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愛し君へ
10 side琉伊
しおりを挟むとにかく、当時『できちゃった婚』などと言う言葉がはやりだした頃で、一種トレンドとも言えて、眉をひそめる年配者はいても、おおむね受け入れられていたと思うのだが、先頭切って受け入れることを拒否したのは、当然あの人だ。
琉伊は他にも、当人には到底告げられない、ぐちぐちと実冴の事をあげつらう母の愚痴を聞いていたので、そのダブルスタンダードっぷりに指摘したいと言う点では心底同意してしまう。
そして琉伊は、あっさり妊娠したものの、腰が細すぎて子供が出てこないからと、ぽーんと帝王切開で産んだのだが、子供はちゃんと産道を通して産まなくてはちゃんとした親になれないなど、それはもう散々に言われた。
世の中の帝王切開の人を敵に回したいのかと問正したいが、当人は筋の通った説教をしているつもりだから性質が悪いし、元よりそこまで考えての発言ではないのはわかりきっているので口には出さなかった。
何にでも、何かしらのいちゃもんをつけなくては気が済まないタイプなのだと悟ってからは、それさえどうでもいいようになった。
『んー どうしよっかなぁ 哉君次第だけどやりたいようにやっていいのね?』
「それはもう、思う存分に。できれば父も目が覚める一撃を。喉元過ぎれば熱さ忘れるじゃないですけど、そろそろ一回締めないと」
このタイミングで父まで哉の機嫌を損ねたら、氷川としての損失は計り知れない。
『うふふー じゃあちょっと派手目にやっちゃおうかしら』
「いえ、できれば地味目にお願いします。お義姉様の本気は斜め上なので」
『ホントあなた、イイコよね』
「お褒めに預かり光栄です。では、よろしく」
『イイコ』の意味を正確に受け取りつつ応じた琉伊に、実冴が楽しそうに笑ったのち、じゃあねと電話が切れる。
「さすがに会社の経営状態が悪くなると、ウチの人の商売にも影響するからなぁ。ほどほどに……してはもらえない、か」
ふーっと息を吐いてから、ふと、フロントガラス越しに空を見上げる。
空は『天』なのに、どうして『底』抜けにまぶしいとか言うのかしらねと、とりとめのないことを考えつつ、エンジンを始動させた。
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