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食事が終わりお皿洗いをしているとミフィーが紙を持って隣にやって来た。

「ん? どうしたの?」

僕はミフィーが紙を手渡して来たので、目を通した。

紙には綺麗な文字で
『夕ご飯ありがとうございました。 とても美味しかったです。』
と書いてあった。

僕は胸が少しほっこりしたのである。
わざわざ紙にまで書いて、お礼を言いに来て貰ったので嬉しくなった。

「こちらこそ。 お粗末様でした」

僕がそう言うとまたペコペコ頭を下げ、二階の階段まで走って行ってしまった。
彼女自身まだ人見知りで僕に慣れないのかも知れない。

これでまた、ハスターさんと二人きりになった形だった。

「ハスターさんは料理どうでした?」

ハスターさんも残さず食べていたので、美味しく無かったはずはないのだが、何もしゃべらないよりは一応感想を聞いてみる。

「あ? 不味いはずないだろ? それに今日は優しい味だったな」

「優しい味ですか?」

「ああ、あの二人が食べやすいように選んだ料理なんだろ? なんつーか暖かい料理だったな」

そう言い目を優しく細め、綺麗な笑顔を作ってくれた。

僕は「ありがとうございます」とお礼を言い再び皿洗いへと手を動かす。
その時恥ずかしくて下を向いたんだけど、ハスターさんは気付いたかな?……


夜になり各自の部屋で就寝する時間になった。
本当は家具を買う予定が、フィルとミフィーの件でそのまま帰って来た為、シングルベッドで二人して寝る事になった。

お風呂も入り、ポカポカした心地で布団に潜る。
僕はハスターさんに背を向け横になっているから背中から息遣いが聞こえた。

一緒に寝ているのは異性ではなく同性だ。
特に意識する必要はないのに何故か気になってしまっている。
この感情が何なのか本当によく分からない。

変な事を考える前に寝ようと、意識を落としそうになった時、背後から声が掛かった。

「ケイはあの二人に思う所があったんだろ?」

すぐ後ろから聞こえる声は何処か僕を気遣うように聞こえた。

確かに思う所はある。
両親を亡くして生きている二人を自分自身に重ねてしまっていた。
だからもし自分に出来る事があれば助けてあげたいと思ったのだ。

このくらいならハスターさんに話しても大丈夫かな?
僕が異世界から転生して来た事はヒューイさんにも言ってないけど……。

「実は僕の両親も亡くなってまして……。
少しだけ…… 二人が自分に重なって見えたのかも知れません……」

「そうか……」

それだけ言い僕は口を閉じた。
すると背後から動く気配がすると思ったら、僕の頭にハスターさんの手が置かれる。
それからすぐに撫で始めた。
とても優しく、労るように……。

「俺もとっくの昔に親は死んだが、そんな悲しむ事でも無かった。 だがケイにすれば見ず知らずの子供を助けたいと思うほど、自分と重ね、心を痛めたんだろ?」

お前は優しい奴だからな。

そう締め括りハスターさんは口を閉じるも、手はずっと動かしている。

そういうハスターさんの方が優しいと思った。
僕の行動や言動、しぐさを見て慰めてくれているのだ。
冒険者になると観察眼が優れるのかな?と思い意識を失っていった。

◇◇◇

もう寝たのか?

ハスターは目の前に蹲って寝ているケイの頭を撫でながら笑みが溢れる。
ハスターにとってケイは不思議な存在だった。

気弱で男らしくない人間なのに、急に俺に意見してくる。
俺がSランク冒険者だと知っててもだ。

ハスター自身それは好印象でしかなかった。

他の人間はペコペコしてるだけで、本当につまらん。
外見だけを見て、全くと言っていい程、中身に目を向ける人は皆無だった。

それにケイの作る料理は不思議だ。
美味しいは当たり前だが、今日作った料理は特に暖かい優しい気持ちが込められていた気がした。 

ケイとなら俺の色褪せた人生に、輝きが戻る気がするのだ。
これからも俺の側にいて欲しい。
そう思いながらハスターの意識も薄れていった。



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