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抱きしめて抱きしめて抱きしめてキスを交わそう
1-5 友人
しおりを挟む「……教え……え? どうかし…………」
夏清の悲鳴が遠ざかったと同時に、電話が切れてしまう。反射的にリダイヤルしようとした滝本から、草野が携帯を奪い返した。
「反則だよ」
リダイヤルすれば、夏清の電話番号が出てしまう。チャンスは一度だと言ったはずだ。
「だって、なんか変な切れかたしたぞ?」
「ダンナと一緒だったんでしょ」
「はぁ?」
さらっと言い放った草野に、滝本が驚いた顔をしている。
「言ってなかったっけ? 委員長、カレシいるよ」
もちろん言っていないことなど覚えているが、そんなことはどうでもいい。
普通、恋人と一緒にいて、他の男から電話がかかってきて気分がいい男はいないと草野は思う。女も同じだからだ。ましてや電話番号を教えていない相手から、聞き出すために電話がかかってきたとわかれば、問答無用で切られるだろう。
呆然としている滝本に、草野がたたみかける。
「しかもすごい独占欲強いのが。委員長の携帯、男の番号一つもないよ。ここに来てる男子もみんな知らないと思うし、突然教えてもいない人間から携帯に電話かかってきたら、不愉快じゃない?」
「渡辺、カレシ、いるのか?」
「うん。多分ね、二年になってからだと思うけど。どんどん綺麗になってるでしょ? 恋をしたら女の子は可愛くなるからねぇ 委員長はもとが悪くないのに地味だったから」
草野が頷いて、オヤジのようなコメントを付ける。
「明日から旅行行くらしいよ。修学旅行で行けなかった分カレシと行くんだって」
「旅行……って……泊りで? 二人だけでっ!?」
つまり、美容院に行って髪を整えたのも、その旅行のためなのだと、滝本でさえ気づいた。
「神戸に日帰りはキツイでしょ? それにいちゃいちゃしにいく旅行にどーして他の人連れてくの。二人で! に決まってんじゃん」
ワザと「二人で」の所を強調して言っておいて、ご愁傷様、と言わんばかりに草野が哀れみいっぱいの視線を滝本に向ける。
「滝本君さ、一年の時も委員長と同じクラスだったんでしょ? もっと早くツバ付けとかないとダメだって。今日来た男どもも、綺麗になってからじゃ遅いんだよ。まあキミタチにそこら辺、分かれって言っても無理ですな。まだまだお子様だし」
魂が半分どこかに行ってしまったような様子の滝本の背中を、草野が力の限り何度も叩く。
「ほらほら! 通夜みたいな顔してないで。ぱーっと歌えぱーっと! 終電までまだ三十分ある! 大丈夫だ!!」
回ってきた本を滝本に押し付けて、無意味に明るく草野が笑った。
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