幸せのありか

神室さち

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華灯

19 side瀬崎

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 週があけた月曜日。祝日が土曜だとなんだか損をした気分になるのは自分だけだろうかと思いながら、瀬崎は書類を小脇に挟んで社員用のエレベータが役員階に上がってくるのを待っていた。来年からは祝日に関する新しい法律が施行され、海の日は第三月曜日になるらしい。


「よう」

「あれ、高遠先輩」


 奥から現れたのは瀬崎より二歳年上の同じく幹部候補生でもあり、その中でもダントツの出世頭の情報管理課長の高遠由柾(たかとうよりまさ)だ。この間の副社長辞職事件のときも慌てず騒がず踊らず、静観していたので出世街道についてコケなかった一人だ。


 秘書課勤務でない限り課長クラスとは言え一般社員が上がってこれる場所ではない。現に高遠の隣には、三島の秘書がついている。役員階は出るにも入るにも専用のIDが必要だからだ。

 秘書の瀬崎はレベル2のIDを持っているので最上階以外入室は可能だが、高遠のものは情報管理部までのレベル4だ。情報管理部の入室制限は最近設けられたものでエレベータではなく、そのフロアへの入り口ドアがオートロックのセキュリティに守られている。


「もうここで。彼にあけてもらうので」


 すらりと細身で背が高く二枚目な高遠ににっこりと笑いかけられて、若い秘書が頬を赤らめる。が、一緒にいられる時間を阻害された為だろうか、彼女は一瞬瀬崎に鋭い一瞥をくれて去っていった。


「お呼び出しですか?」

「ああ、セキュリティの件でな。全く、早く仕事をしろというのなら、わざわざ呼んでネチネチ言うなと言いたいんだが。用件を電話かメールで寄越せば十分だ」


 役員階の数階下が彼が席を置く情報管理部だが、ここまでわざわざやってくるのはめずらしい。

「先輩って多分『潰したい若手ナンバーワン』だからなぁ 三島部長の。ああ、もしかして役員駐車場の?」

「なんだ、知ってるのか」

「いえ、突破してきた人を偶然見たんで。先輩は見たことあります? 前の副社長の奥さん」

「なるほど。あの人ならやりかねないな。今回使われたのは不正コピーされたカードだった。全く、ウチのカードには簡単にコピーはできないように細工してあったんだが、やられたよ」


 役員専用のエレベータは使用中で、他の社員用も空いたエレベータがないのか、なかなか上がってこない。




「美少女だったな、お前が言ってた通り」

 沈黙がたゆたう寸前に高遠がにやりと笑って瀬崎を見る。その端麗な顔は、ゆがめるように笑っても崩れることはない。

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