やさしいキスの見つけ方

神室さち

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ばれんたいん きす

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「別に俺はジャムでもバターでもはちみつでもいいけど?」
 いいながら、先生の手が服の中に入ってくる。だからなんで、この人こんなに手が早いの?
「却下! 全部ヤダ!!」
 いやーもう!!先生は舐めてるだけでいいだろうけど舐められる側になってみろー!!
「どうしてそんな変態なの? 一回脳みそリセットしてきれいに初期化してみたら? 真人間になれるかもよ?」
「うわ。傷つくな、その言い方」
 うそばっかり。その嬉しそうな顔はなによ? 自分じゃ見えないだろうけど。
 あっという間にあっさりと、背中を這う手にブラのホックなんかとられてる。さわさわ動く大きな手。
「ほれ、手ぇあげろ」
 うう。素直に従ってしまう自分がいや。でもここで逆らったらまた変なことされるもん。前なんかね、言われて動かなかったら服切られたんだよ? 信じられないよホントにっ!!
 人の腰、後ろから両手で掴んで抱えたまま引きずって冷蔵庫の前。こうなったら最後の抵抗。
「お前な」
 冷蔵庫のドアを片足で踏みつけて……横にだけど……開かないようにしてみる。
 ふっふっふ。これで開けられまい。
 ニヤリと笑って見上げたら。ニヤリって笑い返された。ヤな予感。
「んじゃ氷でいいや」
 いいながら、先生が上段の冷凍庫を開ける。いやうそまじ!?
 開けられた庫内からひやーん、って冷気が剥き出しの肩に下りてくる。
 両手が拘束されてるわけじゃないから、必死で動かして冷凍庫を閉める。
「お前忘れてるだろうけどな」
「な、なにを?」
「夏に作ってた冷凍バナナ、奥にあるぞ、まだ。この際だから……」
「いっやー!! もうバカ変態っ!! そんなことするために作ったわけじゃないわよぅ」
 純粋に、純粋に食べるために作ってたのっ! それを食べ方やらしいとか言うから食べる気失せてそのままになったんじゃない。悪かったわねぇ 私の夏のおやつはちっちゃいころからそれだったのよぅ!!
「ジャムとはちみつと……お、ピーナッツバターあるな。どれがいい?」
 いつのまにか足のほうがお留守になっちゃって、先生が今度は冷蔵庫の方を開けて覗き込む。
 やだやだやだやだ。どれもやだぁ
「俺が決めていいのか? そうだな、わさびとかからしとかは無理として……マヨネーズは?」
 言いながらもう手、伸ばしてるの。
「いやーマヨネーズも甘いものもっ!! 先生、最近おなかの回りとか気にならない? なんかお肉ついてきたなーとか、思わない?」
「思わない」
 ぎゃーもう、さすがに口からでまかせじゃだめか……
 ハイ持って、って。持ってる自分がいや。このまま全部床に撒いちゃおうかしら。ああだめだ。そんなもったいないことしたらもったいないお化けが出てくる。これからの使い道も同じくらいもったいない気がするけど、それをするのは先生だから、お願いもったいないお化け、たたるなら先生だけにして。
 あ、そうだ。
「ねえねえ先生」
 私にマヨネーズ持たせたまま人のジーンズの留め具外してファスナーおろしてるそこの人っ!
「ナニ?」
「えっと、あのね、今日こういうの使わないでくれたら、十四日はちゃんとウチでチョコつくる。約束する」
 むむ。手は止まったけどよしとは言わない。
「じゃ、じゃあね、それのほかに、先生の言うこと一個だけ聞く。その日だけ限定」
 ああ、我ながら不幸の先送りだってことは分かってるのよ。分かってるけどもうホントに、マヨネーズなんかヤダ。
 黙りこんで考えてるよ。多分すごい高速で動いてるよこの人の脳みそ。
 一緒に暮らして分かったんだけど、先生ってめちゃめちゃ頭いいの。なんて言うのか、情報処理能力が高いって言うか、こっちの考えてることとか、次の行動とか、カンじゃなくて計算で割り出してるようなところがある。俺は頭いいんだぞって絶対言わないし、普通のフリしてるけど、普通にしててもいろんなこと考えてるよこの人。
 その使い方間違ってるし、その代わり人のことバカにするけど。
「……しょうがないな。なら今日のところは許しといてやるよ」
 むか。何ですかその言い方。でも言いながら私が持ってたマヨネーズ、ひょいって取り上げて冷蔵庫の上に置いちゃうの。こういうとき無駄に背が高いのって便利よね。
「や、ちょっ……ん」
 するんって右手が下着の中に入ってくる。恥ずかしいけど気持ちいいから、無意識で少し足開いて。触ってってカラダが言ってるのがきっと聞こえてるよ。左の手に髪をかき上げられて、肩にキス。ああ、なんかも、ほんと、流され易いなぁ私。来るべき日の対策を練らなきゃならないのに、全然アタマまわんなくなってきた。
 んー。ま、バレンタインまでもうちょっとあるし、いいか、今考えなくても。
 首を真横に回されて顎を上げられて、ちょっと苦しいキス。
 つづき、ベッドの上の方がいいなとか言っても絶対聞いてくれなさそ。
 ホントもう、こう言うのさえなかったらもっともっといいのにな。
「ん、ふ」
 キスと、手の動き。それだけでダメになっちゃうの。ああ、ダメになりそう、って思ったらそのままダメになっちゃわないとダメなの。うー……わけわかんないな。自分でも。やっぱりもうダメになってるのかも。先生とするのは好き。気持ちいいのも好き。言わないけど伝わってたらいいな。カラダがスキスキって言ってるの。先生に触られて、音がするくらい濡れちゃうのも。胸がどきどきするのも、その先端が硬くなっちゃうのも。顔が真っ赤になっちゃうのも、目がとろーんってなっちゃうのもみんな。
 どこもかしこもぜんぶ。
 カラダぜんぶ。
 せんせいがすき。


 ためいきがでちゃうよ。


 ああほんと。これでへんたいじゃなかったらもっといいのに。


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