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愛し君へ
36 side樹理
しおりを挟む結論として、瀬崎はため込んでいた有休と、年末年始の休暇もフルに使って、年が明けるまでニューヨークを満喫して帰っていった。
しかもその間、ほぼ毎日、病院に顔を出していた。表向きは哉のご機嫌伺いだが、どちらかと言うとほぼ半年、密室に軟禁状態の樹理に日本の状況などを色々話してくれていただけなのだが。
今回の渡米にあたり、その目的から知人から瀬崎とは面識のない人たちまで、運ぶのは他人だと思っているに違いない量の『手土産』を託されての面会で、彼がまず持ってきたのは色とりどりの安産祈願のお守りだった。
とにかくみんな、話を聞いてとりあえずこれだけはと思ったのだろう。同じ神社の色違い色被りはもちろん、場所も関東だけでなく、どうやって手に入れたのか、北は北海道、南は沖縄。
御大層に桐の箱に入っていたりするから嵩張ってすごいことになった。お守りの他にもわざわざ祈祷を受けてきたらしきお札や犬のぬいぐるみ型のもの……こんなにたくさんあっては神様同士ケンカするんじゃなかろうかと言うほどの量だ。そもそも日本の神様のお守りがアメリカでも効力を発揮するのか。
そんな神頼みのものから、日持ちしそうな菓子や役立ちそうな雑誌など、荷物になるが、邪険にするわけにもいかなくて、瀬崎は律儀に全部持ってきてくれたらしい。
もちろん、樹理に宛てた手紙などもたくさん入っていて、それらは大いに樹理を喜ばせた。
そして、哉の暫定四月からの会社復帰を取り付けて帰還していった。
「なんか、静かですね」
「元に戻っただけだろう」
年号が変わり、三十五週目に入って、胎児はやっと二千グラムを超えたくらいまで成長した。少々小さめだが、一応の目安は越えたと両国崎もエコーを見てほっとしていた。
いつ生まれてもいいと言うわけではないが、ここまで来たら一安心と言うことらしい。
ただし、出産は普通分娩ではなく帝王切開。胎盤剥離などの異常が出なかったのが不思議なくらいの状態とのことで、できれば二千五百グラムを超えるまで持ちこたえたかったが、子供の成長具合と子宮の状態を見て少々早目ではあるが、明日、帝王切開手術をすることが決まった。
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