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学園☆天国
23 side夏清
しおりを挟む「きゃあああぁああっ! 北條のお姉さま! 呉林(くればやし)のお姉さまっ!! おひさしぶりでございますぅっ!」
私と樹理ちゃんの間を割るようにめきょっと現れたユリさんが、文字通りすっとんで実冴さんたちのところへ。えーっと、誰と誰って? 北條は実冴さんの旧姓だから、クレバヤシは理右湖さんのか。
「あら、お久しぶり。桐生のお嬢様。にしてもなんでアンタいつも旧姓で呼ぶわけ? 何かの嫌がらせ?」
私はやらないけど、あのノリは女子高校生くらいまでの女の子のみに許されるんじゃないかってくらいのテンションで実冴さんの両手を取ってぴょんぴょん跳ねている。
「ホントに。何度教えても覚えないわね、この子は。久しぶりに呼ばれたわ、呉林で」
その隣の理右湖さんが、やれやれって笑う。
「だって。もうそれで刷り込みで上書きNGなんですもの。いいじゃありませんの、一人くらい旧姓で呼ぶ人間がいるくらいが」
へろりんと笑って、ユリさんが小首を傾げている。
「ユリ、おじい様によろしく伝えて頂戴。この間はありがとうって。琉伊、また今度ゆっくり、またみんなでお茶でもしましょうか。じゃあ、私たちはこれで。夏清ちゃん、樹理ちゃん、またね」
実冴さんのお言葉に、目をそらして他人の振り状態だった琉伊さんが、諦めたようにため息をついて頷くのを見てから、実冴さんたちが背を向けて去っていく。その背中に、ユリさんが名残惜しそうに手を振っていた。こっちもどういう関係? 年の差を考えると、絶対在学中に一緒だったとは思えなんだけど。
「ユリさんって、何者?」
樹理ちゃんが袖をひっぱって、手を口に当てて背伸びして、ひそっと耳元で。
「さぁ……また近いうちに実冴さんには会うと思うし、聞いてみるよ」
あ、もしかしたら先生が何か知ってるかもしれない。これもあとで聞こう。二人で頷きあっていると、一旦閉められたドアが開く。
「氷川様、桐生様、お席が整いましたのでどうぞ」
中から着物姿の生徒がやってきて、廊下で微妙な空気を撒き散らしている私たちにちょっと腰が引けながらそう案内してくれる。
「上座はどうする? さ……お兄様か井名里さんにお願いする?」
今気づいたけど、琉伊さんって氷川さんのこと呼ぶとき言い直すよね、名前で呼びそうになって、なんか照れみたいなのを飲み下して『オニイサマ』って。それって普段、名前で呼んでるってコトかなぁ。
「いや、俺たちは中でいい。桐生さんが正客で次にその子供、俺、夏清、彼女、哉で並ぶから、詰めを務めて」
ユリさんが反論するより早くすぱぱっと一同を見回して先生がそう言う。なんだか順番に不服がありそうなユリさんの口を琉伊さんが文字通り塞いで、まだぎこちなさの残る笑顔で了承した。
「えー お正客めんどくさーい」
「あなたがみんなを誘わないで私たちの順番で来ていれば順当に選ばれた人がいたの。私だってお詰めするのは初めてなのよ? そのくらいの責任は取りなさい」
琉伊さんに押されて、本当にぶうぶうと口に出しながらユリさんが部屋に入っていく。そのあとに柾虎君がきちんと靴をそろえて上がって、行儀よく正座して、一度お辞儀をして中に進んでいった。良くわからないけど、一番初めに入る『お正客』と、一番最後に入る『お詰め』は、何かややこしい役目らしい。ユリさんと琉伊さんに、私たちはサンドイッチされてる感じ?
「先生行かないの?」
「前の人が掛け軸の前まで行ってから。見とけ。あと、畳のふちは踏むな、なるべくすり足、歩幅狭く。つま先にかかとくらいの歩幅を意識しろ。お前は俺があそこに座ったのを見たら入って、前に扇子置いて一礼、まっすぐ掛け軸まで行って、座って眺めて立ってああやってきびすを返して、そのとき俺が座ってるとこまで行って……説明めんどくせぇな。あとは見てまねしてろ」
一番に入ったユリさんの動きを眼で追う。うわあああああ。一片に言わないで。しかもメンドクサイで省略とか!! マネしたらいいんだよね、いやでも、一回見ただけで動き完全コピーとかムリです。
「樹理ちゃん分かる?」
「昔、おばあちゃんが習ってて、お茶会には時々連れて行ってもらってたから。でも私が行ってたのは裏千家の方だから、もしかしたらちょっと違うかも。間違ってても笑わないでね?」
いえ。間違ってるかどうかすら分かりませんから。ここでウラって何? とか、もう聞けない雰囲気。
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