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第24話 俺を突き動かす原動力
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鳴り続けていた叫び声も今は途絶え、裂帛と奮起の旋律に編曲されていた。
俺たちはその調べに誘導され、やや狭い道筋が交錯する分岐点、天井も高く膨らんでいる場所へと差し掛かる。
通路の出口に手を掛けた俺は、まず第一に視界へと無造作に飛び込んできた大型の外魔獣に、思わす固唾を飲んでしまう。
「……キュクロープス……! 最悪の展開だわ!」
俺が最初に戦ったデスバッファローよりも一回り大きな体躯に、頭部をすべて覆い尽くすほどの太い角を生やした単眼の巨人。隆々とした丸太のような腕には、切れ味にまるで無頓着な原始的な石斧が持たれており、体毛で覆われた根太い獣の脚が、迷路の地面を揺らしていた。
血走った単眼の視線の先には、三人の冒険者の姿。そのうちの一人の男性は深傷を負っているようで、膝を地につけた状態だ。その前に立ちはだかる二人の男女。地面を削岩し小石を撒き散らしながらゆっくりと迫り来るキュクロープスを前に、己を盾として仲間を庇っている。
「……ヤマト。あのキュクロープスはステータスランクAの戦士でも、一人で相手をするには厳しい外魔獣なの。下手な同情は自分の身を危うくする。……ここは撤退を勧めるわ」
「……アイツらを見殺しにしろってことか?」
「冒険者を生業としている以上、彼らだってその覚悟は出来てる筈。ヤマトには、先を急ぐ大事な理由があるんじゃなくて?」
おそらく最年長だろう傷を負った中年男性は、血が滴る腹部を手で覆いながら「もういい」とか「お前たちだけでも逃げろ」と、必死に訴えかけている。
が、前衛の二人はその言葉に耳も貸さない。キュクロープスの振り下ろす石斧に真っ向から衝突する。二人は手にした得物で同時に受け止めたが、健闘虚しく弾かれて、後方へと吹き飛ばされた。
誰が見たって全滅まで時間の問題。あと二、三撃も喰らえば前衛のどちらかが力尽き、その後の想像は容易である。
「なあエリシュ。……仲間って、いいよな」
前衛の二人がすぐさま立ち上がる姿を凝視しながら、エリシュが向けてきた視線を感じ取ると、俺はそのまま言葉を続けた。
「……俺がいた前の世界でもな『仲間』って言葉をよく口にするヤツがいたんだよ。だけどな、そーゆーヤツに限って、いざピンチになると我先に逃げ出すんだぜ。……俺な、思うんだよ。本当の仲間はさ、最後まで側にいるヤツのことだ。……そんなチンケな言葉なんていらねーってな」
「ヤマトの気持ちは分かるけど……勝ち目がすごく薄い相手よ?」
「そんなのやってみねーと分からねーじゃねーか! それによ、このまま素通りしたら俺はきっと後悔する。……後悔だけはしたくねぇ!」
他人のために命を張るなんて、稀有だ。頭が湧いていると思われても不思議じゃない。
だけど玲奈がこの場にいたら、きっと「助けよう」と言っただろう。
現実離れしたこんな世界だからこそ、捨て去りたい綺麗事。
ようやく納得し、説明がつけられた。自分の気持ちに。
逡巡しないで力強い一歩を踏み出せる、男でありたい。
玲奈が惚れてくれた、ありのままの俺でいたい。
丸裸の想いを込めた視線でエリシュの瞳を鋭く射抜く。溜息を小さく落としながら、エリシュの顔も決意に固まった。
「もう何を言っても無駄なようね。……相棒だもの、私も付き合うわ。そのかわり私の指示に従って頂戴」
耳打ちを終えた俺たちは、すぐさま行動に取り掛かる。
あえて仰々しい動きで通路から身を乗り出すと、今まさに惨劇の壇上に上がっている六つの瞳と——— 一つの大きな目玉の視線が俺へと集まった。
「おいお前ら! 少しの間、目を閉じてろ!」
そう言い放ち、速やかに横へと跳ね避ける。
俺が退くことで後方に映し出される、既に狙いを定めた待機状態のエリシュの姿。
「清廉な黄の精霊たちよ、我が槍となり此を貫け!」
スキル『詠唱短縮』を発動して、エリシュが突き出した拳から雷光がほとばしる。狙うはキュクロープスの本体———ではなくて、その頭上の迷路天井だ。
『ウガガガァァ!?』
雷光を直視したキュクロープスは、目を抑えながらたまらず首を振る。そこに雷が着弾して生み出された石塊が、天井から降り注いだ。
「今だ! こっちに向かって走ってこい!」
三人の行動に迷いはなく、そして素早かった。
傷ついた仲間の両肩を抱え、最後の力を出し惜しまず、息も絶え絶えに必死に足を動かしている。
外魔獣は、あの巨体だ。俺たちが来た通路の天井は割と低かった。そのまま引き返す形で通路に戻れば、巨体を屈めながら追いかけてくるキュクロープスから逃げ切ることが叶うだろう。
唸り声を撒き散らしながら顔を抑えるキュクロープスの、視界はまだ機能を取り戻していない。
エリシュが即興で立案した、逃げを前提とする救出作戦は完璧にはまった。
———真ん中の傷ついた男の足がもつれ、三人揃って見事に倒れ込むまでは。
俺たちはその調べに誘導され、やや狭い道筋が交錯する分岐点、天井も高く膨らんでいる場所へと差し掛かる。
通路の出口に手を掛けた俺は、まず第一に視界へと無造作に飛び込んできた大型の外魔獣に、思わす固唾を飲んでしまう。
「……キュクロープス……! 最悪の展開だわ!」
俺が最初に戦ったデスバッファローよりも一回り大きな体躯に、頭部をすべて覆い尽くすほどの太い角を生やした単眼の巨人。隆々とした丸太のような腕には、切れ味にまるで無頓着な原始的な石斧が持たれており、体毛で覆われた根太い獣の脚が、迷路の地面を揺らしていた。
血走った単眼の視線の先には、三人の冒険者の姿。そのうちの一人の男性は深傷を負っているようで、膝を地につけた状態だ。その前に立ちはだかる二人の男女。地面を削岩し小石を撒き散らしながらゆっくりと迫り来るキュクロープスを前に、己を盾として仲間を庇っている。
「……ヤマト。あのキュクロープスはステータスランクAの戦士でも、一人で相手をするには厳しい外魔獣なの。下手な同情は自分の身を危うくする。……ここは撤退を勧めるわ」
「……アイツらを見殺しにしろってことか?」
「冒険者を生業としている以上、彼らだってその覚悟は出来てる筈。ヤマトには、先を急ぐ大事な理由があるんじゃなくて?」
おそらく最年長だろう傷を負った中年男性は、血が滴る腹部を手で覆いながら「もういい」とか「お前たちだけでも逃げろ」と、必死に訴えかけている。
が、前衛の二人はその言葉に耳も貸さない。キュクロープスの振り下ろす石斧に真っ向から衝突する。二人は手にした得物で同時に受け止めたが、健闘虚しく弾かれて、後方へと吹き飛ばされた。
誰が見たって全滅まで時間の問題。あと二、三撃も喰らえば前衛のどちらかが力尽き、その後の想像は容易である。
「なあエリシュ。……仲間って、いいよな」
前衛の二人がすぐさま立ち上がる姿を凝視しながら、エリシュが向けてきた視線を感じ取ると、俺はそのまま言葉を続けた。
「……俺がいた前の世界でもな『仲間』って言葉をよく口にするヤツがいたんだよ。だけどな、そーゆーヤツに限って、いざピンチになると我先に逃げ出すんだぜ。……俺な、思うんだよ。本当の仲間はさ、最後まで側にいるヤツのことだ。……そんなチンケな言葉なんていらねーってな」
「ヤマトの気持ちは分かるけど……勝ち目がすごく薄い相手よ?」
「そんなのやってみねーと分からねーじゃねーか! それによ、このまま素通りしたら俺はきっと後悔する。……後悔だけはしたくねぇ!」
他人のために命を張るなんて、稀有だ。頭が湧いていると思われても不思議じゃない。
だけど玲奈がこの場にいたら、きっと「助けよう」と言っただろう。
現実離れしたこんな世界だからこそ、捨て去りたい綺麗事。
ようやく納得し、説明がつけられた。自分の気持ちに。
逡巡しないで力強い一歩を踏み出せる、男でありたい。
玲奈が惚れてくれた、ありのままの俺でいたい。
丸裸の想いを込めた視線でエリシュの瞳を鋭く射抜く。溜息を小さく落としながら、エリシュの顔も決意に固まった。
「もう何を言っても無駄なようね。……相棒だもの、私も付き合うわ。そのかわり私の指示に従って頂戴」
耳打ちを終えた俺たちは、すぐさま行動に取り掛かる。
あえて仰々しい動きで通路から身を乗り出すと、今まさに惨劇の壇上に上がっている六つの瞳と——— 一つの大きな目玉の視線が俺へと集まった。
「おいお前ら! 少しの間、目を閉じてろ!」
そう言い放ち、速やかに横へと跳ね避ける。
俺が退くことで後方に映し出される、既に狙いを定めた待機状態のエリシュの姿。
「清廉な黄の精霊たちよ、我が槍となり此を貫け!」
スキル『詠唱短縮』を発動して、エリシュが突き出した拳から雷光がほとばしる。狙うはキュクロープスの本体———ではなくて、その頭上の迷路天井だ。
『ウガガガァァ!?』
雷光を直視したキュクロープスは、目を抑えながらたまらず首を振る。そこに雷が着弾して生み出された石塊が、天井から降り注いだ。
「今だ! こっちに向かって走ってこい!」
三人の行動に迷いはなく、そして素早かった。
傷ついた仲間の両肩を抱え、最後の力を出し惜しまず、息も絶え絶えに必死に足を動かしている。
外魔獣は、あの巨体だ。俺たちが来た通路の天井は割と低かった。そのまま引き返す形で通路に戻れば、巨体を屈めながら追いかけてくるキュクロープスから逃げ切ることが叶うだろう。
唸り声を撒き散らしながら顔を抑えるキュクロープスの、視界はまだ機能を取り戻していない。
エリシュが即興で立案した、逃げを前提とする救出作戦は完璧にはまった。
———真ん中の傷ついた男の足がもつれ、三人揃って見事に倒れ込むまでは。
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