やさしいキスの見つけ方

神室さち

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キス xxxx

7-2 恋心

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 夏清。
 


 
 見上げる瞳から涙がどんどん膨れ上がった。また泣かせたことは分かってもどうして、なにが夏清を泣かせたのか分からなかった。
 そのくらい唐突に泣き出されて、生まれて初めてどうしていいか分からなくなった。
 どうしてあげればいいのか、分からなかった。
 逡巡して抱き上げたらそのまましがみついてきた細い腕。嫌だと拒絶されなかったことがただうれしかった。
 小さくて柔らかくて暖かくて、抱きしめたからだがどうしようもなくいとおしくて。けれど何人かいる自分の中の自分が、ほらこれが最後かもとささやくからどさくさにまぎれて撫でるフリしてどさくさで触りまくった。
 ずっとずっと、その髪に触りたかった。手を取りたかった。
 髪を撫でて背中をさする。大切な大切なものをそっと抱きしめる。
 先ほど無理やり泣き止ませた分まで思い切り好きなだけ泣けばいい。泣きたいのならばそのほうがきっと。泣き続ける彼女をとめることができないのだから、泣き止んだとき一人でないように、安心して泣けばいいからと抱きしめた。
 これでもかと声を上げて泣きじゃくる姿と、いつも見ていたクールなイメージのギャップ。彼女の中にこんな幼い部分があるなんて、自分以外誰が思うだろう? 知っているだろう?
 ひとしきり泣いて、泣き止んで、照れたように笑ってごめんなさいという姿もいとおしくて。
 どうして優しいのと問う戸惑いを隠さない揺れた瞳がかわいらしくて。
 初めて知る。
 これが、優しい気持ちだと。
 優しいということ。
 それを気づかせてくれたのは夏清だ。
 自分の気持ちが分かればとても簡単だった。
 だから分かってほしかった。
 夏清なら自分で気づいてほしかった。
 人の心なんて分からない、けれど、名前を呼ばれてうれしかったと夏清が自分の心の中を探るように視線を泳がせた。
 見つめ続けていたら、恥らうように視線を逸らすしぐさ。ほんのりと染まった頬がとてもきれいで、その細い顎を掴んでキスをしたのは本能だった。
 こっちを見てほしい。
 自分を見てほしい。
 その瞳に映るものが自分だけならもっといい。
 柔らかい唇を奪って、全部伝わるようにと祈りながらキスを繰り返した。
 全てを委ねるようにキスを受け入れる夏清に気をよくしたのも事実だったけれど、これはいけるかもと寝室に連れ込めば、さすがにおびえたように腕の中の夏清が体を固めた。
 それなのに、嫌だと言わない。
 必死で受け入れようとするその姿に答えがある気がした。
 急がなくてかまわないのだとなぜか安心した。
 音を立てて変わっていく気持ち。
 こんな恋愛は初めてで、欲望よりも勝る、腕の中のものへの大切な気持ち。
 戸惑いを見られたくなくて、知られたくなくてはぐらかすようにしかできなかった。
 
 
 それまでずっと自分を作って生きてきた。自然に素直に、上手くその気持ちを表すことができなくて、からかうような態度でしか接することができなかった。
 多分、彼女は飢えていただけだったのだろう。優しさに。
 そうやってすがるように自分に全てを許す彼女に、戸惑っていたのだ。だから、確かめたかった。どこまで自分が許されるのか。
 どこまでも必死で、なにをしても受け入れる夏清に溺れて限界を見失ったのは自分だ。
 もっと普通に、確かめるようなことをせずに愛していれば、彼女が嫌な夢を見ることはなかったはずなのに。
 あの時、あの小さな手の震えを、自分は絶対に忘れることが出来ないと思う。
 強く強く握っても、止まらないほど震えた手の冷たさを、忘れてはいけないと思う。
 それでも自分を求めて泣く姿を、死んでも忘れない。
 何度泣かせただろう。
 何度許されただろう。
 何度癒され、安らぐことができただろう。
 何度、これからまた泣かせるだろう。
 ふたをしていた記憶。
 追っていた影。
 昔の自分。
 暗い場所でひざを抱いて一人で泣いていた自分をなかったことにしていた。
 気づいたら、とても簡単なことだった。
 同じにおいのする少女を護りたかったのだ。幼くて何もできないままだった自分自身を救いたくて。
 そして、護られている自分。
 確かに腕の中にあるその細いからだのナカにある無限。
 世界で一番近いもの。
 世界で一番、大切なもの。
 言葉にするとチープだけれど、世界中の誰よりも愛する人に愛されるということ。
 ただそれだけで、幸せだと感じられることは、やっぱり幸せなことで。
 ゆっくりとまどろむように、ふわりと微笑んだまま眠りにつける幸せ。



 与えられるもの。



 彼女に。



 自分に。



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