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+イメージテキスト:砦の落日(全3話)
砦の落日(3/3)
しおりを挟む策が発動した。
門を突破したシミター・スタンディングアーマーは、そこで待ち伏せに遭遇したのだ。
砦の内周壁面、壁の影、予測して待機させていた兵員たちが動き出す。
四隅に隠れていた兵士や魔導士が、徒歩で肉薄して、砦壁の中のシミターを、彼ら彼女らの即席の射撃分隊が取り囲んだ。
「これより我が堡砦は、白兵戦闘に移行する!」
大佐は天運に賭けながら叫んだ。
「長筒、構えぇっ!」
俄に大佐が場所を構える発令所の中が慌ただしくなる。
それとは別に、何人もの士官たちとその従補が、自分たちの実力を以っての戦力応援の為に、セクション班ごとに小隊や分隊を組んで発令所の外へと出る。
余りにも体の無い我方の劣勢を目の当たりにして、自らたちを決死の増援としたのである。
それから、自分の指揮下の部門が損壊したか全滅した士官にとっては、その穴埋めと仇を取ろうという意図に基づいた行動でもあった。
目論見は、撃破ではなく擱座させての無力化。
取り囲んで砦門を再び閉じてしまえば、奴は孤立する。
あわよくば、この世界のどこの国もどの勢力も得れていないという、あのシミターとやらの現物を鹵獲なれば、
破壊された個所も多い砦壁内の射撃トレンチとベトンから、生き残りが火器を手に這い出てきた。
伏兵の分とも合流した彼ら長筒を構える銃撃部隊が、遠巻きにシミターへ銃口を向ける。
一方、堡砦、中庭に突入したシミターの一機は、取り囲む射撃分隊を見計らうように、若干の移動を続けながら相対していた。
取り囲む射撃分隊は、そのシミターの動きに合わせて、距離を取りながら射点をにじり寄らせる。
永久とも思える緊迫、しかし十秒も経っていない。
そして、一拍の間、それが弾けた。
(射撃魔導士の集中統制射撃だ。まともに喰らえば、ただのゴーレムならば塵芥一瞬、いかに名の通った“灰塵の畜鬼”とて、なんとかは……)
長筒の銃撃が連発して火を噴いた。
そしてそれよりも近接する、射撃分隊も乾坤一擲を賭ける。
賽は投げられた。
各射撃分隊が連携して、
射点を集約しての集中射。
放たれる弾丸も、歩兵列の重層の撃破や騎兵の掃討に威力を発揮する、魔力ケースショットや魔力ぶどう弾の魔法弾。
機動力が優勢な、高速な相手にはこれで動きを止めて釘づけにしてやればいい。
それが直撃していって、――傷一つついていない。
「そ、そんな」
双眼鏡を取り落しそうになった。
いや、莫迦な。そんな、あり得るはずがない。
切り札も破られた。
正面からの直撃弾(クリティカルヒット)をもくろんでいた、重射撃小隊の手で移動展開されて敷設間近、射撃寸前だったシミターの正面前方の可搬バリスタが木屑になった。バルカンとマウザーの同時斉射であった。
シミターの機体が周囲への射撃掃討を開始しながら、転回旋回を始めた。
一回転の旋回が完了した頃には、付近に動く者は(動ける者は)存在しなくなっていた。
だが、最終段階がまだあった。生き残りの射撃分隊が護衛しながら、何人かの魔導士を正面へと連れて繰り出した……土魔導士だ。
魔導士の何人かは迎撃に出さなかった土魔導士が多少いて、その者たちが少数の土ゴーレムを錬成した。
少数の二線級が魔力と命の限りつくれるだけの土ゴーレムを作って、若干数。
手筈通りだ。そしてその脇まで運搬台車に載せて搬出した、装填前の弾薬庫から出したブラストログをその土ゴーレムに持たせて構えさせ、それを白兵戦用の刺突爆雷とする――スタンディングアーマー・シミターへの自殺特攻が企てられたのだ。
しかし、多くの数体は接近する前にバルカンやマウザー砲の銃撃によって粉砕され無力化されて手に持つブラストログは誘爆し足元や周囲の魔導士や兵士ごと吹っ飛び、
なんとか接近し肉薄に成功したブラストログ持ち土ゴーレムも、シミターの格闘とも言えない腕払いによって
その手と腕のブラストログごと、粉砕されて
薙ぎ払われていった。
中庭での戦いは以上に決した。
「緊急!」
絶望の報告がその時もたらされた。
先ほどの通報を思い出す。
そういえば、数はしらされてなかった。
「北壁東、取りつかれましたァ!」「こちら、西正門粉砕された。阻止を試みているが、突破される! た、助け……」
砦内の各地区(ブロック)に整備されていた、伝声器の通信が殺到する。
シミターの数は、一機ではなかったのだ。
総数は分からないが、それでも多数。
それが堡砦の各方面のゲートを破壊して侵入して、砦自体を内部から破壊しようとする。
しつつある。
包囲突入されたのだ。
「――……降服だ、」
それから数分、
わずか十五分で、堡砦は陥落した。
(………―――………)
将軍は、このあまりにも不甲斐なく、情けない事態の所存を取る覚悟をした。
立ちすくんでいた脚と腰に力を込める。発令所の誰も居なさそうな場所をさがす。
従卒に手で示して、己の首を刈れ、の意を示した。
沈黙した顔の従兵がそれに従おうとした時――
“兵士、士官、将官、この砦の責任担当の者へ、自決などは考えるな、我々は誠意ある処遇を貴殿らに保証する! 国にも掛け合う、貴殿らの名誉も守られよう!”
「!」
大音響の拡声魔法による布告勧告。
発令所の中の士官も将校も、
傍らの従卒兵も呆気にとられるばかりであった。
思い出して、懐からシャトル・ブローチを取り出して、その蓋を開ける。
半ヶ月前に首都の宝飾店で新調したばかりで、その中には先月結婚したばかりの下の息子夫婦の写真が込められていた。
「息子よ……」
大佐の視界が、不意に滲んだ。
瞳に映る写真が、涙に曇った。
この日、五か所の砦が同時に陥落した。
浸透戦術の出現と実行である。
連邦の国境正面の防御線を越えたシミター部隊による電撃的な強襲奇襲であった。
それが成功した。
連邦国中央平原の防衛施設が、喪失したのだ。
連邦国の中央地域は、無抵抗の丸腰となった。
首都はもう目前だった。
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