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第二章:500円のファンタジー(全16話)

500円のファンタジー(5/16)

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「はぁ、はぁ……っ、ボ、ボクも聞きたい事がありますっ!」

 貴族っ娘はそういうと、ぴしっ、と俺に指の先を指して、

「なんで昨日はいなくなっちゃったんですかぁぁっ! あの後またこっそり屋敷から抜け出て、探しに行ったんですよぉっ」

「いて、いてっ、いて!」

 ポカポカ、と精いっぱいに叩いてくる、この……ルー、ルーテフィアとかと呼ばれてた、この娘。めそめそしながら殴ってくる。どっちかひとつにしやがれ。叩かれた感触は、こそばゆい感じだ。
 そう言いながら、彼女?…いや先方は声を続けて、

「夜中までまったのにっ、ねばったのに、はじめてっ、ともだちになれるひとかもっておもって、きのうは夜遅くまでがんばったのにっ、見つかってメイドには怒られてたたかれたのに、ぐすんっ」

「だ、だったらなんで今日は、飯食う前の最初はにげようとしたんだよっ」


「だ、だっておじいさまが、フシンなやつには“あいびき”なぞ言語道断、っていうからっ……、ところで、あいびき、って、どういう意味のことばですか?」


 そう俺が怒鳴り半分も同然に聞き返すと、叩く手が止まって、目の前のこいつは言い分の開陳を始めた。

 アイビキ? 合い挽き、逢い引きねぇ、意味が分からんが。
 
 この、ルーとかって奴。
 男にしては器用なことに女の子坐りで地面に坐ったまま、 俺に身体を向けて、そのまま……会話が始まった。

 つーか、あん時の『またね、』って、そーいう意味かよ!?



……そしていま、会話は一端停まって、沈黙……というものが、場に満ちている。


 場の地面とおれらには、昼時の陽光の光が木漏れ日となって、柔らかに降り落ちていた……


……穏やかな、時間……

 
 なーのーであるがっ、果たしておれたん、いま、テンパっていた……
 だぅて、だって、そのー、ね? わかるでしょ!!(わかるわけがない)


 
……それからしばらく無言が続いた。


 なーので、テンパっていた、その理由を開示しよう。

 それにしても、こいつはなんなのであろうか。?
 というのがそれへの気付きであった。
 

……、いちいちの、しぐさが、あやうい。


 たとえば……目を交わすときとかの、そして会話したときなんかは、反応や相槌のときの、
 さりげない、その……仕草といいましょうか、萌えポインツといいましょうか……


 なんというか、どうせ、男の娘? とかでしょうけど、わたくし、わてくし、だいぶ、これは……

……!

 しばらく意識が肉体から離れてて(成仏?)、いま、そのことに気付いたので、あるが……
 
 この、こいつ、
 気がつくと、俺の手をつかんで、自分の手と腕を掛けてきている。
 こいつのは、ちっこい、ほそっこい腕と手と指なので、そんな白魚のような、ぷにぷにすべすべのそれが、なんか、俺様の腕手なんぞに、絡むようなかんじになってしまっている。

 なんでしょうかい? と、

 それについて聞いてみた。


すると、返事は「…?」ってのことで。


 ええい、もう一回、だ。……すると、


「なんでしょう?」

 いや、その、あのね、……するとすると、


「……てへへ、こうしてると、君との、出来たばかりのこの絆が、ボクに伝わってくるから、かな……?」


 照れたようではあるが、しかし、顔を無邪気なにこやか顔にさせて。


……あー、うー、あー、その、なんだ。……



……あやうさすら感じるほどの懐っこさである……


──嗜虐心が湧いたわけではないが、世の中のきびしさ、というのを、説明したく、伝えて考えてほしく、


 はぁ、はぃ? うーん、と。
 このルーさんだとかはそんなわけなのですが、あたし、男に言い寄られる趣味なんてもってないわよ!って返したところ、おもいっきり「?」の顔もされて頂いた。


「? どうされましたか…?」


 いや、あのね、あのね、……


「! も、もしかして、ボクのこと、嫌いになっちゃったり?!」


 怯えさせないように柔らかい言葉と物腰で伝えたはずだったが、それでもその絆とやらの否定に映ったらしく、こいつは、がーん!?……というような表情になったりしたりして、
 そんで、俺はそれのフォローでさらに泥縄になったりして…… 

 ああもう!
 俺っち、こんな他人から距離を詰められるのに、慣れてないのであってえ……


 なあにドギマギしてるかねー、俺も。



 まあそんな感じで、数分がたったところであったと思う。



……──さまぁ……どこにいかれたのですかぁ………──



「あっ……は、はやく、」


 
 あぁ、……まったく、今日は大変な日だったぜ。






「またねっ」
 
 次もこれるようにしてくれたらな、あのメイドなんとかしてくれよ、
 う、うん……はは、
 という話は深刻であったが。
 まあ、去っていく俺の後ろ姿に、また貴族っ娘は声を掛けてくれていた……

 振り返って見てはいないが、昨日みたいに、ぴょんこぴょんこ、飛び跳ねているのだろう。
 そうしながら、背後からげんきなそいつの声だけが聞こえている。


「じゃあねっ」


 まあ、これが二日目の記憶である。

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