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嵐の前の静けさ
全然、これっぽっちも、望んでない!!
しおりを挟む湯船も、俺と柊也で一杯一杯だし、洗い場も似たようなモン。だからか、後から入ってきた藤也が先に頭とか洗ってる。
「そんな隅っこにいないで、もっとゆっくりしたらどうですか?」
「ヘンなことされるからヤだ! コラッ! 足、絡めんなっ」
浴槽の縁をぎゅーっと掴んで、湯船の端で体育座り状態の俺に、変なことってこういうことですか? とか言いながら、俺がいるのと反対側の縁に背を預けた柊也が長い足を伸ばして来る。変なトコ突っ込むなー!!
「暴れてっと逆上せんぞ?」
ふぎゃーと、濁って見えないお湯の中、どこから来るかわかんない柊也の足を、バチャバチャ湯を蹴立てて牽制(けんせい)してたら、さっさと頭まで洗い終えたらしい藤也が、濡れた髪かきあげて言う。
「顔真っ赤。ほれ、洗ってやるから上がってこい」
「ヤ、だ! 自分で洗うッ! 藤也は入ってればいい」
「無理だろ、俺と柊也は無理だって。さすがに遠慮するわ。ガタガタ言ってないで上がって来ないとお望みどおり悪戯すんぞ? 柊也が」
「ひやああああああ」
望んでないッ! 全然、これっぽっちも、望んでない!! 足だけで俺にちょっかい出してた柊也が、あの片方だけの笑みを浮かべながら手を伸ばしてきた。
この魔手から逃げなきゃ!! って……勢いよくお湯から出たものの、結局逃げた先もあんまり変わらない。
えーっと、なんだっけ。前も後もケモノがいたって諺。アレっぽい。
「あ。う」
逃げ場は!? ない。だって、藤也の背中の向こうだもん。脱衣所へつながってる、真ん中で折れるタイプのドア。
「ハイハイ向こう向いて座ってー まず頭からなー」
藤也がさっきまで自分が座ってたお風呂用のイス、洗い場の真ん中あたりに出してきた。それでも逃げ場を探してきょろきょろしてた俺を強引に座らせ、頭のネコ耳はさすがに取って、シャワーをかけられる。
痒いとこないですかー? とか言いながら、シャンプーを泡立て、藤也が俺の頭を洗う。
長くて太い指が、痛くない程度に力強く頭皮をマッサージしてて、正直、結構、気持ちイイ。かも。
シャンプーを流して、コンディショナーもつけて流したら、自分で洗うよりすっきりさっぱりした感じ。そう言えば昨日、頭洗ってなかった。
「気持ちよかったか?」
「ん」
エロいことじゃないから、素直に頷いとく。
「そうかそうか。んじゃ、俺と入ろっか」
「へ?」
入ってんじゃん……って言い返すより先に、藤也の左腕が俺の左わきから入ってきて、長い腕が右わきを抱える。くすぐったくて身を捩っても、がっちりホールド。びくともしねぇよ。
交代ってことなのか、ぺちって、兄弟でタッチして、柊也が出てきて、俺ごと藤也が湯船に浸かる。
「はーなーせえぇぇえええ」
「イヤー」
左腕は、そのまま。右腕が俺の右腕もまとめて腹の辺り、両足も、絡められて動けない。
動くのは、左手だけ。
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