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第二章 恋におちたら
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しおりを挟む「じゃあお姉さま、月曜に学校で。ごきげんよう」
ハイヤーに乗り込むと真里菜と翠が上機嫌で挨拶をしてくれた。逢も見えなくなるまでバイバイと手を振ってくれていた。
緊張から開放されてため息をついてしまいそうだ。柔らかいシートと心地よい振動。なんだかやっとひと心地ついた気がする。片手が塞がっていてうまく乗り込めず、体勢を立て直す為に空いていた手でひざにおいていたビーズバッグを座席に置いて、座りなおす。
するりと、空いたひざに哉の頭が落ちてきた。そして、長い長いため息の音が聞こえた。
唇も目も、全てが笑っているのに、なんだかとてもつらそうな顔だった。
「疲れたか?」
反射的に首を横に振る。哉のほうがよっぽど疲れた顔をしている。会場で再び会ったとき、別れたときと明らかに哉は違っていた。そしてそれから哉は一言もしゃべらなかった。このハイヤーも、実冴が手配してくれたものだ。
「えっと、最後は楽しかったし」
「そうか」
そっと髪をなでる。お日様の下で寝ていたネコのような手触りだ。
「氷川さんは、大丈夫ですか?」
「ああ」
言葉は柄のない刃のようだ。強く相手を切りつければ、自分もまた大きな痛手を負う。
だからいつも、できるだけ言葉に感情を乗せないようにしてきたのだ。ビジネスの話は必要なことを伝えればいいだけなのでとても楽だが、自分の思いを伝えるのは疲れる。そしてとても疲れるのに、どんなにあがいても自分の中にあるものをありのままに表現する言葉は見つからない。言葉にしてしまうとどこか違うのだ。
逢に言われなくても言い過ぎたことはわかっている。けれど、言わずにはいられなかった。
「帰ったらお茶漬け食べましょう。氷川さんは知らないかもしれないけど、普通のおうちではご馳走を食べたり、贅沢して帰ったときはさらさらーってお茶漬け食べてシメるんですよ」
そんなことをするのは樹理のうちだけかもしれない。でも、調べ上げられたデータの中にはないことも、自分を作り上げてくれた大切な一部だ。
意識をして。口角を上げる。どうか、笑っているように見えますようにと。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
視点で分けられなかった結果。
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