やさしいキスの見つけ方

神室さち

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抱きしめて抱きしめて抱きしめてキスを交わそう

5-3 家

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「違わないだろ? 乳首勃ててるのも、ココべたべたにしてるのも夏清だろ?」
「ちが、うもん……せん……せーが、やらしーコト、するからだ……もん」
 肩で息をしながら、夏清が訴える。
「あっくぅ……や……もっきゃあんっ!!!」
 刺激を受けすぎて触られるだけでびりびりした快感を送ってくる、一番敏感な肉芽と乳首を同時にひねられて、夏清が悲鳴をあげて、一拍後にがくがく体を震わせる。それでも許さずに、井名里はナカに指を進入させて円を描くようにかき回す。
「誰がって? 渡辺サン?」
「あっあンッ!! やっ! んはっ!!」
 意地悪く問い返されて、夏清の中にほんの少しだけ残った正気の部分が、呼び間違えたことを知らせても、もう悲鳴と吐息以外出てこない。
 押し寄せてきた快感の波が、その水位を戻すことなく攻めたてる。おぼれそうになって、夏清がのどをそらして声をあげた。
 ごめんなさいと許しを請うように夏清が顔を上げて井名里を見つめる。吐息をもらす唇は半分開いたままで、陶酔した瞳はそれでも必死に井名里を捉えている。長い髪が一房顔にかかった姿は、視神経を通して送られたその映像だけで眩暈がするほど刺激的だ。長く見ているとそれだけでダメになりそうだ。
「ンッふ、はンっく」
 井名里のキスに、噛み付くように夏清が応える。胸元に這う井名里の手をどけようとするためにあった腕が上げられて、不自然な体勢でキスをする井名里の頭にかかる。細い指が、髪の間を這う。
 シャンプーなどが置かれているラックの最下段にあるプラスチックのケースを開けて、井名里が手探りで中のものを取り出そうとして。
「最っ悪」
 唇を離して、がっくり夏清の肩に顔をうずめて井名里がつぶやいた。
 いきなり途切れたキスにびっくりしたような顔をした夏清が、井名里が手を伸ばした場所を見て納得する。
 修学旅行後『お話し合い』の結果、安全日であろうがなかろうが、避妊をする、と言う事で二人とも納得した。そのあとも数え切れないくらいしてきたが、井名里はちゃんと約束は守っていた。その結果、家中いたるところにそれが置かれている。
 で、風呂場に常備されたそれは、しっかり空になっている。
 そう言えば、休みの間使うだけ使って補充した記憶がない。
「……あの、別に、一回くらい、いい……けど?」
 残念そうにしている井名里がかわいそうになったの半分、自分が放りだされた不満半分で、夏清が提案するが、夏清の髪に顔をうずめたまま井名里が首を横に振る。
「自分の危険日くらい覚えとけよ……」
「………」
 どうしてそんなことしっかり把握してるんだろうかと、夏清が怪訝な顔をしていると、がばりと起き上がってシャワーに手をかけ、湯をだして夏清にかける。
「うきゃーん」
「すぐあがって続きするぞ続き!!」
 夏清の髪と体に残ったトリートメントやボディーソープを洗い流して、強引に風呂から上がろうとする井名里を夏清が止める。
「な! 先生全然洗ってないじゃない」
「いい! どうせあとから入る!!」
「やーん。今日はもうこれ終わったら寝ようと思ってたのに」
 夏清の抵抗などものともせずに、夏清ごと脱衣所に戻って、バスタオルで巻いてそのまま自室に連れて行く。
「やだやだやだやだ!! もう、せっかく今日の先生かっこよかったから、おとなしくしてようと思ったのに!! これじゃいつもと変わらないじゃなっ!! んっ」
 言葉がふさがれる。いきなり現れた井名里の顔が軽いキスのあと遠ざかっていく。
「んもー」
「もう一回言って。今日どうだったって?」
「もう言わない!! 絶対言わないもん。タイムマシンあったら、そんなこと思っちゃいけませんって過去の私に忠告する!」
 力の限り抗議したのに、逆に井名里を喜ばせていることに気づいた夏清が意地になって否定する。
 助けてドラえもん、とでも言いたげに夏清がじたばたしながらわめく。
「うわ。小憎たらしいこというなぁ」
 ベッドにおろした夏清にのしかかり、引き出しから取り出したコンドームの袋を咥えて破りながら井名里が笑う。
「もう全然かっこよくなんかないもん! えっち、すけべ。へんたい。いじわる! 自分のクラスの生徒にくらいいい成績つけてよバカ! 二学期は絶対中間も期末も小テストも満点とってやるんだから!! 今度九だったら教育委員会に訴える!!」
 今までおとなしくしていた分がプラスされてアクセルいっぱいエンジン全開で関係ないことまで持ち出して文句を言いつづける夏清に対して、余裕満面といった様子の井名里。
「寝る! おやすみ」
 何を言ってもびくともしないで笑って聞いている井名里をにらんでから、夏清がそう言ってバスタオルを蓑虫状態で巻きつけて体を丸めて横を向き、目を閉じる。
 なんだかもう、なにをやっても、いいように遊べる。眉間にしわが寄るくらいぎゅっと目を瞑って、体にも変に力が入っているのがわかる。大体、寝ると宣言しなくても眠くなれば勝手に寝るくせに何を言っているのだろうか。
 眉間のしわにひとさし指を当ててぐりぐりほぐす。その感覚に夏清の口元が緩んでくる。そのまま親指と中指で鼻をつまむ。しばらく唸りながら耐えようとしているが、すぐに限界が来て丸めていた体を動かして目を開ける。
「はー……もう殺す気? うっぎゃー!! 横暴! 返し、て……よ……」
 セリフ半ばで井名里があっさりとバスタオルを剥ぎ取って丸めてどこかに投げてしまう。
 取り返そうと伸ばした腕を掴まれた。こてっと簡単にあお向けに転がされる。
 怖いくらいすっきりと一つだけの感情しか表していない井名里の顔に、瞳に、言葉が奪われる。
「俺は、殺されるなら夏清がいい。どうせ死ぬならお前に殺されたいよ」
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