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ばれんたいん きす
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しおりを挟む果たして。
普通だったよ。うん。ドア開けたらフツーに赤のクロスの上に白のクロスがかかった広いテーブルと椅子が二つ。照明は全部間接。部屋が扇形だから奥に行くほど広くなってるの。奥は全部はめ殺しのガラス窓。窓の外は夜景。山のギリギリに建ってて、すかーっと景色が見渡せる。いつからいたのかウェイターが一人。
「ナニ想像した?」
拍子抜けしちゃって開いてたわ半口。そんな私見てニヤーって先生が笑ってそう言う。ぎゃーもう分かってて説明も何にもしてくれなかったでしょう!?
おいしかったです。なにがって料理。多分フルコース。なんで多分なのかっていうと、フルコースなんて食べたことないからなにがフルコースなのか私の中に比較対象がナイ。デザートはやっぱりチョコレート。ドーム型のアイスとババロアにチョコクリーム塗ってあるの。かかってるんじゃなくて塗りました、ってカンジの。きっとフツーなら物語の中の二人を指してて『まあ、おちゃめさん♪』くらいで済むんだろうけど食べてて複雑な気分。でもやっぱり食べちゃうのね。
先生に聞いたら、ココは全部個室なんだって。完全プライベート。カップル専用ってわけでもなくて、記念日はやっぱりちゃんとしたとこで食べたいけど子供が小さくて人の迷惑になるし、って家族とかも利用できるの。つまりココも、実冴さんご家族御用達のお店。知れば知るほど底なしってカンジで分からなくなるなぁ、あの人。
デザート食べて、ご馳走様をしてお皿が下がる。食後の飲み物は先生がコーヒー。私がミルクティー。
先生ってねぇ車を運転する時はホントに一滴もアルコール入れないのよ。全然飲まないの。多分好きだと思うのに。お酒。だから今日は代わりに飲んでみました。甘いやつ。おいしかったよ。
「夏清」
なんですか?
「手ぇだせ、手」
て?
「じゃなくて、逆」
言われて右手を出してみる。はいって。逆? 左手? 右手引っ込めようとしたら、ああもうって。だからナニ?
「手のひらじゃなくて、甲」
いいながら手を掴んで、内まわし。だって、何かくれるなら手のひらでしょ?
あ。指輪だ。銀かプラチナの細いリングに、水色の石。するするーって薬指。うわぁ確かに、これは手のひらより甲のほうがサマになるよねぇ
「これって給料の三ヶ月分?」
「お前ね、いくら安月給でもさすがにコレの三倍はあるぞ」
やっぱり? それでもけっこうなお値段だけどね。
「そっちは卒業してからだな」
「うん。ありがとう。でも私、もらいっぱなし? ニッポンのバレンタインなのに」
家にあるのは別にして、この服も、ここも、指輪も。
「その服はオプションだろ。飯は食いに出るつもりだったし、ソレは……」
ソレってこの指輪? これはなに?
「…………クリスマスからあったし」
「な!? なんですかそれ!? じゃあ二ヶ月近くこの指輪はそのポケットの中で眠ってたってこと!? なんでもっと早くくれないのよ!?」
「お前がいらないとか言うからだろう。おかげで渡すタイミングなくしてずーっと気になってたんだぞソレ!!」
うわ、また人のせいにするよ。ヤな感じぃ。あの時は私の夏のわがまま聞いてもらったからなんとなく断っただけじゃない。ほしかったわよそんなのなら!!
「いらないなら返せ」
「やだ」
ホントにとられそうだったから慌てて左手で覆って、隠す。だめ、絶対返さない。
にらめっこして、結局私が先に笑って、つられたみたいに先生が笑う。
「そろそろ帰るか」
一息ついて、先生がそう言って立ち上がる。うん、もう帰る。
あれ?
「うわ、危なっ!!」
「きゃ」
不覚。私が悲鳴あげるより先生のほうが速かったよ。
しまったわ。忘れてた。私、いつもよりも地上から十センチくらい高いところにいるのよね……はーびっくりした。
「あの、もう平気だけど?」
こんなにべちょーってくっついてたら、逆に歩きにくいです。
「ふーん」
うわっ!なんでいきなり離すの!? というより、ほらこけろ、みたいな感じで体離されたら反射的にしがみついてしまうわけで。あわててバランスとろうとした私を見て笑ってるのよ。
「ほらな?」
むかつくーひどいわ。いいわよ。くっついてぶらさがってやる。
「ほんっと、おもしろいな、お前」
先生、触ってるとこ腰じゃなくてお尻だよ。人がくっついてるのいいことにドコ触ってんのこの人!?
それでも、スタスタ……じゃなくてゆっくり。私に合わせてちゃんと歩いてくれてるんだけど、ぎゃーもうホントに人がいるから大声出せないの知ってて撫でてるでしょう!? 恥ずかしくないのかしら。
いつもね、あ、かっこいいな、って思ったあとがコレ。なんかもー……全っ然、締まらないよ……
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