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第二章 恋におちたら
34 side樹理
しおりを挟むちょっぴり期待しそうになった自分がちょっとだけ憎い。そして本に負けたような気がしてかなりへこんだ。
この休みの間知ったのだが、哉は大変な読書家だ。そして本を読むスピードも早い。日本語のタイトルでさえ漢字が六つ以上続いていたら樹理にはちんぷんかんぷんなのに、洋書になると何の本なのか想像も付かない。
そんなことを思っていたら、小口切りにするはずのねぎがぶつ切りになっていた。
ダメだ。野菜にあたるなんて。もったいない。
樹理が何とか気を取り直して作った夕食を、なんだかしゃべりづらくて黙々と食べる。
「ああそうだ。今週末だから」
「は?」
「前に言っていたパーティー」
「ええええええ!?」
別に突拍子もないことを言ったつもりがなかった哉が、樹理の反応にびっくりしている。
「今週末、土曜ですか? 日曜ですか?」
「土曜。午後六時開場だったから……そうだな、四時半くらいに出るか」
「じゃあ約束どうしようかな……」
「約束?」
ぴたりと哉の箸が止まった。
「はい。今日一緒だった子達……同じ学校の一年の方達なんですけど、一緒に出かける約束をしてしまって。あ! 家に電話するの忘れてたっ」
約束と言う言葉に反応した哉に、樹理が言い訳のように応え、そして思い出して声を上げた。
「家?」
「あ、あの、携帯電話を買ってもらおうと思って。私、持ってなくて……その……今までそんな必要としてなかったらよかったんですけど、なんだか、持ってないとダメって感じで」
「別に親に頼まなくても、樹理の携帯電話くらい俺が買う。どんなのがいいんだ?」
「え、ええっと。どんなのでもいいんですけど、それを買いに土曜に出かけようって話になってて……」
「ふぅん」
気のない返事を哉が返す。なんだかヘソを曲げてしまったみたいだが、何が気に入らないのかわからない。
以前一緒に食事をしていたときは絶対にしなかったのに、なんだか無意味に食事をつついている哉を見て、樹理がどうしてなのかと考えて、そして答えを見つけた。
今日は上の空で料理をしていたから、きっとおいしくないのだと。
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