6 / 53
第6話 戦いの行方は
しおりを挟む
『グァギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
悶絶の悲鳴が通路を抜け、木霊となって迷路内へと飛び散っていく。
あちこちが軋んで痛む体を振り向かせると、長い通路の終着点——俺が辿ってきた曲がり角付近に、しなやかな細い指を広げ左手を翳したエリシュの姿。
「エリシュ……お前どうして……」
「いいから早く! 今のうちに後退して! この好機を逃したら最期よ!」
痛切を織り交ぜた声音とその気迫にあてられて、俺は身を投げ出すように———正しくはよろけて数歩後退りして倒れ込んだだけなのだが———後退する。
俺が通路の端に横たわることで出来た、外魔獣への道。今だ迷路内に立ち込める爆炎に向かい、エリシュは躊躇うことなく駆け出した。躍動する動きで俺の前を通り過ぎる。そして走りながらの詠唱。
「獰猛な赤の精霊たちよ、我が力となり此を撃て!」
不意を突かれた魔法攻撃に天を見上げ荒れ狂う外魔獣へ、ほぼ零距離からの追撃弾。再度火球が放たれると、寸分も違えず一撃目と同じ箇所———体毛を焼き、硬い皮膚がただれた外魔獣の右胸に直撃する。
爆炎を盾にして距離を詰めたエリシュの奇襲は、非の打ち所がないくらい綺麗に決まった。
『ギャアアアアオオオオアアアアアアアアアアアアァァァ!』
断末魔にも似た耳を擘く一際鋭い叫び声が、迷路内に響き渡る。
いくら硬質な皮膚で覆われていようと、同じ箇所に強大な連続攻撃を受けて軽傷で済んだら、流石にこちらの立つ瀬がない。
だが、その心配は杞憂に終わる。外魔獣の胸部は無惨にも肋骨が露わとなり、それに覆われた臓器が剥き出しとなっていた。
たたらを踏み二歩三歩と後退りする外魔獣に、エリシュは軽くワンステップで容易に距離を明け渡さない。右手に持ったレイピアを構え追撃体勢。そこから雷の如く鋭い突き。切先は肋骨の隙間を嘲笑うかのようにすり抜けると、赤く結晶のような外魔獣の急所へ深々と突き刺さった。
『……グッ……オオ……』
動きを止めた外魔獣は短い呻きを最期に残すと、頭部からサラサラと細かな灰となり散っていく。外魔獣の消滅をしっかりと見届けたエリシュは、突きの体勢から体をようやく解放した。俺の瞳には、凛とした立ち姿のエリシュが映る。
エリシュはレイピアを頭上に掲げ大きく一振り。緑色の液体を刀身から振り払うと、無駄のない所作で鞘に納めながら、ゆっくりと俺に近づいてきた。
「そんな軽装備一つ身に付けただけで……ましてや単独で下層を目指すなんて、無茶を通り越して無謀すぎるわ」
だらしなく体を横たえる俺の半身を持ち上げると、エリシュは俺の胸にそっと手を乗せる。
「慈悲深い緑の精霊たちよ、手負いの者に癒しの力を」
エリシュの手のひらから、優しい光が俺の体の隅々にまで流れ込む。次第に痛みが和らいでいき、自力で体を支えるくらいまで力が漲ってきた。
「これが魔法の力ってヤツなのか……すげえな。エリシュ、すまねぇ」
剣を杖代わりによっこらしょ、と体を立てる。右手を握っては広げ、自分の力の回復具合を慎重に確かめる。
打撲の痛みがまだ残ってるものの、裂傷の血は止まり、骨も筋もしっかり繋がっているようだ。
(腕も足もしっかりと動く。……よし、大丈夫だ!)
そして玲奈への情愛も断ち切れちゃいない。この鋼の想いはどんな攻撃に晒されたって、両断することは不可能なのだから。
「ありがとうエリシュ! じゃ、またな!」
片手を上げてエリシュにお礼のポージング。
と、同時に足はすでに踵を返している。
俺は迷路の最奥に向かって、決して挫けることはない力強い一歩を踏み出していた。
悶絶の悲鳴が通路を抜け、木霊となって迷路内へと飛び散っていく。
あちこちが軋んで痛む体を振り向かせると、長い通路の終着点——俺が辿ってきた曲がり角付近に、しなやかな細い指を広げ左手を翳したエリシュの姿。
「エリシュ……お前どうして……」
「いいから早く! 今のうちに後退して! この好機を逃したら最期よ!」
痛切を織り交ぜた声音とその気迫にあてられて、俺は身を投げ出すように———正しくはよろけて数歩後退りして倒れ込んだだけなのだが———後退する。
俺が通路の端に横たわることで出来た、外魔獣への道。今だ迷路内に立ち込める爆炎に向かい、エリシュは躊躇うことなく駆け出した。躍動する動きで俺の前を通り過ぎる。そして走りながらの詠唱。
「獰猛な赤の精霊たちよ、我が力となり此を撃て!」
不意を突かれた魔法攻撃に天を見上げ荒れ狂う外魔獣へ、ほぼ零距離からの追撃弾。再度火球が放たれると、寸分も違えず一撃目と同じ箇所———体毛を焼き、硬い皮膚がただれた外魔獣の右胸に直撃する。
爆炎を盾にして距離を詰めたエリシュの奇襲は、非の打ち所がないくらい綺麗に決まった。
『ギャアアアアオオオオアアアアアアアアアアアアァァァ!』
断末魔にも似た耳を擘く一際鋭い叫び声が、迷路内に響き渡る。
いくら硬質な皮膚で覆われていようと、同じ箇所に強大な連続攻撃を受けて軽傷で済んだら、流石にこちらの立つ瀬がない。
だが、その心配は杞憂に終わる。外魔獣の胸部は無惨にも肋骨が露わとなり、それに覆われた臓器が剥き出しとなっていた。
たたらを踏み二歩三歩と後退りする外魔獣に、エリシュは軽くワンステップで容易に距離を明け渡さない。右手に持ったレイピアを構え追撃体勢。そこから雷の如く鋭い突き。切先は肋骨の隙間を嘲笑うかのようにすり抜けると、赤く結晶のような外魔獣の急所へ深々と突き刺さった。
『……グッ……オオ……』
動きを止めた外魔獣は短い呻きを最期に残すと、頭部からサラサラと細かな灰となり散っていく。外魔獣の消滅をしっかりと見届けたエリシュは、突きの体勢から体をようやく解放した。俺の瞳には、凛とした立ち姿のエリシュが映る。
エリシュはレイピアを頭上に掲げ大きく一振り。緑色の液体を刀身から振り払うと、無駄のない所作で鞘に納めながら、ゆっくりと俺に近づいてきた。
「そんな軽装備一つ身に付けただけで……ましてや単独で下層を目指すなんて、無茶を通り越して無謀すぎるわ」
だらしなく体を横たえる俺の半身を持ち上げると、エリシュは俺の胸にそっと手を乗せる。
「慈悲深い緑の精霊たちよ、手負いの者に癒しの力を」
エリシュの手のひらから、優しい光が俺の体の隅々にまで流れ込む。次第に痛みが和らいでいき、自力で体を支えるくらいまで力が漲ってきた。
「これが魔法の力ってヤツなのか……すげえな。エリシュ、すまねぇ」
剣を杖代わりによっこらしょ、と体を立てる。右手を握っては広げ、自分の力の回復具合を慎重に確かめる。
打撲の痛みがまだ残ってるものの、裂傷の血は止まり、骨も筋もしっかり繋がっているようだ。
(腕も足もしっかりと動く。……よし、大丈夫だ!)
そして玲奈への情愛も断ち切れちゃいない。この鋼の想いはどんな攻撃に晒されたって、両断することは不可能なのだから。
「ありがとうエリシュ! じゃ、またな!」
片手を上げてエリシュにお礼のポージング。
と、同時に足はすでに踵を返している。
俺は迷路の最奥に向かって、決して挫けることはない力強い一歩を踏み出していた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
小学6年生、同級生30人全員を殺した日本の歴史史上最凶最悪の少年殺人鬼が、異世界の12歳に乗り移り、異世界を駆ける!
yuraaaaaaa
ファンタジー
1998年7月、とある小学校で凄惨な立て籠もり事件が発生した。犯人の要求は国会議員全員の処刑だった。到底受け入れる事が出来ない内容だった。
犯人は、10分毎に生徒を殺していくと発言し、本当に10分毎に生徒が殺されていった。外に向けて死体を吊り下げたり、生首だけが見えるうように置かれていた。
その死体には目がなかった。
もう待てないと判断した特殊部隊が小学校に乗り込んだ。
クラスには既に息絶えた30人分の死体と、犯人だと思われていた担任の死体がそこにはあった。床が血まみれの中で、一人の少年が目玉を食べていた。
真犯人は、そのクラスの一員の生徒だった。
日本中で話題になり、少年法を顧みるきっかけになった事件で、犯人の少年は、超特例として12歳ではあったが、処刑を言い渡される事となった。
本名は笹野蔵ゆうた。偽名はももたろう
死刑執行された瞬間に意識がなくなる。
死んだと確信したはずが、何故か知らない場所で目が覚める。
知らない場所に知らない服。そして頭に違った人格の声が聞こえる。
その声と体の主の名前は、ジャン・アウル。ジャンという名前の子供にゆうたは乗り移る。年齢は同じ12歳。
その世界は地球とは全く異なる世界で、魔法が存在する世界なのだという。
ジャンはその世界の貴族で、初等部に通っているそうだ。ゆうたは訳が分からなかった。そして同時にジャンも訳が分からなかった。
昔は名家と呼ばれていたジャンの家は、今では落ちぶれていじめの対象になっていた。
そんなジャンの身体に入ったゆうたは、いじめっ子を退治する。
ジャンの身体には、殺人鬼ゆうたとジャンの人格が同時に混雑する事に。
ジャンは名家復活の為に、ゆうたは自分の快楽の為に力を合わせる。
サイコパス殺人鬼と名家復活の為に動く男が織り成す、新感覚ファンタジー作品。
※他の投稿サイトにも掲載しております。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します
水空 葵
ファンタジー
貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。
けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。
おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。
婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。
そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。
けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。
その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?
魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです!
☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。
読者の皆様、本当にありがとうございます!
☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。
投票や応援、ありがとうございました!
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる