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四話
しおりを挟むリヴィエール侯爵家の権勢に、翳りは見えない。
ジェラルドがその家督を継いでから早十年が経過した。ありとあらゆる奸佞邪知の果て、リヴィエールの家紋は今日も燦然と輝いている。侯爵家が栄華を極めるまでに、一体何が行われてきたのか。ジェラルドが直接その手にかけた人数だけでも、数えるのは馬鹿らしくなる程だった。言葉ひとつで奪った命を足すならば――ジェラルドはいずれ、冥府に王として呼ばれでもするかもしれない。
ジェラルドの前では全ての他者が平等だった。弱者であるか強者であるか、悪と唾棄されるか、正義と礼賛されるか。そんなものはジェラルドの価値尺度の上では何もかもが無意味だった。老いも若きも、貧富も関係なく、ジェラルドは無慈悲に貪り、喰らい尽くした。ある時は私腹を肥やした上級貴族を。ある時は娼館に追い落とされた哀れな女を。ジェラルドは等しく騙し、陥れ、踏み躙り、奪い去った。灼け付くような怨嗟と共に血を吐き泥に塗れた彼等の血肉こそが、リヴィエールに咲く可憐な花の養分となる。花が開けば開くほど、侯爵ジェラルドの名声は、揺るぎないものとなっていった。
侯爵家の威光は、盤石である。
およそこの国に比肩するもののない、権威と繁栄の象徴。昂然たる威風と共に総てを欲しいままにするジェラルドを、畏怖する者がある。あるいは憎悪する者がある。好意を寄せる者も。警戒する者も。あるいは崇拝する者も。一人の青年貴族にあらゆる感情を向ける彼等は、いつしかジェラルドのことを、礼賛を、恐慌を、心酔を込めて、口々にこう呼ぶようになった。
――魔王、と。
「お兄さま、あのね、今日はオーギュストが部屋にお花を持ってきてくれたの」
乳白色の湯の中で、ジェラルドの胸に背を預けながら、ノエルは嬉しそうにそう告げた。荘厳なリヴィエールの邸宅に設けられた大きな浴場には、兄と弟、二人の他に人影はなく、穏やかな静寂が広がっている。この盲目の弟が湯浴みをする時、ジェラルドは必ず人払いをした。目の見えないノエルの手足を取り、侯爵ジェラルドが使用人のように侍って、手ずから弟の身体を洗ってやるのが、兄弟の日常なのだ。
「聞いているよ。今年も木蓮が花を付けたと」
「うん。木蓮はすぐに散ってしまうから、早いうちにって。もう春だから、これから色々な花が咲くようになるね」
「ああ、そうだな。いつの間にか冬も終わってしまったらしい」
「そうだよ。お兄さまったら、お仕事が忙しいからって、季節が変わったことにも気付かないんだもの。だから僕が教えてあげるんだよ」
「それは有難いな。ノエルは本当に優しい子だね」
濡れた髪を掻き分けて、ジェラルドはノエルのこめかみに唇を落とす。指先でそっと喉を撫でてやれば、ノエルは擽ったそうに肩を竦め、くすくすと笑った。稚気に溢れるいとけない声が、四方を壁に囲まれた浴室に反響する。
「あのね、庭のチューリップがもう咲きそうだよ。春薔薇だって、きっとたくさん花を付けると思う。僕、すごくお世話を頑張ったんだから」
リヴィエールの邸宅には、大きな庭園がある。植えられた花々や樹木は、季節毎に違う顔を持って、見る者を楽しませていた。ノエルは花の色を楽しむことは出来ないが、それでも花をひどく愛した。その幼い指先で触れ、香りを楽しみ、咲いては散る花々を、わが子のように慈しむ。庭師に交じってノエルが花の世話に勤しむ姿は、この屋敷ではそう珍しくもない光景だった。
「ノエルが薔薇の世話を? 薔薇には棘があるだろう、怪我はしていないのか」
ジェラルドは眉を寄せ、ノエルの小さな手を湯から上げると、矯めつ眇めつ、指先を確認する。幸いなことに、その細く柔い指先には、掠り傷ひとつ付いてはいなかった。
「平気だよ、小さな棘だもの」
「そんなことはない。ノエルのこんなに綺麗な手が、薔薇の棘で傷付いてしまったりなんかしたら、俺は悲しくて泣いてしまうよ」
「本当に? 僕、お兄さまが泣くところなんか、ちっとも知らないのに」
「本当だとも。それともお前は、俺を泣かせたいと思っているのか?」
「そうじゃないけど……」
でも、少しだけ興味がある。そんなことを、ノエルはその愛らしい唇からぽつりと零した。素直で無垢な弟の、他愛ない我儘。それを聞いたジェラルドは、ノエルの背後で音もなく微笑むと、わざと苦しいくらいの力でノエルの腰を抱き寄せた。
「――悪い子」
「っぁ、ひゃ、ぁう!」
ばしゃりと、俄かに水面が波立った。大きな手が、ノエルの胸元を這う。その頂点にある赤い突起を、ジェラルドの指先がぎゅっと捻り上げた。爪の先でくじるように先端を押し潰してやれば、ノエルの細い喉から懇願めいた悲鳴が上がる。
「あっ、ぁあ、や、おにい、さま……ぁ」
「俺の弟はいつの間に、そんな意地の悪いことを言うようになったのかな」
「ぁあぁ、っひ、つよ、おに、しゃま、ぁあっ……」
「悪い子には、お仕置きをしてあげようか」
耳殻に低く囁きながら、ジェラルドはノエルの胸の先にぎりぎりと爪を立てた。乳白色の湯の中で、一際目立つ赤色が、水面が揺れる度にちらちらと覗く。ノエルの胸の上でふたつ、はっきりと自己主張をする突起は、少年のそれと呼ぶには、些か性の気配が濃すぎる大きさと色合いをしていた。ぷっくりと勃ち上がった赤が、男に触れられ、吸われることを自ら強請っているようだ。大人の指に弄ばれるに相応しい、淫猥な大きさに育った乳首を、ジェラルドの指先がわざとらしい程手酷く扱う。
「ひぃ、んっ……ぁあ、ごめんなしゃ、おにいさま、おしおき、いやぁ……っ」
「嘘を吐いてはいけないよ、ノエル」
「う、うそじゃない……いたいもん、っあぁ、いたいの、やだぁっ……」
ジェラルドの指先に嬲られるまま、真っ赤な突起が形を変える。痕が付く程に強く爪を立てられ、ノエルは掠れた悲鳴と共にジェラルドの腕の中で身悶えた。はくはくと浅い息が零れ、丸い頬に涙が伝う。刺激を受ければ受ける程、硬度を増していくそこが、つんと尖って湯の中から頭を出していた。指先で捏ね回しながら押し潰せば、怯えた小動物のような声が上がる。
「いや、やぁっ、おにい、さまぁ……ごめ、ごめんなさ……ゆるしてぇ……!」
「うん? そうだな……それじゃあ、ノエルが本当のことを言えたら、許してあげようか」
「っあ、ひぅ……っ!」
ジェラルドの手が湯の中を揺蕩い、するりとノエルの柔い腹を撫で下ろす。敏感な脚の付け根を悪戯になぞった後、長い指はノエルの身体の中心でぴんと健気に勃ち上がる、つるりとした性器に絡み付いた。既に確かな硬度を持っていたそれを掌の中に包んでしまうと、ジェラルドは根元から先端まで、揉み上げるように刺激する。
「ひぁ、ああぁぅ、や、おちんち、さわったらぁ……っ!」
反射的に脚を閉じようとするノエルを容易く制してしまって、ジェラルドはノエルの幼い性器を扱き、先端を擦り上げた。とくとくと、小さな昂りが脈を打つのが、掌に伝わってくる。同時に胸の尖りも指先で弾きながら捻り上げれば、幼いノエルはびくびくと震えて甘い悲鳴を響かせた。
「ふゃ、あぁあ、っひ、ぁ、おに、しゃま、ぁああ、ひぃ、っん……!」
「さあ、言ってごらん、ノエル。お仕置きされるのは嫌い?」
「ひぅ、ぅぅう、ぁ、ぼく、ぼくぅ……っ、あ、っあ!」
ノエルの真っ白で肌理細かな肌が仄赤く染まるのは、もはや湯に浸かっているためだけではないだろう。雄を誘うような卑猥なかたちに育った胸の尖りを嬲られ、いとけない性器を握り込まれながら、ノエルは兄に縋り付いて柔い身体を震わせる。幼くも美しいかんばせは凄艶に蕩け、見る者に後ろ暗い倒錯と燃え上がるような劣情を、否応なく抱かせた。
ジェラルドの指はノエルの胸を気儘にいたぶり、押し潰し、爪を立てているにも関わらず、握り込んだノエルの性器は、萎えるどころか悦びも露わにびくびくと手の中で跳ねる。実の兄に身体の弱いところを弄ばれながら、ノエルは甘ったるい声でひんひんと啜り泣いた。
「ぁ、あうぅ、おにいしゃま、ぼく、ぼくは、ぁぁ……っ」
「ああ、言っていいんだよ。お前のかわいい口で」
朱に染まった耳に唇を押し当てて、ジェラルドは甘言めいた言葉を吹き込む。ぐらぐらと揺れ、涙に滲んだノエルの瞳から、滑らかな頬にほろほろと涙が伝い、湯船に零れ落ちた。ノエルの震える唇が、熱に浮かされたように、言葉を紡ぎ出す。
「ひ、んんっ……きもち、いいの、おにいさまぁ……っ、おっぱいも、おちんちんも、い、いじめられて、うれしくなっひゃぅ……っ」
「痛いのも好き?」
「ん、んっ……しゅきぃっ……おにいしゃまなら、なんでも、きもち、くって……はしたないこで、ごめんなしゃ……」
身も世もないような様子でこくこくと頷き、ノエルは指先まで溶かす快楽に身を震わせた。瑞々しい唇が、あまりにも素直に、このあどけない子供の本性を曝け出す。音楽と花を愛する、清廉にして無垢な、盲目の少年が、血の繋がった兄の腕の中でだけ、覗かせる顔。それはノエルが幼少の折より何度も何度も覚え込まされた、兄の執着の証だった。男の手に弄ばれることを、雄に服従する快楽を、この幼い身体は、血の奥底にこびりつくほどに、思い知ってしまっている。
ジェラルドの背中を、灼けるように熱く、氷のように冷えた、相反する鮮烈な何かが、駆け抜けていった。
「いい子……!」
「っひぁ! あ、ぁぁ、ひんっ、あ、ぁ、や、おに、しゃまぁ!」
無防備に晒されたノエルの首筋に噛み付くように吸い付くと、ジェラルドは手の内のノエルを、追い詰めるように責め立てる。びくりと大きく背を震わせたノエルは、ジェラルドの手に翻弄されるまま、鼻に抜けるような歓喜の声を上げた。握り込んだノエルの性器が、ジェラルドの掌で魚のように跳ねる。ノエルが一番悦ぶ強さで胸の尖りを捏ね回してやりながら、ジェラルドは熱を持ったノエルの昂りを、ぐりりと容赦もなく指先で抉った。
「ぁ、あ、っひ、ぃぃい、っ――!」
がくん、とノエルの身体が硬直し、一瞬、呼吸が止まる。喉が、肩が、爪先が、かたかたと小刻みに震える。腕に抱いた幼い肢体は、それからゆっくりと弛緩し、浅い息を吐きながらジェラルドの胸に背中を預けた。未だ快楽の名残に浸っているのか、ノエルはひくひくと震えながら、あえかな甘い声と共に、ジェラルドの首に擦り寄る。
「ちゃんと言えたね、偉い偉い」
「ん……おにい、さまぁ……」
濡れ髪をジェラルドの手に撫でられ、ノエルはとろりと力の抜けた笑みを浮かべた。つい先程まで己をひどく苛んだその手が、まるで救いそのものであるかのように。疑いもしない全幅の信頼を寄せて、ノエルはジェラルドに寄り添う。その健気な子供の頬に口付けをひとつ落とすと、ジェラルドは脱力した身体を、ゆっくりと抱きかかえた。
「少し、逆上せてしまったな。もう上がろうか」
「ん……っ」
火照ったノエルの身体を抱いて、ジェラルドは湯から上がる。ざばりと濁った湯が滴り落ちて、水面を揺らした。ノエルはジェラルドの腕の中で、ひどく心地よさそうに、ぼんやりと瞬目を繰り返している。どこか眠たげで、このまま目蓋を閉じればそのまま落ちてしまうのではないかと思われた。
「こら、眠ってはいけないよ。上がったら、お前の好きな、冷たい果実水を飲ませてあげるから」
「ん……おにい、さまが、お口で飲ませてくれる……?」
ふわふわと微睡むような口調で、ノエルが他愛ないおねだりを口にする。甘えたがりの弟の可愛いお願いを、よもやジェラルドが無下にする訳もなかった。笑みを深め、濡れた額に口付けながら、ジェラルドは密やかに囁く。
「仰せのままに」
ジェラルドの髪から滴る雫が、ぽたりとノエルの頬に落ちた。丸い頬が柔らかに弛んで、小さな唇をうつくしい笑顔が彩る。ジェラルドの首に絡みつく細い腕が、決して離しはしないとばかりに、強く強く、縋り付いた。
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