39 / 79
第二章:500円のファンタジー(全16話)
500円のファンタジー(5/16)
しおりを挟む「はぁ、はぁ……っ、ボ、ボクも聞きたい事がありますっ!」
貴族っ娘はそういうと、ぴしっ、と俺に指の先を指して、
「なんで昨日はいなくなっちゃったんですかぁぁっ! あの後またこっそり屋敷から抜け出て、探しに行ったんですよぉっ」
「いて、いてっ、いて!」
ポカポカ、と精いっぱいに叩いてくる、この……ルー、ルーテフィアとかと呼ばれてた、この娘。めそめそしながら殴ってくる。どっちかひとつにしやがれ。叩かれた感触は、こそばゆい感じだ。
そう言いながら、彼女?…いや先方は声を続けて、
「夜中までまったのにっ、ねばったのに、はじめてっ、ともだちになれるひとかもっておもって、きのうは夜遅くまでがんばったのにっ、見つかってメイドには怒られてたたかれたのに、ぐすんっ」
「だ、だったらなんで今日は、飯食う前の最初はにげようとしたんだよっ」
「だ、だっておじいさまが、フシンなやつには“あいびき”なぞ言語道断、っていうからっ……、ところで、あいびき、って、どういう意味のことばですか?」
そう俺が怒鳴り半分も同然に聞き返すと、叩く手が止まって、目の前のこいつは言い分の開陳を始めた。
アイビキ? 合い挽き、逢い引きねぇ、意味が分からんが。
この、ルーとかって奴。
男にしては器用なことに女の子坐りで地面に坐ったまま、 俺に身体を向けて、そのまま……会話が始まった。
つーか、あん時の『またね、』って、そーいう意味かよ!?
……そしていま、会話は一端停まって、沈黙……というものが、場に満ちている。
場の地面とおれらには、昼時の陽光の光が木漏れ日となって、柔らかに降り落ちていた……
……穏やかな、時間……
なーのーであるがっ、果たしておれたん、いま、テンパっていた……
だぅて、だって、そのー、ね? わかるでしょ!!(わかるわけがない)
……それからしばらく無言が続いた。
なーので、テンパっていた、その理由を開示しよう。
それにしても、こいつはなんなのであろうか。?
というのがそれへの気付きであった。
……、いちいちの、しぐさが、あやうい。
たとえば……目を交わすときとかの、そして会話したときなんかは、反応や相槌のときの、
さりげない、その……仕草といいましょうか、萌えポインツといいましょうか……
なんというか、どうせ、男の娘? とかでしょうけど、わたくし、わてくし、だいぶ、これは……
……!
しばらく意識が肉体から離れてて(成仏?)、いま、そのことに気付いたので、あるが……
この、こいつ、
気がつくと、俺の手をつかんで、自分の手と腕を掛けてきている。
こいつのは、ちっこい、ほそっこい腕と手と指なので、そんな白魚のような、ぷにぷにすべすべのそれが、なんか、俺様の腕手なんぞに、絡むようなかんじになってしまっている。
なんでしょうかい? と、
それについて聞いてみた。
すると、返事は「…?」ってのことで。
ええい、もう一回、だ。……すると、
「なんでしょう?」
いや、その、あのね、……するとすると、
「……てへへ、こうしてると、君との、出来たばかりのこの絆が、ボクに伝わってくるから、かな……?」
照れたようではあるが、しかし、顔を無邪気なにこやか顔にさせて。
……あー、うー、あー、その、なんだ。……
……あやうさすら感じるほどの懐っこさである……
──嗜虐心が湧いたわけではないが、世の中のきびしさ、というのを、説明したく、伝えて考えてほしく、
はぁ、はぃ? うーん、と。
このルーさんだとかはそんなわけなのですが、あたし、男に言い寄られる趣味なんてもってないわよ!って返したところ、おもいっきり「?」の顔もされて頂いた。
「? どうされましたか…?」
いや、あのね、あのね、……
「! も、もしかして、ボクのこと、嫌いになっちゃったり?!」
怯えさせないように柔らかい言葉と物腰で伝えたはずだったが、それでもその絆とやらの否定に映ったらしく、こいつは、がーん!?……というような表情になったりしたりして、
そんで、俺はそれのフォローでさらに泥縄になったりして……
ああもう!
俺っち、こんな他人から距離を詰められるのに、慣れてないのであってえ……
なあにドギマギしてるかねー、俺も。
まあそんな感じで、数分がたったところであったと思う。
……──さまぁ……どこにいかれたのですかぁ………──
「あっ……は、はやく、」
あぁ、……まったく、今日は大変な日だったぜ。
「またねっ」
次もこれるようにしてくれたらな、あのメイドなんとかしてくれよ、
う、うん……はは、
という話は深刻であったが。
まあ、去っていく俺の後ろ姿に、また貴族っ娘は声を掛けてくれていた……
振り返って見てはいないが、昨日みたいに、ぴょんこぴょんこ、飛び跳ねているのだろう。
そうしながら、背後からげんきなそいつの声だけが聞こえている。
「じゃあねっ」
まあ、これが二日目の記憶である。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる