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第一章
第73話 謎の少年
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……そして、一体どれくらい上昇し続けただろうか。
既にクラウスたちの声も、彼らが放つ緑光もボクの五感には届かない。
少しでも心に隙を作ってしまえば『モン・フェリヴィント』のみんなの顔を思い浮かべてしまいそうで、だからボクは、何も考えない様にして上に向かう事だけに集中していた。
「……皆、カズキに協力してくれましたね。『モン・フェリヴィント』のみんなは、とっても優しいのです」
伝声管から届いたマクリーの声に、ボクは意識を傾ける。
「そうだね……優しくてカッコよくて、素敵な人たちだったね。……マクリーだってそうだよ。ボクに付き合ってくれてありがとね」
「お礼はいらないのです。だって吾輩、カズキの事が好きですから」
風竜の後継を名乗る小さな竜は照れもなく、おませなセリフをサラッと言う。
いくら相手が人間じゃないからって、そんなストレートにガツンとやられれば、こっちが照れるじゃんか!
「そ、そんな事急に言うなんて、ずっこいよ! ボクだってマクリーの事……って、そういえばアンタ、いっつも『親代わりのボクと一緒じゃなきゃイヤだ』なんて言ってたくせに、ボクが元の世界に帰る事には全然反対しなかったね? ……なんで?」
「だってカズキは母上や父上の元に帰るのですよね? ……なら仕方ないですよ。吾輩も、母上と別れる辛さや寂しさは、知ってますから」
「……そっか。そうだったね」
地上の遺跡地下で僅かな時間だけしか母竜と話せなかったマクリーの、泣き叫ぶ姿を思い出した。
マクリーも辛い経験を乗り越えてきたのだ。くだらない質問をしてしまったかなと、自責の念が込み上げて思わず俯いてしまう。
「カズキ! ま、前!」
マクリーの声に顔を跳ね上げると目の前には、銀幕上部全面を覆い尽くすもこもことした壁が迫っていた。
「う、うわあああああああああ!」
マクリーの急停止も間に合わない。
そのまま竜翼競艇機は、ズボンと銀幕の天井に突っ込んだ。
銀幕内部はキラキラ輝く銀幕表面の光が差し込んでいて、僅かばかりの光があった。だけど今は視界がほぼゼロの状態だ。
まるで黒い雲の中を掻き分けて飛んでいる様だ。
今、方向転換してしまったら、機体がどこに向かって飛んでいるのかさえ分からなくなってしまう。
「マクリー! 少し減速して!」
ボクはステアリングホイールをしっかりと握りしめ、向かう先を変わらず上へと固定する。
そのまましばらく上昇を続けると黒い雲からズボッと抜け、代わりに目の前に障害物が現れた。
「う、うぎゃああああああああ!」
再び悲鳴を上げながら、ステアリングホイールを目一杯左に切り急旋回するとギリギリ衝突を回避した。
さらにその目の前には次の障害物だ。間一髪、再び躱す。
「ヤバイヤバイやばい! マクリー止まって!」
マクリーが竜翼競艇機を急停止させるとボクは慣性の法則に従って、大きく前につんのめる。
危うく船外へと投げ出されそうになった体を戻し周りを見て、ようやく障害物の正体が判明した。
それは資材調達班の作業小屋にあった隠し部屋と同じ物———ボクの世界の人工物だ。
小さなものはぬいぐるみから、大きなものは旅客機までもが、広い空間に漂っていた。……そう、まるで宇宙空間の様に。
「な、何なんだよここは!?」
「———それに答える義務が、僕にはあるのかもしれないね」
ボクの叫びに前方から、やや高めの幼い声がそう答えた。
声の方角へ向き直ると、フワフワと漂っている自動販売機と自動車の間に銀髪の少年が浮いていた。
既にクラウスたちの声も、彼らが放つ緑光もボクの五感には届かない。
少しでも心に隙を作ってしまえば『モン・フェリヴィント』のみんなの顔を思い浮かべてしまいそうで、だからボクは、何も考えない様にして上に向かう事だけに集中していた。
「……皆、カズキに協力してくれましたね。『モン・フェリヴィント』のみんなは、とっても優しいのです」
伝声管から届いたマクリーの声に、ボクは意識を傾ける。
「そうだね……優しくてカッコよくて、素敵な人たちだったね。……マクリーだってそうだよ。ボクに付き合ってくれてありがとね」
「お礼はいらないのです。だって吾輩、カズキの事が好きですから」
風竜の後継を名乗る小さな竜は照れもなく、おませなセリフをサラッと言う。
いくら相手が人間じゃないからって、そんなストレートにガツンとやられれば、こっちが照れるじゃんか!
「そ、そんな事急に言うなんて、ずっこいよ! ボクだってマクリーの事……って、そういえばアンタ、いっつも『親代わりのボクと一緒じゃなきゃイヤだ』なんて言ってたくせに、ボクが元の世界に帰る事には全然反対しなかったね? ……なんで?」
「だってカズキは母上や父上の元に帰るのですよね? ……なら仕方ないですよ。吾輩も、母上と別れる辛さや寂しさは、知ってますから」
「……そっか。そうだったね」
地上の遺跡地下で僅かな時間だけしか母竜と話せなかったマクリーの、泣き叫ぶ姿を思い出した。
マクリーも辛い経験を乗り越えてきたのだ。くだらない質問をしてしまったかなと、自責の念が込み上げて思わず俯いてしまう。
「カズキ! ま、前!」
マクリーの声に顔を跳ね上げると目の前には、銀幕上部全面を覆い尽くすもこもことした壁が迫っていた。
「う、うわあああああああああ!」
マクリーの急停止も間に合わない。
そのまま竜翼競艇機は、ズボンと銀幕の天井に突っ込んだ。
銀幕内部はキラキラ輝く銀幕表面の光が差し込んでいて、僅かばかりの光があった。だけど今は視界がほぼゼロの状態だ。
まるで黒い雲の中を掻き分けて飛んでいる様だ。
今、方向転換してしまったら、機体がどこに向かって飛んでいるのかさえ分からなくなってしまう。
「マクリー! 少し減速して!」
ボクはステアリングホイールをしっかりと握りしめ、向かう先を変わらず上へと固定する。
そのまましばらく上昇を続けると黒い雲からズボッと抜け、代わりに目の前に障害物が現れた。
「う、うぎゃああああああああ!」
再び悲鳴を上げながら、ステアリングホイールを目一杯左に切り急旋回するとギリギリ衝突を回避した。
さらにその目の前には次の障害物だ。間一髪、再び躱す。
「ヤバイヤバイやばい! マクリー止まって!」
マクリーが竜翼競艇機を急停止させるとボクは慣性の法則に従って、大きく前につんのめる。
危うく船外へと投げ出されそうになった体を戻し周りを見て、ようやく障害物の正体が判明した。
それは資材調達班の作業小屋にあった隠し部屋と同じ物———ボクの世界の人工物だ。
小さなものはぬいぐるみから、大きなものは旅客機までもが、広い空間に漂っていた。……そう、まるで宇宙空間の様に。
「な、何なんだよここは!?」
「———それに答える義務が、僕にはあるのかもしれないね」
ボクの叫びに前方から、やや高めの幼い声がそう答えた。
声の方角へ向き直ると、フワフワと漂っている自動販売機と自動車の間に銀髪の少年が浮いていた。
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