幸せのありか

神室さち

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セカイデ イチバン

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「ゲームって、どうして体を動かさないのにこんなに疲れるんでしょうか……」

「アタマは使ってるもんねぇ 脳は活動する為に筋肉より糖の消費が多いからじゃない?」

 樹理のグラスにウーロン茶を注ぎ足しながら、考えるでもなく理右湖がそんなことを口にする。


 夕食を終えて、樹理が作っておいた、様々なツマミはあっと言う間に桜と椿と速人が食べつくしてしまい、コンビニで買ってきたチーズとありあわせの野菜スティックのみがテーブルに乗っているが、酒飲み二人は酒があれば文句はないらしい。約一名何やらヒマそうにしているが、別段普段どおりに無表情だ。


「そういうものなんでしょうか……?」

「ってことはゲームしてたら座ってるだけでダイエットにもなるのかしら!?」

「……素直に有酸素運動した方がいいと思うけど?」

 いいこと思いついたとばかりに、ぱぁっと顔を輝かせる理右湖に、キューブ型チーズの個包装を捲りながらほとんど興味なさそうな口調で速人が答え、がらりと空気が変わるのを敏感に察したのか、慌ててフォローする。


「だってほら、そんなことで痩せられるならゲーム会社が謳い文句にしてるだろ? 『このゲームをするだけで座ったまま劇的簡単ダイエット!!』とか」

「……むむむ」

 そう言われたらそのとおりだ。人間楽して得したい生き物なのだから。


「でも一応、人間って呼吸するだけでもカロリー消費してるはずでしょう? ボケーっと待合室の雑誌読んでるだけでもおなかは空くし。そこら辺どうなの? 速人君……は、聞くだけ無駄か。哉くん、知ってる?」

「……座って読書一時間、平均女性の消費カロリーは約二十七。きゅうり約二百グラム相当」

 二人の娘たちのやっているゲームをボーっと見ながらチーズをジェンカのように積み上げては、速人に抜かれて崩されている哉がぼそりとつぶやく。


「きゅうり二百グラムって何本分?」

 スティック状に切ったきゅうりでもろみ味噌を掬い上げてポリポリ食べながら、理右湖が哉の答えを待つ。

「普通サイズ二本。散歩程度のウオーキング十分と同じ」

「それなら一時間本読みながらマシンで歩いた方がいいじゃないの!! きゅうり十四本分痩せられるわ」


「それが有酸素運動」


 チーズの包装を小さくまとめてゴミ入れ代わりのチーズの空箱に落としながら、結論と言わんばかりに速人が言う。

「結局落ち着くのはそこか。このチーズ一個何カロリー? うわ、面倒くさっ なんでひと箱のカロリーじゃなくて百グラムあたりなのかしら。何個入ってるんだっけ? 哉くん計算ヨロシク!」

 箱の中からゴミが落ちないように持ち上げて底面の表示を見ていた理右湖が早々にリタイヤして箱を哉に手渡す。
「……………十三・四キロカロリー」



「二個食べたら読書一時間がパァなわけね。あー なんかバカバカしくなってきた」


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