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第4話 誰にも俺を止められない!

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 逸る気持ちをどうにか一晩押し殺し、碌に眠れず迎えた翌日。

 俺がエリシュに頼んだことは、ものの半日で解明した。
 分かる範囲で構わないからと、伝えたその内容とは。

 ———昨日、生死を彷徨う死の縁から奇跡的に回復した十代後半の女子。加えてその所在。

 その人数は意外と少なく、国中をしらみ潰しに探しても現状で判明したのはたったの三人。俺の転生の経緯に照らし合わせると、その三人の内の誰かが玲奈である可能性が跳ね上がる。
 もとよりあのメビウスって女神が、ちゃんと俺の願いを叶えてくれたのか、そこが一番の問題なのだけど。

「でも意外に早く分かるもんなんだな。国中探すってもっと大変だと思ってたけど」
「この国はね、連絡経路がとっても単純で簡単なの。聖支柱ホーリースパインを使えば大概のことは把握できるの」
「……聖支柱ホーリースパインか」

 亡き王子ブレイクの意思は、最期にエリシュへの謝辞と秘めた恋心に加え尚も且つ、この世界のごくごく簡単な基本情報を、俺に伝達してくれていた。

 ……もっとエリシュに伝えたいこともあっただろうに。ブレイクはきっと優しいヤツだったんだろうな。

 ハラムディン。聞き慣れないこの単語は、俺が転生してきたこの国の名前だ。
 超巨大ピラミッドの形を成したハラムディンは、88の階層数で構築されている。今、俺がいるこのいただきには王族とその従者のみが住んでいる。
 88の階層は居住階層ハウスフロアと呼ばれる居住区域と、それらを繋ぐ迷路ダンジョンエリアに明確に区分されており、階層数と身分富貴は比例する。
 すなわち、上層階に住む人ほど重要な地位が与えられ、加えて個人の能力も高くなるのだ。

 国全体がまさにカースト制度やヒエラルキーを彷彿とさせる、力の均衡をそのまま具現化した形態。最上階のこの城だけでも、かなりの大きさがあるのだろう。昨晩、用を足そうと部屋を出て広い城内で迷子になり、人としての尊厳を危うく失いかけた———この身を持って検証済みだ。

 そして聖支柱ホーリースパインとは、巨大ピラミッドの全階層を貫くように聳え立つ命の源。

 王族のみが与えられし特別な力で、外光から遮断されたピラミッドという密閉空間に太陽光と同等のエネルギーを与えられる。なので草木も育つし、人も生息することだって可能だ。
 さらに聖支柱ホーリースパインは、各階層との連絡手段にも一役買っている。最上階に住む者のみがその思念を各居住階層ハウスフロアに伝達でき、一方で居住階層ハウスフロアからの連絡は最上階にだけに届く仕組み。居住階層ハウスフロア同士の交流または談合は許されてはいない。
 頂上に君臨する王族が生殺与奪だけは飽き足らず、伝達事項ですら見事に掌握する絶対制度。

 今回階層主フロアマスターと呼ばれる居住階層ハウスフロアの責任者に調査をさせたところ、その三人が判明したのだ。
 その所在は80階層と50階層、そして最下層———1階層だ。

 俺は頑丈且つ豪奢な作りの窓を開けると、陰湿な部屋と違って清爽な外気を胸に吸い込み外を見て、その目を奪われた。
 眼下に広がるのは、視界に捉えきれないほどの艶々つやつやとした黒紫色こきむらさきの裾野。高みから見下ろす遙か遠方の地上には、豊かな森林とこの建造物を包囲している蠢く数多あまたの黒い点。

 黒点の正体は、外魔獣モンスターと呼ばれる無慈悲で凶悪な侵入者たちだ。

 外魔獣モンスターの群れに孤立した形で成り立つこのピラミッドの民は、その侵入を防ぎながら戦いと共に生活を営み、そして死んでいく。

 言い換えれば下層階に近づけば近づく程外魔獣モンスターの襲撃が多く、危険に晒されるということだ。

 ———グズグズしてられねぇ! 早く……早く玲奈を助けないと!

 俺はブレイクの記憶を頼りに己の能力を確認する。

「ステータス」

 その言葉で眼前に半透明の能力板ステータス・ボードが出現した。

————————————
NAME:オガサワラ・ヤマト
HP:890(Aᴱ)
VIT:320(Cᴬ)
ATK:382(Bᴰ)
STR:471(Bᴮ)
MP:308(Cᴱ)
INT:273(Dᴮ)
DEX:158(Eᴰ)
AGI:405(Bᶜ)
LUK:251(Cᴱ)
TTL:(Cᴮ)
SKILL:■■■■■■
————————————

 ……んん? 
 なんだこのスキルって……モザイクみたいに滲んでて、見えねえんだけど……。

 まあいいや。分からないことは後でいい。今は一刻の時間ときも無駄にできねぇ!

 正直この能力で最下層まで行けるかどうかなんてこと、俺に分かる訳がない。
 もちろん行くか行かないかなんて論外だ。そんなクソみたいな考えは、思索に値するまでもない。
 
(理屈じゃないんだよなぁ。結果なんて後で分かるって、なぁ? 玲奈。もう少しだけ待っててくれよ!)

 重い窓をバタンと閉め、数ある調度品の中から大きめの戸棚を見つけ開いて漁る。普段着や正装など服がズラリと陳列する中、目当ての物を探り当てる。
 胸周りを覆う軽装備プロテクターと、鞘に宝玉が散りばめられた一振りの剣。

(悪ぃなブレイク。ちょっとだけ貸してもらうぜ)

 軽装備プロテクターを着込み、剣を鞘ごと腰のベルトに差し込むと、一瞬慌てた様子を見せたエリシュが平静を装い俺の前に立ち塞がった。

「まさかとは思うけど……下層に行く気じゃないでしょうね」 
「そのまさか、だよ。早速下層に向かってその三人を探したいんだけど……そんな簡単にはいかねーよな」
「ええ。ブレイク様のお父上、このハラムディンを統治する王に許可を頂かないとならないわ。……もっともお許しくださる訳ないでしょうけど」

 ……やっぱ王子だもんな。そうくるわな。

「めんどくせーからさ、勝手に行くわ。悪ぃけど後のこと、よろしく頼む」
「王子の外見をしたあなたにそんなことをされては、大混乱を引き起こすわ! それにこの城から下層に続く階段の場所なんて、知らないでしょ!?」
「俺には時間がないんだよ! それに階段の場所なら知ってるぜ。夜中迷子になったときに、とっても親切な衛兵のおじさんに教えてもらったからな!」

 引き止めるエリシュの手を無理やり引き解いて、俺は猛烈な勢いで部屋を飛び出した。
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