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ばれんたいん きす
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しおりを挟むかかと高いミュールは歩きづらいし、ガーターベルトはなんかごわごわするし。
知らなかったわよ。カーターベルトのあの紐のとこ、下着の下になるのなんかっ! あーもう、歩くたび動くたびに変。店員さんが『慣れたら平気よ』って言ってたけど、慣れたくないです。あんまり。この感触。
お店から車に帰るだけでなんだかもう疲れた……
しかも。右前にスリットが入ってるの。立ってたら全然分からないけどざっくり。ストッキングの一番上のレースのとこが見えるくらいの位置までっ!! しかもここ、一番上のゴムが強くなった部分だけなんで赤いの!? 全体はところどころダークな赤が入ってるものの黒いのよ? しかもすごい微妙な色なの。真紅なのに明るい色なの……アズキ色じゃなくて。えーっと、トマトケチャップみたいな色。黒とのコントラストがもう自分でがっくりくるくらいいやらしいカンジ。
スリット。車に乗って押さえてないとなにげに座ってるだけで広がるのよ。ぎゃーもうなに? ドコ触ってんのよぅ!! 確かにこの車、オートマだから左手お留守になっても平気だろうけど、頼むから両手でハンドルもって。オネガイ。
パンストもミュールもオマケしてもらっちゃった。パンストはともかく、ミュールは高そうなのにあの人ヘーキでしたよ。
帰り際に今度はゆっくり一人で来なさいって言われちゃったよ…どうせ全部先生にツケたらいいからって。
「ねぇ先生」
「なんだ?」
「間違ってたらとっても失礼なこと聞いていい?」
「どうぞ」
「あの人、店長さんって」
「あ、わかったか。元同級生だ。今は女だぞ」
うわ。やっぱり。前に男子校だったって聞いたから、同級生ってことは当然男。だってローヒールのパンプスで先生と身長つりあう女の人は、いないと思うよ。
「アレも実冴に人生狂わされて道踏み外したクチだからな」
せんせい、『も』って……『も』って……他にもいるんですかそう言う人……言葉にしなくても伝わったらしくて、信号待ちでこっちに見てニヤリって。いいです。怖いからあんまり聞きたくない……
「昔はモテたぞ。女に」
だと思う。性別変わってもきれいな人って、土台からきれいだもん…きっと美少年だったことでしょうよあんな美人。
「しかも変なクセがあってな、彼氏持ちにしかモーションかけないんだ。女が落ちたらゲーム終了。先輩後輩同級生、昨日の親友のまで獲ってたからな。で、大抵ド修羅場。ヤツにだけは彼女ができても見せるなってのが仲間内の暗黙の了解。かわいくてもそうでなくても、彼氏がいる、ってだけでヤツの守備範囲。この前逢った神崎っていただろ」
「理右湖さんと桜ちゃんと椿ちゃん」
「じゃなくて医者」
知ってて言ったんだってば。うん、先生のことずーっと貶(けな)してたあの人ね。言ってる事は概ね合ってて正しいし、その通りなんだけど、先生のこと貶されるとなんかむかつく。しかもそれが真実だから余計むかつく。
「あいつが最多だな。彼女獲られた回数。中学から高校まで六年で、足の指まで足しても足らないくらい獲られてたんじゃなかったか」
ひー。獲る方も獲る方だけど、獲られる方も獲られる方だ……神崎さんって確かになんか、女の子タラシてたっぽいもんね。
「そんなことやってても女が途切れたことなかったから、アレは絶対女好きだってみんな言ってたんだけど」
けど?
「どっちかって言うとキライだったのかもな。自分がほしくても手に入らないものを最初から持ってる女って存在そのものが。だから男と付き合ってて幸せそうにしてるのを引き裂いてめちゃめちゃにしたいわけ。モーションはやつからかけるけど、告白は女からさせるんだよ。男振らせて。で、しばらく付き合ってポイ。付き合いだすと同時に次の獲物探してるからな」
うわ。サイアク。
「それを最初に見抜いたのが実冴。あの時は笑ったぞ。ヤツに逢って開口一番『アンタ女嫌いでしょ?』だからな」
笑えなーい……笑えないよそれ。
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