幸せのありか

神室さち

文字の大きさ
上 下
288 / 326
愛し君へ

10 side琉伊

しおりを挟む
 
 
 
 とにかく、当時『できちゃった婚』などと言う言葉がはやりだした頃で、一種トレンドとも言えて、眉をひそめる年配者はいても、おおむね受け入れられていたと思うのだが、先頭切って受け入れることを拒否したのは、当然あの人だ。


 琉伊は他にも、当人には到底告げられない、ぐちぐちと実冴の事をあげつらう母の愚痴を聞いていたので、そのダブルスタンダードっぷりに指摘したいと言う点では心底同意してしまう。


 そして琉伊は、あっさり妊娠したものの、腰が細すぎて子供が出てこないからと、ぽーんと帝王切開で産んだのだが、子供はちゃんと産道を通して産まなくてはちゃんとした親になれないなど、それはもう散々に言われた。


 世の中の帝王切開の人を敵に回したいのかと問正したいが、当人は筋の通った説教をしているつもりだから性質が悪いし、元よりそこまで考えての発言ではないのはわかりきっているので口には出さなかった。


 何にでも、何かしらのいちゃもんをつけなくては気が済まないタイプなのだと悟ってからは、それさえどうでもいいようになった。



『んー どうしよっかなぁ 哉君次第だけどやりたいようにやっていいのね?』

「それはもう、思う存分に。できれば父も目が覚める一撃を。喉元過ぎれば熱さ忘れるじゃないですけど、そろそろ一回締めないと」

 このタイミングで父まで哉の機嫌を損ねたら、氷川としての損失は計り知れない。


『うふふー じゃあちょっと派手目にやっちゃおうかしら』

「いえ、できれば地味目にお願いします。お義姉様の本気は斜め上なので」

『ホントあなた、イイコよね』

「お褒めに預かり光栄です。では、よろしく」


 『イイコ』の意味を正確に受け取りつつ応じた琉伊に、実冴が楽しそうに笑ったのち、じゃあねと電話が切れる。
「さすがに会社の経営状態が悪くなると、ウチの人の商売にも影響するからなぁ。ほどほどに……してはもらえない、か」


 ふーっと息を吐いてから、ふと、フロントガラス越しに空を見上げる。



 空は『天』なのに、どうして『底』抜けにまぶしいとか言うのかしらねと、とりとめのないことを考えつつ、エンジンを始動させた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

現在の政略結婚

詩織
恋愛
断れない政略結婚!?なんで私なの?そういう疑問も虚しくあっという間に結婚! 愛も何もないのに、こんな結婚生活続くんだろうか?

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...