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+イメージテキスト:砦の落日(全3話)
砦の落日(2/3)
しおりを挟む「バリスタ、用意!」
それでも冷静を己に言い聞かせて、次の号令を取る。
本来であれば攻城用の重威力弩。それが据えられた砦壁の簡易砲座の、その急造の木製シャッターが下ろされる。
長大な弩の本体が暴露し、射撃体勢とするためにその本体が砲側操作用員らの手でスライドされて射界中心基軸位置に、若干に押し出された。
対スタンディング・アーマー用に、緊急で各拠点に整備配備がなされたものであった。
それもただのバリスタでは無い。魔法科学と高位の魔獣の素材を組み合わせて強化された、この世界の陸上軍の切り札ともいえる等級の代物で、鉄壁同然の大城壁さえも穴を穿てる程のものだ。
号令が挙げられ、慌ただしく銃座の操作要員たちが射撃の準備の最終段階を開始する。
銃座の即応弾のケースから防湿の為の最後の覆いが解かれ、弾薬相当のそれが露出した。
巨大な発射機に巨大な矢。矢には専用の弾頭……これまた巨大な矢じりが装着されている。
矢じりには数通りを用意されている。
徹甲弾なら一撃でドラゴンのうろこを砕き肉をつらぬき、炸裂弾ならばオークやゴブリンの陣勢を丸ごとミンチにすることが出来る。
焼夷弾ならばそれらをことごとく塵芥に変えられる。
なにより戦艦搭載用に研究されていたという、新開発の高威力魔力チャージド衝撃打撃弾ならば、アトラス鋼の分厚い装甲さえも叩き割る結果が試験では示されているとの話だ。
平たく言えば決戦兵器クラスの物であった。
これは、この世界のゴーレム程度であれば、“これまでであれば”、威力過多といえる程くらいに、跡形もなく撃破する事が出来る。
常識としては、矢の価格に戦果の釣り合いがとうてい及ばない、とされるほどに。
そのバリスタの砲側照準眼鏡を覗いていた射撃員の一人が、準備の合図を僚兵に示した。
装填手たちが数人がかりで、バリスタの発射架に重量のある巨矢――腕に自信があり、シミターの装甲の事を知らない彼らは、一撃必殺を狙って、徹甲弾を選んだ――を乗せ、続いて別班が巻き取り機を操作して巨弓の弦を最大までに引き絞る。
砲側要員たちは一様に顔に汗を浮かべ散らしながら、準備をこなしていく。
そうしてこの銃座のバリスタは即応状態となった。他のバリスタも、もうすぐで射撃可能状態となる。
照準手の彼は同軸スコープのピントを追尾させながら、敵・新型ゴーレムの機影が射程距離の中に入るのを待った。
そして、その瞬間が訪れたのはその時だった。
ブラストログと比較して射程が短かろうが、直接照準が可能なレンジに入る寸前――――銃座の射長が発射の指示を班に下した瞬間、
その一門が、轟音と共に木屑に包まれた。残骸が砕け散って、操作用員たちの悲鳴と絶叫が木霊する。
シミターからの先制攻撃……いや、先程のブラストログに対しての、反撃である。
バルカンの掃射によって、砦壁の上に張り出し銃座として設けられていたバリスタの一基が粉砕されて木片に変えられた。その瞬間であった。
続けざまに、大イノシシの鼻息の様な怪音が遠くの大地から断続した。同時に、木の扉戸に岩を叩き付けるかの様な音も連続する。
シミター型機甲ゴーレムのバルカン砲ターレットと、搭載の35mmマウザー機関砲銃塔の同時射撃だ。
連続して射撃の火線は飛来して、その方角にあつらえられていたバリスタの数基も、その次の何基もかもが続けて粉砕されて沈黙していった。
だが、堡砦の壁の銃眼が開いた。直後に砲火がその銃眼で瞬く。“長筒”と呼ばれる魔力銃の射撃である。
シミターに搭載されている新式魔力機関砲以外の、この世界の在来型の魔力銃砲は発射する魔法弾の莫大な魔力熱に耐えるために銃本体が極めて重く大型で、そのうえ射程が短い。そのために銃砲隊はバリスタの次に射撃のタイミングが見計らわれていたのでもあり、故にこそ砦の指揮官たちは、自分たちの相対する敵のゴーレムの搭載火器が計り知れず、また、どのようなものか、記録に記そうにも、皆目見当が付かなかったのでもあった。
生き残りのバリスタもようやく機能が復帰し、遅ればせながら、その砲座からの巨矢が何度も射撃されて、操作用員の腎力を迸らせて、力任せに連射と連発が繰り返された。それは今も続いている。
壮絶な規模の矢と魔力弾の雨が、たった一機のシミターに対して降りかかっていく。
集中砲火が開始された瞬間だった。
しかし……
「あ、あたらな……」「牽制につかえばそれでよろしい!」
地面に相手を射止めることも叶わず突き立つバリスタの巨矢を見て、絶望の声を呻いた砦付射撃部門の射撃補佐に、射撃長が怒鳴りを散らす。
そうして砲側用員の呻きと悲鳴を引き換えに、バリスタの構造が俯角いっぱいまで下げられて、そして射撃が再開される。
そして放たれ突き立っていくバリスタの巨矢は、しかしスタンディングアーマーに当たることは無かった。
滑るような高速で、シミターはその全ての攻撃を回避していったのだ。
また、スペックと戦闘法が分からない初めて遭遇する相手を敵にして、在来兵種に対応した経験しか持っていない防衛側の見こし射撃が全くの無効だったことも大きな要因だった。
長筒の銃撃も、シミターには当たらず、何もない空中で魔力弾丸が弾けて、花火のように煙雲の玉が割れて散って、それが何発も立ち昇るばかり。
その上、引き換えのように放たれた銃撃によって、砦壁の銃眼は潰され、残るバリスタも破砕されていくだけであった。
あまりにも高速なシミターの走行の前には既存射撃兵器は無力でしかなく、
一方シミターは大佐と砦の兵員をあざ笑うかのように、残された射点を銃撃し、粉砕していった。
丸ごとに砦が丸裸にされていくのを、発令所の要員たちは戦慄しながら、黙って耐えるしかなかった。
そして砦壁の門に、スタンディングアーマー・シミターが取りついた。
既に各門は閉じてある。だが、それさえも無意味であった。
やけに軽々しい軽快な音で、砦の丸太組みの門が中間や上下で拳(マニュピレータ)によって突き破られて、砕かれていく。
轟音とともに、木組みの砦門が沈黙した。
堡砦の正門が、ばきばきと破られる瞬間だった。
オーガでさえ、こんな腎力はありえない――
「誘き込んだか、」「ハッ、」
だが、大佐はあくまでも冷静だった。それを意識する。崩してなるものか……――
策が発動した。
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