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第一章:黄金色の森でこんにちわ(全18話)
黄金色の森でこんにちわ(13/18)
しおりを挟む「うぅう、こんなおいしいもの、初めてたべてっ! とってもおいしかったからっ、だから、ボクはうれしくてっ、こんなすごいごちそうを振る舞ってくれたお礼を、言いたくてっ! 言葉を尽くしたくて!
それなのに、なんでそんな、なんてこともないようなふるまいなんですかぁ?!
ボクはお礼の言葉を、言いたいだけなのにっ、なんでボクに最後まで言わせてくれないのっ! おじいさまのとっておきの、いつものことばを言いたかっただけなのに、そのあとのいつものお返事を聞きたかっただけなのに! ボクのとっておきのお礼だったのに、
かっこよくなりたかったのに、それだけなのに、なんでっ、ひどいよぉっ、うぅうぅっ……
ぐすんっ、
……うぅっ、あなたに言いたいことはそれだけなんですっ! おいしかったんですっ、それへの感謝をつたえているんですっ!
い、言いました!
“ありがとう、ございます”って、言いたかっただけなんですっ!!
……あっ、…………あれっ?」
そこで根が折れたらしい。なんかそのままじたばた、と暴れながら、そう一気に捲し立てた……のだが、
感謝、というキーワードがなにかだったらしい。
そこまで爆発したこいつは、不意にはた、となって、
「……い、言えた? 親切なこのひと、への。しんせつな、領民へ、の、御礼、を? 感謝のことば、を? 御礼を?
ありがとう、の言葉、を?
最後、まで?
……――や、やったぁっ!」
なぜだか喜び出した。
「やったよおじいさまぁっ!! おばあさまぁっ!! メイドたちっ!! ボク、ひとりでもできたよっ! お礼も言えたよぉっ!」
本当にそれだけが、それが嬉しかったようで、
「おじいさまのいつものせりふを言えたよっ! いいつけどおりに、領民への御礼もいえたよっ! 貴族らしいすごい礼儀を、ちゃんとしたふるまいを、ボク、できたよぅっ、ぐすっ、
おそとにかってにひとりで出ても、ひとりでも頑張れたよぉっ! ボク、駄目な子じゃなかったよっ、ちゃんとできる子だったよっ! やったよーっ!! ……――あっ、」
喜びのあまりに感極まって、立ち上がってぴょんこぴょんこ跳ねながら、涙の粒を散らしながら、空高くに向かって宣誓じみたことをやっていた、コイツ。
はあはあ、なるほど、………ふーん、
ひとりで盛り上がってる所で悪いがね、という目でおもいッきし見ていた訳だが。
そんな俺の目に気づいたらしいコイツは、その直前までの発言の内容の恥ずかしさに気づいていないのか、それよりも面子が勝ったのか、どうなのか、
その貴族らしさ、というのを見せつけたいらしく、ははははは、とへなっちぃたかわらいもどきを上げながら、
「ふ、ふふん、ま、参ったかぁっ!? もうこわくないもん、おどろいたりしないもん! ボクはおまえに御礼をいったんだぞぉっ! フハハ、ははは!あははは!…………」
ふーん、と俺は相槌を打った。それがとどめになったようで、がくっ、とうなだれた。
「……は、ははは、はは、はぁ……。」
虚勢を張るのにも疲れたのか、それともから騒ぎに疲労したのか、素が素直らしいこいつはそれから、地べたに座った後、しばらくうなだれていた。
……どういう訳か、俺と対面の向きで。
………おい、
多少居心地が悪くなってきたころを過ぎてもう少しの後、こいつは、今度は照れているような仕草と態度で、ポリポリ、とほほを掻きはじめた。
あたしゃくたくただがね、
「……あの、」
その居住まいでしばらくした後に、俺の顔に自分の顔を合わせると、すると、元の儚そうな美少女の表情とたたずまいになって、声を掛けてきた。
しかしこいつの顔はずいぶんとほころんでいて、先程のような不遜な態度という訳ではない。
「親切にしてくれた事に、どうしても御礼が言いたかった…のでし、て……ボクのお礼も聞いていただけて、あ、ありがとうございました。
それでその、そして、……えぇと、……その……」
だがしばらく、どう話し出したらいいかわからない、というような様子で、あー、とか、その…、とかと言葉をごにゃごにゃと言いつぐみながら、しかし今度はながら喋りというのを思いついたらしい。そうして目を俺の顔に合わせたまま、
「本当に、生まれて初めて、はじめて食べたおいしいものでしたし、え、えへへ、いやぁ、あは、どういったらいいのか」
ニコッ、と、笑顔になられ申した。
傲岸口調から言葉遣いは元に戻ったが、なんというかこいつの照れた気配はそのままであり、なんというか、こっちまでたどたどしくなってしまう。
鼻の頭を掻きながら、俺はそんな事を考えていたのだが、
「まったく本当に、なんとお礼を言ったら、なんです……けど、」
不意に気配が神妙になって、
この男の娘の顔が一気に近づけられたのが今だ。
男であろうのが悔まれる、ズバリ俺好みの女顔……というか美少女顔、そんな、この男の娘の顔が一気に間近に接近したのだから、俺だってびっくりする。
「な、なんだよ!」「ん――……」
はらりと揺らめいだ男の娘の前髪の先が、俺のでこに当たるほどに互いの顔面同士が近い。見てくれは良いな……だなんて思ったりもしたのだが、しかし、その前髪が当たった瞬間にこいつの体臭が鼻孔をかすめたのだろうが、微妙に臭いぞこいつ。
乳が発酵した匂いというか、独特の乳臭さ。
嗅いでいて不快感は無いタイプの匂いだが、しかしコイツ、何日風呂に入っていないんだ? という話でもあって、なぁ。
という……そんな所で昔のヨーロッパ基準にするんじゃねぇよ異世界。異世界人、みたいな。
まぁそれはともかく、
その顔の目は、俺を見て、なにやら難しい顔をしている。ぽんこつのするぽんこつな表情だがな。
そんな具合に、急にこいつの顔が訝しむ物になった。
「本に書いてあったみたいな、農民や猟師の匂いじゃない……」
すんすん、と俺の首回りを嗅いでくる、男の娘。……ってか、てめぇも十分くさいわ!……とは言えなかったが、
「見たこともない恰好……」
俺の服装の上下と、それからリュックサック、腰から延びるロープ。
隅々まで眼で俺を検分した後、
「……貴方、何者なんですっ?!」
はっ! と目を見開いたアヴトリッヒなんたらさんのいまさらな剣幕にまたまた俺はすっころげたわけだが、その時に俺なんてのは、あっこいつ、目の色が琥珀色で綺麗だな……なんて思ったわけさ。
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