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第一章 幸せのありか
40 side樹理
しおりを挟む華奢で、どちらかと言うと童顔の哉と、医者としての貫禄とまではいかなくても、自信を持って生きていることをうかがわせる目の前の速人は五歳くらい年が違うといわれても納得してしまいそうだが同級生だと言われたらそう見えなくもない気がする。とはいえ樹理はずっと哉の年齢はもっと若いと思っていた。
「あら、哉君はバカの日生れだからまだ二十六よ? 速人君、中高と寮で同室だったんだからそのくらい覚えといてあげないと」
バカの日……それはつまり四月一日を指すのだろう。誰がそうしたのかは分からないが、なぜかその日までが『早生れ』になって、ほとんど一年程歳の違う子達と一緒にされてしまう日だ。
「ヤローの誕生日覚えてどうすんだよ」
イライラした様子で速人が答える。その時、嫌なことでもあったのだろうか?
「あらだって、その次の日はもう一人のバカの生れた日じゃない。丸一年違うけどセットよセット。で、速人君がお子様の日。あなた達そろって覚えやすい日に生れたもんよねぇ」
なぜか懐かしそうにそう言う理右湖に、速人がそりゃよかったですねと棒読みで返している。
中学生のころからあの調子だったのだろうか? 問うことは出来そうだったが、おそらくそのとおりだろうと思って樹理はあえて聞かなかった。
しかし、速人が二十七だとしたら、今いた子供達は? 上の桜は制服を着ていたので中学生だし、下の椿も小学校高学年だろう。
わけがわからなくなった樹理が理右湖を見る。聞きたいことが分かったのか理右湖が微笑んで言った。
「あー……うん、速人君の言ってるのはほんとよ。あの子達は私の連れ子だから」
「ごめんなさい……」
謝る樹理に構わないわよと笑って、それよりどうするのと聞かれた。
「あの、氷川さん、家に帰れって、言いましたか?」
おずおずと速人にそう尋ねると、怪訝そうな顔をした後、首を横に振った。
「いや。お前さんが帰りたかったら邪魔しないって感じだったな」
「じゃあ、家には帰りません」
樹理の答えに大人二人が言葉を無くした。
「ちょっ……あのね、樹理ちゃん、自分が何言ってるか分かってる? 何されたか覚えてる?」
「はい。分かってますし、覚えてます」
「だったら……」
更に言い募ろうとした理右湖に樹理がゆっくり首を横に振った。
薄く、けれどはっきりと微笑んだ樹理の顔をみて、大体察しがついたのだろう。
「……分かったわ」
「理右湖さん!!」
速人が立ちあがる。絶対に反対だと、意地でも樹理を家に帰すべきだと全身で訴えながら。
「今から電話をかける。明日中に哉くんが迎えに来たらそっちに行っていいわ。でも来なかったら、家に帰りなさい。いいわね?」
樹理は頷いた。
確かにそうだ。樹理が哉のそばに居たいと思っても哉はもう樹理のことなんて要らないかもしれない。
哉に決めてほしかった。
必要だと、言ってほしかった。
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