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+イメージテキスト:泥濘の王(全6話)
イメージテキスト:泥濘の王(4/6)
しおりを挟む真っ青になった前線指揮官や士官たちが、即座に伝声具を取って、
射撃の中断と保留を報告しようとした……
しかし、いくら陳情の声を上げても…
…──伝声器の向こうからは、無言しか返ってこない。
そうこうしているうちに、正面からはシミターがやってくる。
センタリア人にはやる気と根性(スピリット)がある!
混乱してなお、涙ぐましくも、
抵抗と阻止を試みようとする、兵士たち…………
だが、
シミターたちが接近して暴れたか、近接か肉薄位置にあったが通過か回避を取ったりした、層の浅いセンタリア陣地から、
同様の爆轟による炸裂が、閃いて、轟いていった……
無念の中で、兵士達はしんでいった……
他の何者でもない、友軍の手によって!
センタリアがセンタリアを殺す、そんな情景が完成していた。
まさに共食いの蛇の破滅であった。
だが、これは始まりでしかなかった。
事態は開始されたのだ!
シミターたちが暴力を振るい通過していった、
その足跡の道痕において、
遅れて徐々に塗りつぶされて染められるかの如くに、同様の状況が再現されていった……
彼ら彼女らセンタリアの友軍たちは、同じ友軍の
重砲弾の投射射撃によって、肉の肢体が散り散りに焦がされるまで、念入りにバーベキューがされていった……
不条理な現象だったろう。
だが、これにだって理屈はある。
何を隠そう、センタリア側の司令部が恐慌状態に陥っていたからである。
混迷のそれたるや著しく、
軍議と議論の過程で、白熱や破局した結果、
密室の中で、処断や処刑の流血なども繰り返し出た後であった……
そんな恐慌状態を来した司令部が、
やみくもに重砲やブラストログのつるべ打ちを命令していたからだ。
その結果として、
たった今においては、無制限の砲迫射撃が、下令されて開始されるにいたっていた……
そもそも、それにしたって、ちゃんと照準と見越し合わせが十分にとられたものではなかった。
こんな事態になってしまったのだから、大分まえから、前線からは標定観測の情報と射撃支援の要請報告すら上がらなくなってしまっていた……
運用の状況も、稼働できる砲門が空き次第、
てんで纏まり無く、使用して繰り出される、という有様であった。
そんな状局であったが、
しかし砲兵陣地は遙か彼方で、この戦場を直接光学観測できる位置には、相互でなかった。
唯一活きた目である、
司令部陣地から見渡せる範囲内において、
エルトールのシミター隊の、大まかな位置分布の情報のみが、
それも大分のタイムラグを伴って……
伝わってくるのがせいぜいであった。
ならどうなるか?
そうであるので、結果も相応である……
まばら雨のように降ってくる友軍センタリア側の砲迫の弾丸が、
侵出するシミター部隊の足跡を追いかけながら打ち出され、はるか彼方から空中に弾道を描いてそそがれてくる……のであったが、
尚も高速で突破をつづけ、走り続けるシミター部隊たちをその弾頭たちは地表時点で捉えることができず、こうして、大地上での到達着弾のタイミングは、到底追いつくものではなかった。
そうした中で、それら手遅れの弾雨たちが命中していったのは、、
他の何物でも無く、これらセンタリアの友軍の陣地や塹壕であった。
シミター部隊の進路通過後の、
通った後道に存在する、まだ生存者も少なくない、友軍センタリア軍の塹壕や陣地などであったのだ。
自軍の勢力圏を串刺しに喰い進む敵の隊に射撃をしているのだから、当然着弾していくのも其の勢力圏の中のことであるのだ。そして、それの結果は当然として………
……である。
斯くべくして用意された、不幸な犠牲役として、
無能な上級の拙走の代償、尚も燃やされる血と肉の数と量は、増え続ける結果となった…………
炸裂の徒花が、シミターたちの背景で、まるで花道かのように、咲き誇るしかなかったのである。
縦横の壕はそうやって突破されていった。
これで終わりだろうか?
いや、まだこれが続く
開始であった。
シミターたちの前進は停まることなく、
阻止が出来なかった壕や陣地が、片端から吹き飛んでいく。
こうなると、もはや戦闘どころではない!
放棄して、壕から逃げ出す兵士たちが続出し……
下士官や壕の指揮官級の士官が、制止と阻止を試み、 仕舞いには、射撃や撲撃の実力行使も図られた。
しかし、こうともなると、怒りの矛先は、
相互の互いに、向けられ合うものとなり……
流血と失命の幕間劇は続けられ、骸と屍の積み重なりは、相乗して増えていった。
そうでもあるから、
前線からは抗議と怒声の通信が、後方司令部には殺到した。
しかし、司令官はそれをすべて無視した……
盛大な自滅劇は、未だ終わることは、この時においても無かった。
「鬼車を出せ!」
いよいよ遂に目前まで迫られた本部司令部の指揮官たちと司令官は、最終兵器の出動を決断した。
本部陣地から一番近い“それ”の格納整備ハンガーの掘立小屋から、その姿が発進して、大地と天道の元に出現した。
巨大な鉄の箱が現れていた。
いや、ただ文字通りの鉄の箱が動いているわけでは無い。
その下部には足回りとして移動機構である無限軌道が誂えられていたし、砲塔こそないが、鉄箱の正面には、左右とそれから上下に俯仰と操向が可能な、砲の砲身めいたものまでがある。
戦車だ。
――いや、この世界では鬼車(きしゃ)と呼ばれる。嘗ての忌まわしき魔王大帝国が発明した人智を越えた、基本は小鬼兵しか扱えない超兵器を、先の魔王討伐戦争から六十年が経った現在、センタリアは鹵獲したそれを解析してリバース・エンジニアリングし、再発明して自らの国家陸軍の決戦用兵器として、装備武装するに至っていたのである。
ガタガタガタ、……と、まるで崩れる寸前のバラックのようなガタツキとギアの噛み込み合う音を唸らせながら、その戦車の姿は格納庫の前から徐々に進みだしていった。
格納庫は、砲爆よけに掘られた壕陣地の中に、半埋没の形で設けられていた。
整備員たちが進路の合図を送って取りつつ、その入り口と進路に掛けられていたぬかるみ避けの鉄板と木合板をキャタキャタと鳴り響かせる無限軌道の進行で泥に沈ませながら、ゆっくりとした速度――これでもこの鬼車の最大加速速度を今、出している――で、発進路からの進出を、ようやくやっと、の体でこなしていく。
すると途端、若干の坂になっていたその出口で、加速と馬力が坂の角度に対して追い付かなくなりかけた。
最初にギアを入れ過ぎたのだ……出力のパワーシフトが追い付かなくなったのだ。
がたがたがたがた、と、鬼車の搭載魔導内燃機関が限界まで出力が上げられて、動力機構が金属機械の耳障りな悲鳴を上げる。
整備員総出で押してやる……が、追い付かない。鬼車はとにかく自重が重いのだ。
しまいにはとうとう付近から召集の懸けられた兵士たちが集まってその背後から押してやり、ようやく脱出が成った。
ドォン、と砲爆の音が轟いた。そして止んだ…―――鬼車とシミターとの決戦をさせ、撃破させる、という命令が砲兵隊にも出たからだ。まぐれあたりでも鬼車を誤爆してはならぬ、という意味である。
それから、司令官らには下心もあった。
自らたちの軍団に与えられた、唯一無二の代物だ。予備機も含めれば二台あるから、悪ければその全てを解き放って、あの恐ろしいゴーレムどもを破壊せん、もしさすれば自らたちの手柄となって、功章も得られるだろう。そうなれば、それからのより善き軍役と、その老後を……と目論んでいた。
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