ノーマルニートな俺、家の勝手口の向こうの異世界で、欠食児童な勇者の孫のへなちょこ性別不明娘の相棒になりました

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+イメージテキスト:アンブッシュ・月夜の畦道にて…(全2話)

アンブッシュ・月夜の畦道にて…(1/2)

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……虚のような夜空に、黒いカラスの一羽が、羽ばたいて飛んでいる。


 夜も深い頃のことだった。
 二つの雲の狭間から満月に照らされる大地。
 その地表の、緑の生い茂った、農道のあぜ道。


 真下のそれを沿うように、月光によって黒い毛羽のツヤを光らせながら翔んでいくカラスは、
 そのまま西の向こうにへと、消えていった……



……カラスが通り過ぎたその眼下には、森に囲まれた、小さな農村があった。


 レムリアというその村のその外れで、シミターの機体が、茂みに潜み伏せる(アンブッシュ)形で機のシルエットを隠していた。
 機の体勢を、東の方角へと構えて。



 待ち伏せているのだ。

 いや、その形容も正しくはない。


 今週中で三回目になる停戦の再開と中止は、仮の停戦監視線の敷かれたこの村の近くでの、散発的な戦闘を招いていた。

 その仮の停戦線というのも、
 この三回目の中断を踏まえた現在いま、
 本格的な敵との分断ラインへと、形質が変化しつつあった。



 レムリアの村には、エルトール国国防軍の、最前線の司令要員の駐屯所が構築されつつあった。

 そんな中にあって、
 この部隊にシミターが供されたのは、本来はその実戦証明と性能の確認を、国防軍本体が、自ら自身たちでの採集と評価の為の研究蓄積を、求めていたからに他ならない。

 
 だが、今この時に至っては、
 その性能にアテ込んで、臆病な司令部要員たちが、己らを守るための、使い勝手の良く便利で体の良い、護衛代わりに運用されているというのがその実情であった。




「どうだ、キサマは初めての実戦だが、もうこのクルマ(・・・)には慣れたか?」


「え? ぇえ、えぇ、はい……
 慣れると言うよりも、慣れさせるしかない、というのが、正直なところの感想です……」


「フム、キサマは器用なごまかしができないやつだな……
 わたしも同じくだ。こちらも嘘は言えない性分でね。」



 はぁ、と答えることも、前席操縦手(ドライバー)の兵士は躊躇われた。

 なにせ、今日一日中付き合わされたのである。
 しゃれたユーモアにそう何度連続としてもてなし返す才はないと自分でも任じていたし、
 なおかつ、人を食ったような人格の、この上司の相手は、もう疲れた……



 話題の持ち合わせも、もうしばらくの間、新聞ともご無沙汰の自分には、そんな物はないのであったし、


 そのことも考えてみると、自分には、出所の怪しい新兵器であるこの機体……C.V.T、シミターへの適正と、この上司への適正、
 その二つの適正がないのではないのかと、ノイローゼぎみに考えがよぎったりもする。



(つくづく運が無いか、この俺も、このシミターも)



 そう思って毒づいたのは、その当の後席コマンダーの、上司……とぞんざいに言われた、この車長の男も同様であった。

 二人の暗唱は、可笑しいことに内容もそのまま、被さったのである。



( 最前線で、新人教育の促成栽培。無理矢理の実戦投入で無理矢理、知見を得ようとする。
 
 なんの拷問だ?

 最前線はトレーニング・センターではない!
 翻って言わせてもらえば、いったいなんなのだあの連中は。
 自分らを守れれば、俺たち木っ端どもは如何様にとでも使い潰せてよい、かの如くだ。

……

 後方で鳩ぽっぽ(リンクトレーナー)を使うのが、より充実した教育を施せるだろうに……
 この機体に掛ける熱意と思惑と現状のところの評価というのが手にとれるかのようだ。

 直接命がかかってる分、村の本営の奴らの方が、まだこのこいつ(シミター)にマシな評価をしているだろうよ。

 そしてそれに乗せられた、この俺の人事査定というのもよ、 )


 即物的な方法では解消の難しい苛立ちで
 いらだっているのもあるから、今日一日中、この前席操縦手をいびり倒していたというのがその実際であった。



(まったく、お偉方め、この俺にこんなケッタイなシロモノを任せて、どうとしようというのだ!?)


 こちらの男はというと、いかんせんこないだの開戦からのめまぐるしい戦いの連続によって無理矢理に戦争処女をこじ開けられたのもあるが、
 そうでなくとも、平時から偏屈さで知られるところの人物評であった。


 果たして、常識とはその人の身につけてきた偏見のコレクションだとは、誰が述べたことだろうか。

 そんな車長の男も、自らに任され与えられた、この奇天烈な新鋭兵器のこなし振り方というのを、イマイチ定められずに居た。


 階級の高さは、すなわち一定以上の思念旅行の随想の自由を制限する枷でもあった。

 なので彼なりの偏屈さでこの現状の己を省みて、
 そのまま、自らの処世と重ね合わせてのことなのかも知れない。

 車長の男も、シミターのゆりかごを与えられただけの、迷える赤子の一人であった……


 まあそれはともかく、

 


(…………――‥‥‥………………)



 この場に、シミターは四機いた。


 まだ、このシミターC.V.Tの運用法とその常則は目下のところ研究中であるため、
 この四機編成を二機の分隊を二個ととるか、
 三機一個小隊に司令機の一機が追加で加わったものととるか、

 当の部隊を構成する部隊員自身らも、頭を悩まし、未だ判断つかぬるところの問題であった。



 まだ村の方の本営に、予備機ともう一つの分隊分として、三機が存在している。

 そちらの方は、村の本営の直接護衛の分として、温存と安置が図られていての処置である……

 
 つまり、合計で、七機、

 そのシミター機が、はるばるアブトリッヒ領から産地直送で、量産試作相当の先行生産機のそれが、まわってきた、ということである。



 機体と乗員は、三機が先行して到着していたのを、しばらく運用していた……車長の男は元々はそっちの乗員で、
 追加で一週間前にアヴトリッヒ領・領都のトレーニングセンターを出発してから、一日で到着した残り四機とともにこの村を本拠に、ここ近日の不穏な現況に、その都度の対応と対処を図ってきた。

 その際、自分の機のドライバーと、慣熟度向上の為にスワップしたのである……

 今日に至っては、
 今から四十五分前に本営の警備機と交代する形で出動がかかり、
 そうして今まで、このここで、警戒についていた。



 この場の四機は、この農道のあぜ道に、チェック・ポイントを置くような形で、
 全機がアンブッシュして隠れ伏せている。

 シミター機の降着姿勢を応用した、
 姿勢変形による車高降下の為の運用法のひとつである…

…これは製造元で、すでにやり方が研究されていた。
 したがって、この部隊のオリジナルということでは、ない。




 昼間であれば、美しい田園が、この道の左右に広がる。


 道の村側、村の向こうには、緑豊かな森がある。
 道の、敵国側には、綺麗な湖が存在する……

 土の露出したあぜ道に両脇を造るように、何本かの木立と、背の育った茂み。
 それらの中に隠すように、機体は降着姿勢の可動を用いて、伏せられている。





「!」



 司令部からの暗号符丁通信が入ったのがたった今のことである。
 内容はこうだ。「鳴子を敵が通過した。」……
 通行を検知するトラップに、関知があったのである。
 しかも、そのときの判定は、味方友軍のものではない……




「ジャミングは?」


「地表経通の相手からの探知はできてないはずです……」


「そのようだな、この俺の魔法力のセンスでも、機の感覚は伝わってこない。」



 機のセンサーでも探知が入り、裏付けが取れた。

 司令部直属の偵察のワイバーン航空騎兵による、敵部隊の捕捉があったのが、先ほどという事であった。



 それを受けての、この警戒配置の実施ということである。





 そのとき、上空に、閃光のいくつかが打ち上がった。

 味方側からの、噴進魔導棍(攻撃用ロケット弾)…………ブラストログの斉射迫撃である。
 おそらくはこちらに向かってくる敵の、その支流根元に相当する地点への、数減らしの為の迫撃であろう。

 西側からブラストログが垂直に近い角度に立ち上り、そこから弓なりに軌道を描いて、東側の真っ向へと向かっていくのが見えた……

 月が照らす夜の闇を、
 白ばんだ炎光と光条が、流れるように彼方へと墜ちた。


 続いて、第二射めが加わる。
 先ほどと同様に打ち上がった炎光が、粒のような光点の集合になってからその同数の光の筋の通過となって、
 そして……遠くからの轟音……炸裂音……の連続となった。


 秒としないうちに、そんな一連が、ここではない遠くの戦場の音として経過がされた。
 この場の人間たちには、音や光を通じた間接的であるが共通の体感として、その経過の一瞬がもたらされた。


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