やさしいキスの見つけ方

神室さち

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抱きしめて抱きしめて抱きしめてキスを交わそう

1-4 友人

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 結局、全員実冴におごってもらった。井名里が大量にアルコールを摂取していたのは、帰りは彼女の運転と言うことと、最終的には実冴がおごってくれることを見越しての事だったらしい。
「先生……重い……」
 マンションのエントランスから部屋まで、酔って覆い被さる井名里から離れようと、夏清が足を速めるが、ずっとコバンザメのように井名里がついている。いや、大きさから言って夏清のほうが付属品のような印象だ。
 リビングに着いた時、夏清の携帯電話が鳴り出す。着信設定でメロディを変えているのは井名里と北條、実冴の電話だけだ。色気のないぴろぴろという電子音はその他から。
「あ、草野さんだ」
 修学旅行の一件のあと、クラスのほとんどの女子と携帯の番号と、アドレスを交換している。その後、こちらから返事を出さなくても、誰かから他愛のないメールが毎日入ってくる。
「もしもし? あれ?」
 井名里をくっつけたまま夏清が電話に出ても、いつものようにやかましい草野の声が聞こえない。代りに、カラオケボックスの中なのだろう、ざわついた気配が音になって伝わる。押し間違いかと思って切ろうとした時、名前を呼ばれて再び携帯電話を耳に当てる。
「……滝本君?」
『あ、わかった?』
「でもコレ、草野さんのだよね?」
『渡辺の番号教えてくれって言っても渡辺に聞いてからじゃないとって。ばんごう』
「え? 携帯の? 〇九……うわっちょっ……返してっ いやー」
 うしろから井名里に電話を取り上げられて、夏清が悲鳴を上げる。なにも言わずに井名里が電話を切って、さらに電源も切り、そばにあった冷蔵庫の上に放り投げる。
「なっ!!」
 抗議しようと夏清が体を離し、向き直って井名里を見ると、なんだかものすごく、怒っている。顔が怖い。
「お前なぁ 俺の前で男に番号教えるか?」
「お、男って、滝本君はクラスメイトでしょう? 別にそんなんじゃないわ。用がなかったらかかってこないだろうし……同じクラス委員だから何か緊急の連絡だってあるかもしれないでしょ?」
「お前はアホか?」
「なんかその言い方ムカツク。アホはどっちよ!? 勝手に手怪我して、つい先週まで傷ふさがらなくてっ! その間、誰が頭洗ってたと思ってるのよ!?」
「夏清」
「それにっ! 私が残してたプリン勝手に食べたし!!」
「いつの話しだ!?」
 修学旅行の次の週の月曜日、朝早く登校した夏清が教室に入ると、いつも遅刻ギリギリの草野以下クラスの女子がすでに来ていた。
 どうしたのと聞いた夏清に、草野が渡してくれたのは、緑色の小さな紙袋。
 これ、女子みんなからのおみやげ。と。
 中身は『神戸プリン』でさしあたり高価な物ではなかったけれど、先に帰った夏清にとみんなでお小遣いを出し合って買ってくれたのだ。
 ありがとうの一言しか言えなかった。胸がいっぱいになって、泣きそうなのをこらえるので精一杯だった。そう言えば中学の時は、全く行かなかったのに、誰もこんな風にしてくれなかった。
 感動で言葉の出ない夏清に、クラスの女子たちの質問が矢のように降り注ぐ。電話をしていた相手のことを聞いてもはぐらかす夏清に、彼女たちは早々にその話題を諦めて、夏清を連れて帰った井名里の話になる。
 大丈夫だった? なんかされなかった? と聞かれてやっぱりあいまいに笑って否定する。さすがに服を買ってもらって自分からキスしましたとは言えない。
 そう言えばやっぱりこの時も『夏清を連れて帰ったのは井名里の嫌がらせ』説が流れた。あとで井名里に聞くと保健医の塩野に頼まれたからだと言っていた。断る理由がないどころか、ありがたい申し出だったので、少し考えるフリをして、承諾したのだそうだ。
 一日早く帰って来た二人に、と言うより井名里に、修学旅行は一生の思い出になるもんでしょうが! それをアンタの都合で連れて帰ってくるなんて。と実冴がまたえらく怒っていたが、北條は元気そうな夏清を見て、なにも言わずにお帰りと言ってくれた。
 一方的に責められ続けている井名里がだんだん気の毒に見えてきた夏清が井名里だけのせいじゃないと助け舟を出そうとしたら、実冴が、コイツはね、自分が飛行機乗りたくないから帰って来たに決まってんのよと井名里を指差して言いきった。バツが悪そうに明後日の方を見ていたところを見ると、本当に飛行機が苦手なのだろうということがわかって、夏清は久しぶりに声を上げて笑ってしまった。
 そんなこんなで。四つあるプリンのうち、一つは夏清の意思で井名里の胃袋に収まった。残りの三つはちゃっかり自分ひとりで食べるつもりだったのに、どうして二つも食べられなくてはいけないのだ? 夏清のなのに。
 夏清に涙目で見上げられて、さすがに勝手に食べたことは悪かったと思っている井名里が黙り込む。そのまま三秒。
「わかった。明後日好きなだけ買ってやるから」
「ほんと!?」
 諦めたようなため息をついて、井名里が折れる。すると、先ほど確かに浮かんでいた涙を完全にひっこめて、夏清が嬉しそうに笑っている。
 修学旅行後の一ヶ月あまり、三日と空けずにものすごく些細なことで口論をしている。七対三の割合で夏清が折れることのほうが多いが、泣き落せば井名里が折れることを学習したらしく、絶対に引きたくない時夏清は泣きマネをするようになった。
「いい度胸だな?」
「いひゃい、やめへ」
 ほっぺたをつままれて夏清が抗議する。
 そのまま笑って、顔が近づき、キスをする。
 井名里の唇に残ったアルコールの苦味が、夏清に伝わった。
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