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ばれんたいん きす
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しおりを挟む「自分さえ知らない自分に気付くってことは、当人にとっていいことばっかりじゃない。でも一生気付かないよりはマシだな。進んだ道が正しいか正しくないかなんて人間死ぬまでわかんねーんだから、いまの自分にとって最善の道を取るしかないだろ。結果ヤツはああなって、家族からも勘当されて。でも無理して男やってたときよりは、ちゃんと生きてる感じがして俺は今のヤツの方がいいな。神崎は今でも怒り狂ってるけど。女がキライだったんなら人のモン獲ってんじゃねぇって」
ほら、笑えない。
「……先生も、彼女獲られた?」
「俺か? 居ないもん獲られるわけねーだろうがよ」
「ちょっと待って先生、中学高校六年間彼女の一人もいなかったの!?」
「お前、今ものすごくひどいこと言ったぞ気がついてるか?」
ごめん、言ってから気付きました。
「…俺の場合は女が、って言うより人間が嫌いだったからな。その頃は」
「その頃は、じゃなくて今もでしょ?」
「今は嫌いじゃないな。かといって好きでもないけどな。他人は他人だってわかっただけだよ」
うーん。先生を変えたのもやっぱり実冴さんなんだろうか? だろうなぁあの人、無駄にパワーあるもの。
「そんな難しい顔するなよ。お前のことは好きだから」
うわぁ。どうしてそんな言って欲しいことさらっと言っちゃうんでしょうかこの人は。
でもでもやっぱり。
「先生を変えるのは私がいいなぁ」
私を変えるのが先生なら。
きっと笑ってるよ。いつもみたいに。
言ってからめちゃめちゃ恥ずかしくて先生のほう見ないで窓の外見てるから、想像だけど。
話をしてたから気付かなかっただけど、今ものすごく山の中じゃない? 街灯も少なくて、対向車もなくて、真っ暗な道。今住んでるところ、私がいた町より都会だけど、北條先生が住んでるとこより田舎。ちょっと走ったら田んぼあるし、こうやって山があるし。ってか、ドコ連れて行かれるんですか?
「先生、ココドコ?」
「ん? 山の中」
分かってるわよそんなこと…
「安心しろ、もう着くから」
先生がそう言ったのと同時くらいで、カーブの向こうが明るくなった。広い駐車場が、橙色のライトで月の中みたい。その奥に、お菓子みたいな建物。壁がチョコレートみたなレンガ。屋根がビスケットみたいなの。
んで、看板に『RESTAURANT WILDCATHOUSE』
ゴメンナサイ。帰っていいですか? 見た瞬間回れ右しかけた私の腰掴んで先生が笑う。これで玄関に『どなたさまもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』とか…………本当に書いてあるし。ガラス戸に金文字で。ぎゃーもう私、やせてるしきっとおいしくないから帰っていいですか?
「大丈夫だって、普通のレストランだから。こないだ話してて思い出したんだ。聞いたらキャンセル出て空いてる席があるっつーからとってみた」
いいながら先生が玄関を開ける。半円形の部屋になってて、カウンタに紳士が一人。その後ろにドアが……七つ? 三階まであるから合計二十一室。
いらっしゃいませ、って紳士が言う。先生が名乗ると、金色のタグがついた鍵が一つ。ホントにココ普通のレストランですか? 違うこと目的にしたとこじゃないですか? え? 上着取る?あとで木の枝に引っかかってるとか、そう言うオチ期待していい? ってかできればそのオチがいい。今考えてる最悪のシナリオよりはそっちのがいい。
「ほれ、何してんだ。行くぞ」
ちょっと待って。このミュール、歩きづらいんだから階段一人で昇れないと思うの。
差し出された腕に掴まる。先生の持ってるキーのタグには202。つまり二階。よかった三階じゃなくて。じゃなくて!! ドア開けたらいきなりベッドとかあったらミュール脱いで走って帰ってやる。
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