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+イメージテキスト:泥濘の王(全6話)

イメージテキスト:泥濘の王(6/6)

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 今の一連。
 これは手品などではなかった。
 シミター型スタンディングアーマーの搭載火器は、特殊な構造である為だ。
 鬼車の場合はあくまでも圧縮気体の精製時に余剰となる、圧縮装置機関と魔導動力機関の余剰動作魔力の出力を、その装甲外装の強化魔法の作動魔力として充てて使っていた。
 
 このシミターの場合、まず外装と装甲どころではなく、機体の全身が超素材の材料で製造されている上に、搭載機関の出力は極めて多大どころか過大に、有り余るほどに莫大であった。
 
 だからにして、その出力の僅か数割を振り分けられる形で、しかし従来のなにもかもを圧倒する程の防御性能能力を手に入れるに至っていた。
 何重幾重にも念入りな、鬼車の加護術式なぞ比較や比類にもならないほどに、きわめて堅牢に施された何百十種類に及ぶ防護魔法と保護術式、それから反応防御装甲の魔術が施されているのだ。
 しかもこれも革新的な原理によって、多量大量の一挙量産にも適合する形態として量産が可能な新技術によって、圧倒的なコストパフォーマンスでもたらされたものであった。
 
 そして肝心なのは、その原理を搭載火器の原理にも応用していることだ。
 それ単体であれば、この世界の一般的な火力兵器である魔導銃砲や魔力火器、魔導士の扱う魔法弾の類として現臨しているものである…そう珍しい物では無い。

 
 だが、この機体の装備する火器に於いては攻撃力の度合いを、様々な工夫によって、絶大に高めることに成功していたのである。
 単に有り余る出力を投入しているから……というだけではない、まずもって、このシミターでは魔力の発生と圧搾収束の機構構造が今までにないものとなっている。同様の原理で、この機体の魔力発生精製の機関はこれまでにない莫大な出力と効率の高さを手に入れるに至った革新的なしくみである。
 それを用いて発生した膨大な魔力魔導力は、さらに同様の構造と機構によって再発明がされた魔力機関砲に繋がっている。
 
 これも今までになかった、極めて斬新なガン・システムだ。
 そこにさらに桁違いの出力を投入するのだから、最終的に得られる威力は目を疑う程の物になる。
 そればかりでなく、銃砲身が回転式の多連砲身となっていることもまた画期的であった。
 これにより、魔導銃や魔導砲の弱点であった砲身銃身の膨大かつ過大な熱負荷を、まったく取り除くことに成功したのである。
 恐ろしいことに作動機構の魔力魔導科学化によって原型となった兵器からさらに威力と性能が向上したらしく、たった一門の火器から、数百数千の弾丸の嵐を、出しっぱなしに、たった数秒で薙ぎ払うかのように浴びせることが可能なのである。
 
 
 最後に、この威力の度合いは、自在に可変させることができるのである。
 たった今ゴング1――このシミター部隊の指揮官――が指令したように、魔法弾であることを最大限に生かした、非殺傷威力の段階から、“ソリッド・モード”と通称される、実体弾同然の威力の効果も付随した、高超威力の対装甲撃破モードまで、数段階が存在している。




 モチーフとなった作品の「原型機」は対艦ミサイルの直撃がどうやらで慌てふためいて苦労していたが、この異世界グレード版のシミターならば、正面からそれらの直撃を連続して浴びて喰らっても、まったくの無事とされるほどに……
 あの世界にこの超兵器版シミターが存在していたならば、それを得た勢力は無双英雄伝の如き活躍が出来るであろう程の、クレイジーな性能だった。






 以上は、わずか十数秒のことであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「に、二台目を出せぇえ!」






 司令官の一人が錯乱したかのように叫んだ。
 
 
 
 すると、撃破された鬼車からはシミター隊を挟んで反対側に、その箱状のシルエットの姿が出現していた。



 シミター部隊の不意を突く狙いで、裏側から回り込んでいたのである。




 二代目の鬼車の砲の砲身が俯行した。
 シミター隊の部隊へと、照準を向けたのだ。






 しかし……









〈後方、五時の方角。一斉射!〉《了解》




 
 
 鬼車からすればあらぬ方向を向いていたはずのシミター機が、一斉に、胴体だけを鬼車の方へとぴたり、と合わせたのだ。
 腰部旋回部を用いてのターレット操向であった。
 
 鬼車のゴブリンたちは、目を覆う瞬間も無かった。





 次の瞬間には、殺到した弾雨が暴風のように凪いで、二台目の鬼車は蜂の巣になった。
 たちまち乗員ゴブリンは己らの悲鳴につんざいた。
 抉れ穿たれ、そして焼け焦がされて、潰しちぎれ散らされる。
 スポンジ状に穴だらけになった装甲であったが、しかし運が良かったのか、車体は炸裂することは無く、その無限軌道はまだ稼働が可能であった。
 後進を掛けて、逃げるように退散を図ろうとする……





〈各機へ、特科兵装使用許可、…―――撃て!〉





 それが、次の瞬間には粉砕されていた。
 
 
 今までとは違う種類の火力だった。
 まず最初の二発で打塑され、穿たれた外装板が破れて陥没したのだ。
 続けざまの三発で、全体のフレームがへし折られ裁断したことによって、鬼車の車両は、押しつぶれたバラックの如き有様となった。


 放たれた弾丸の口径以上の威力に、まるで銃砲で撃った、というよりは、鉄拳や大槌で殴りつけた、かのようなダメージを浴びた様相でもあった。
 


 とどめに三発が浴びせられた。
 その数発でひしゃげて、そして――完全に沈黙する。








 一部始終を目撃していたその場のすべては、言葉を忘れて震え上がっていた。
 センタリアの兵士と士官たちは、唖然とするしかなかった。







 最後に、再びシミターの機体の上半身が転回されて、司令部施設がある方角へと合わせられる。



 シミター・指揮官機と僚翼の数機のシミターの右腕部・マニュピレータに装備された、その得物による戦果だった。
 その先端の砲口からは、只今砲煙を吹きあげている。
 
 
 
 
 
 

 90ミル・コッカリル砲が装備されていた。
 その射撃だ。






 高威力運動弾種魔法弾による、対物破壊種類の攻撃射撃であった。
 
 
 
 望遠眼鏡を構えていた指揮官や射撃隊の班長なんかは、その望遠鏡を取り落しそうになった。
 
 その攻撃力が、次は自分たちに向けられるのだ。誰だって悪夢としか思えないであろう。
 



 シミター隊の機体が、再び前進走行を開始した。
 





 
 
 恐慌状態に彼らセンタリアの兵士たちは陥った。

 
 
 
 
 
 
〈…――あれは、〉
 
 
 
 
 
 シミター隊の隊長であるゴング1がそれに気づいた。
 敵司令部陣地の奥向こうから慌ただしく飛び去っていく、空中騎兵の騎竜(ワイバーン)の複数の影である。
 
 
 
 
 
 この時に彼は、〈負け〉を思い知った、という。
 
 
 
 
 
     * * * * *
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、結果を述べよう。
 
 
 最終的に敵司令部陣地へと到達したシミター隊。
 自分たちの乗ってきた追従の歩兵装甲車型シミターから降車し、他含めの機体の支援を受けつつ、中へと突入した随伴歩兵達がみた物は、
 
……だれも居ない、無人の司令本部室であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 まんまと時間稼ぎをされた、ということであった。
 シミター隊の搭乗員たちは、いずれもエルトール帝国の苦戦する他の部隊から、シミターの勇名を知って志願して教練を受けた、兵科転向を経ての者たちが揃っていた。それに原因が起因していた。
 故にこそ、決死の覚悟で鬼車二台と、大立ち回りをしたのだ……そして確実の撃破を果たしたが……――と彼ら達は、帰還した後の軍団長との面会の席でそう詫びた。
 
 
 
 
 
 
 
 ともあれ、これによって、このFラインでの戦闘の終結は決定打こそ得れなかったが、情勢は大きくエルトールの側へと傾くことになった。
 
 
 
 
 
 センタリア本国の報道から情報を探るに、脱出した高級士官や司令官たちは、生きながらえることはできたとはいえ、鬼車を二台も失うという失態にセンタリア国王の怒りを買い、今度はより際どい激戦区へと首刎ね同然に送られた、と聞く。
 
 
 一方、鬼車を二台も撃破した彼らシミター部隊ゴング中隊には、その成果から全員に特別に恩賞が与えられ、後に各地の戦区で勇名を馳せることとなる。
 しかし、シミターの実力は圧倒的なので、次第にシミター対鬼車での鬼車の撃破が累積していくにつれ、このような対鬼車でのハンター・エースの褒賞贈与の事例は少なくなっていった、という。
 
 以上はシミター導入後、運用の初期に起きた出来事の一つであるのだろう、つまり、まだまだこの戦争は続く、ということだ。
 広大であった戦場全体を見渡せば、このような物語の話は、驚くほどに多いのかもしれない……
 
 
 
 
 
 
 Fラインの敵戦力規模は、半減以下にまで縮小した。
 これによってエルトールの多くの兵士達が、冬の休暇を故郷で過ごせる事となった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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