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第二章 恋におちたら
27 side樹理
しおりを挟む悪い子達ではない。むしろとてもいい子達なのだが、付き合うとどっと疲れが出るのはなぜだろう。
連休中日にいただいたお弁当はとてもおいしくて豪華だった。お礼にその翌日手製のお菓子を暇にあかしてこそこそと作っていたはぎれと厚紙で作った箱に入れて渡したら、そのお礼にとお茶会に呼ばれてしまったのだ。
「おばあ様がぜひ、お菓子のレシピと箱の作り方を教わりたいって。それに、自分の作ったお菓子も食べていただきたいようなんです。授業が終わってからうちに寄っていただけませんか?」
にっこりと、それでいて有無を言わせない真里菜に、よろこんでおじゃましますと応えてしまった。もともと自分は流されやすいのだと思うが、彼女の百二十%笑顔全開のお願いを断れる人間がいるならつれてきてほしい。
案内された庭は低い木立に囲まれた案外こじんまりとした空間だった。きれいに刈り込まれた芝生と、そこに幾何学模様に配置された素焼きタイル。白いテーブルセットに白いパラソルが立ち、想像するくらいしかなかった英国スタイルのお茶会と呼ぶにぴったりだ。
真里菜の祖母はテレビで見るより華奢だったが、機械を通してはわからない存在感が実物にはあって、何より若々しかった。
先にひとしきりほめられてしまった樹理も、最近発行された料理本を持っていることと、そこに記載されたレシピと味について心のそこから思ったとおりの賛辞を述べた。
樹理が箱の作り方の説明に行き詰って、後日改めて一緒に作りましょうと次の予定を決められたとき、庭の片隅、建物の影からふらりと一人の男性が紫色の風呂敷包みを大工のように右肩において歩いてくる。
顔よりも、着ているTシャツに書かれた文字に目が行った。流麗な筆文字で『まんごうさいこう』と書いてある。もちろん全部ひらがなだ。
「ありー めずらしい。お客様だ」
そしてその顔を見て、さすがに樹理も失礼と思いつつ目が離せなかった。そのくらいものすごい整った顔だったのだ。
茶色い髪を後ろで無造作に縛った二十代後半と見られる青年に、二人の少女がにこやかに笑いながら手を振って招いている。
「あ、とーるちゃんいらっしゃい」
「一緒に食べる? 乾きものメインだけど」
「えー 乾き物しかないの? お茶かけてふやかして食べよっかな。隣、いい?」
気さくに話しかける少女たちに向けていた笑みを樹理にも向けた後、風呂敷包みをテーブルにおいて、少し離れたところにある陶器の丸い椅子をさっさと自分で転がして樹理の横に陣取る。良いも悪いも応えようのない早さだ。
「そろそろ来る頃だと思いましたよ。あなた用に用意してあるからお客様の前で行儀の悪いことは言わないで頂戴」
建物のそばに控えている家政婦に目配せをしながら、真里菜の祖母が男性に言う。
「うん、これ、ウチの母から美礼サンに。頼まれてたものだって」
風呂敷ごと持ってきたものをテーブルの上をずりずり向こう側へ押す。しかし、その大きな黒茶の目は開け放たれている建物とテラスを結ぶ大きなガラス扉の方だ。
つられて樹理がそちらを見ると、先ほどの家政婦がワゴンを押してこちらにやってくる。その上には、顔が洗えそうなくらい大きなガラスの容器……見間違いでなければ巨大な金魚鉢に……黄色がかったオレンジ色の物体が揺れていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
割と正解を出すのが早い。
そしてTシャツの字は都織の直筆。
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