか計画的にヤバいことしてるな、あの人たちは」
 
 
 ため息をついてトイレからでたとき、ブレザーの内ポケットに入れた携帯電話ががたがたと震えだす。新城東高校では、禁止はされていないが音は鳴らさないようにという甘い指導だ。なので持っていない生徒を探す方が難しい。
 取り出してみると、発信者は実冴だった。待っていた返事だと直感が告げる。くるりと体を翻してトイレの中に逆戻りして、空いている個室に入る。
「もしもし?」
『あ、夏清ちゃん? 私。今昼休みだよね?』
「うん。大丈夫」
『さっき届いたよ。中身は予想通り。ウチは今夜でもいいけど、どうする? 明日センター試験でしょ?』
「行く」
『……即答したわねアナタ。分ったわ。んじゃこっちでお母さんと親父殿拉致してくるから、そっちも無理やり連れてきなさい』
「オッケーです」
『時間は……八時でいいかしら?』
「大丈夫、うん。今日はさすがに補習もなかったはずだから」
 十二月に入ってから、月曜日から土曜日まで毎日大学入試用の補講が組まれている。草野などは、毎日それに出た後予備校に通うという素敵な受験生ライフにどっぷり漬かった状態だ。補講を受ければ絶対こき使われることが分っていた夏清は出ていない。それどころか予備校さえ模試を受けに行くだけだ。端から見ればどう考えても受験を放棄しているのかという態度だがこの間受けた最終の模試の結果は余裕で合格ラインのはるか上空を行っていた。誰にも何も文句は言わせない。
「いろいろ迷惑かけてごめんなさい」
『いいわよ私は。忙しいといえば忙しいような、ヒマかって聞かれたらヒマって感じだから。今週末もコウちゃんとチビどもはスキーだかスノボだか滑りに行くらしいから今日の夕方から追い出すわ。それよりこの件の片棒担いで結果夏清ちゃんが大学落ちたりしたら、各方面から袋叩きに遭いそうでいやねぇ、それは』
「落ちません。不吉なこと言わないで下さい。あ、予鈴だ。それじゃ、私、先生にメールも入れなきゃならないんで切ります」
 どうしてなのか、夏清の周りの人間達は平気で『落ちる』とか『滑る』とか言い放つ。その筆頭は今会話中の実冴で、彼女については確信犯的にその言葉を選んでいる節がある。次点は公で、彼の場合はただ単に気にしているのだが無意識で使っているのだろう。どっちにしろ抗議しても直らない。
『ハイハイ。じゃあ今夜ね。家族だけにするから、心置きなくやりなさい』
 電話を切って、本鈴が鳴る前に教室へもどる。自分の席についてから、どうメールを入れるか考て、結局『早く帰ってきてね』の後に携帯電話間で使える絵文字を入れるだけにして、送信した。
 
 
「もうとにかくものすごく大事なことなの」
「……お前の受験以上に今大事なことっつーのは何だって聞いてるだろう」
「だからっ! 今日やっとかないと、私、明日普通に試験受けてられないの」
 十九時少し前に帰ってきた井名里を玄関で待ち伏せていた制服姿の夏清が、おかえりあのねと切り出したのは、今すぐ実冴の家に連れて行ってというお願いだった。じたばたと落ち着かない様子で足を踏み鳴らして怪訝そうな顔をする井名里を拝み倒す。
「お願いっ!!」
「……なんか、企んでるだろ」
「………」
 嘆息する井名里を上目遣いで見上げて、夏清が口をへの字に曲げる。
 今週に入ってから、夏清はやたらと機嫌がいい。少し前まで手を伸ばしたら引っかかれそうなくらいイライラした様子で、そのくせがっちりとしがみついて離れなかったり、どう見ても泣いていたとしか思えない顔で夜遅く帰ってきたりしていた。一緒にいても何か別のことを考えているのかボーっとしていることも多かった。
 訳を聞いても決まって『なんでもない。終わったらちゃんと話す』と黙り込んでしまう。後はもうどうやっても何も言わないのだ。実冴が一枚噛んでいるのも分かっていたが、そっちに聞いてもニヤニヤ笑って『知らなーい』とはぐらかされる。なにか企んでいるなと思っても、二人のガードが固いので、何も分からない。
「分かったって、連れてってやるよ」
 今日のコレで今までの夏清の変な行動の意味が分かるのなら、連れて行くしかないだろうと井名里が苦笑した。
 
 

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