107 / 132
Ⅵ章 衰亡
107
しおりを挟む
「リアちゃんみたいに非凡な人にはわからないよ」
正確には非凡になってしまった人、ないしは非凡にしてしまった人だが。
「そうだね。さすがの私もエルルくんの気持ちを一字一句間違いなく理解するのは至難の業だし」
「…不可能とは言わないんだね…それはそれでもう少し掘り下げて聞きたいところだけど、今はそう言うことを言ってるんじゃないのは分かってるでしょ?」
「うん、分かるよ。その上で言う。嫌なことはちゃっちゃと済ませて、のんびり過ごせば良いじゃない」
「…分かってるけどさ」
「大丈夫。沢山の人が死んでも、エルルくんの作った魔王…と名付けた生き物たちを使い潰しても、エルルくんは悪くない。どうしようもない、避けられないことなんだから。罪悪感なんてゴミ箱に捨てちゃいなよ。致し方ない犠牲っていうやつだよ」
「す、凄い冷たい事言ってるよ?その自覚はある?」
「うん。でもそうした気遣いは必要ないよ。有象無象に情を向けるくらいなら、その分もエルルくんに注いであげる。嬉しい?」
「う、嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけど…」
ちょっとだけ怖さを感じる。
「なんども言うけど、やらないって選択肢はないんでしょう?」
「…うん」
「そしてやるならやるで、意欲的に、効率的に、さっさと済ませた方がいいよね?」
「はい」
「じゃあ、まずは魔王たちの住処に連れてって?一緒に効率よく間引きをする手段を考えよ?」
「いや、リアちゃんにそんなことさせるわけには」
「気にしないで。私は嬉しいの。エルルくんの力になれることが。今まで感じていたエルルくんの罪悪感も一緒に背負ってあげる」
「り、リアちゃん…」
な、なんて健気で甘美なことを言ってくれるのだ。
思わず頷きそうになるが、そこで思いとどまった。
そんなことを言ってくれる彼女だからこそ巻き込めない。
巻き込みたくない。
聡明スキルでいつの間にか、知能だけではなく情緒もまた大人になっている節のある彼女だが、それでも幼い子供には変わりはない。
大切な存在には変わりはない。
ゆえに。
こんな殺伐としたことに関わらせてはいけないと強く思う。
「ありがとう。でも…そんなことを言ってくれるリアちゃんだからこそ、こんなことに関わらせたくないんだ。
気持ちだけ受け取るよ」
「…そう」
いかにも私、不満ですって感じの目で見てくるリアちゃん。
「ただ…その、本当に辛い時には相談というか…愚痴を聞いてもらえたらなって」
「分かった。ひとまずはそれでいいかな…エルルくんも男の子だもんね」
「そんなカッコいいものじゃないけど…」
「とりあえず秘密を打ち明けてくれただけで満足しておくけど、私はいつでも助けになるからそれは忘れないでね」
「うん。リアちゃん、本当にありがとう」
秘密の共有、と言うだけで不思議と罪悪感が晴れた。
それだけでだいぶ上等な結果であろう。
いや、それだけではない。
リアちゃんの中途半端であると言う話は確かにその通りだ。
身に染みる。
魔王クリエイターによる間引き行為を改めて考え直さなくてはならない。
なにはともあれ今日はいい夢を見れそうだなぁ、なんて呑気に家路についた時のこと。
いや、まあ、普段から寝付きが悪いかと聞かれればそう言うわけではないのだが。
『ちちうえ』
頭に声が響く。
「どうしたの?なにかあった?」
声の主は聖女三姉妹の1人、聖女ニアだろう。
僕をちちうえ呼びするのは聖女ニアくらいなものだ。
僕の住まいから少し離れた場所の雑木林にダンジョンメイカーのダンちゃんに作らせたダンジョンと言う名の実質、魔王やら、孤児たちの面倒を見させるために作った聖女やら聖女見習いやらの家でぬくぬくと過ごしているはずだが、切羽詰まっている声音だ。
緊急事態だろうか?
テレパシーというか、念話というか、遠く離れた人と電話で話すように遠隔での会話を可能にするスキルを持つ魔王を介せば、いつでも会話が可能なのだが、その魔王は他の魔王や聖女たちから嫌われており、あまりテレパシーを使われた覚えはない。
なのにも関わらず使ったと言うことは
『さどらん帝国のダンジョンが潰されたって!』
「はぁ!?」
丸一年かけてようやく軌道に乗り出しその名も「便利アイテムを人類へ布教して、それが浸透した頃に全部無くしちゃえ大作戦」計画が台無しになった知らせを聞いて僕は驚きの声をあげずにはいられなかった。
正確には非凡になってしまった人、ないしは非凡にしてしまった人だが。
「そうだね。さすがの私もエルルくんの気持ちを一字一句間違いなく理解するのは至難の業だし」
「…不可能とは言わないんだね…それはそれでもう少し掘り下げて聞きたいところだけど、今はそう言うことを言ってるんじゃないのは分かってるでしょ?」
「うん、分かるよ。その上で言う。嫌なことはちゃっちゃと済ませて、のんびり過ごせば良いじゃない」
「…分かってるけどさ」
「大丈夫。沢山の人が死んでも、エルルくんの作った魔王…と名付けた生き物たちを使い潰しても、エルルくんは悪くない。どうしようもない、避けられないことなんだから。罪悪感なんてゴミ箱に捨てちゃいなよ。致し方ない犠牲っていうやつだよ」
「す、凄い冷たい事言ってるよ?その自覚はある?」
「うん。でもそうした気遣いは必要ないよ。有象無象に情を向けるくらいなら、その分もエルルくんに注いであげる。嬉しい?」
「う、嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけど…」
ちょっとだけ怖さを感じる。
「なんども言うけど、やらないって選択肢はないんでしょう?」
「…うん」
「そしてやるならやるで、意欲的に、効率的に、さっさと済ませた方がいいよね?」
「はい」
「じゃあ、まずは魔王たちの住処に連れてって?一緒に効率よく間引きをする手段を考えよ?」
「いや、リアちゃんにそんなことさせるわけには」
「気にしないで。私は嬉しいの。エルルくんの力になれることが。今まで感じていたエルルくんの罪悪感も一緒に背負ってあげる」
「り、リアちゃん…」
な、なんて健気で甘美なことを言ってくれるのだ。
思わず頷きそうになるが、そこで思いとどまった。
そんなことを言ってくれる彼女だからこそ巻き込めない。
巻き込みたくない。
聡明スキルでいつの間にか、知能だけではなく情緒もまた大人になっている節のある彼女だが、それでも幼い子供には変わりはない。
大切な存在には変わりはない。
ゆえに。
こんな殺伐としたことに関わらせてはいけないと強く思う。
「ありがとう。でも…そんなことを言ってくれるリアちゃんだからこそ、こんなことに関わらせたくないんだ。
気持ちだけ受け取るよ」
「…そう」
いかにも私、不満ですって感じの目で見てくるリアちゃん。
「ただ…その、本当に辛い時には相談というか…愚痴を聞いてもらえたらなって」
「分かった。ひとまずはそれでいいかな…エルルくんも男の子だもんね」
「そんなカッコいいものじゃないけど…」
「とりあえず秘密を打ち明けてくれただけで満足しておくけど、私はいつでも助けになるからそれは忘れないでね」
「うん。リアちゃん、本当にありがとう」
秘密の共有、と言うだけで不思議と罪悪感が晴れた。
それだけでだいぶ上等な結果であろう。
いや、それだけではない。
リアちゃんの中途半端であると言う話は確かにその通りだ。
身に染みる。
魔王クリエイターによる間引き行為を改めて考え直さなくてはならない。
なにはともあれ今日はいい夢を見れそうだなぁ、なんて呑気に家路についた時のこと。
いや、まあ、普段から寝付きが悪いかと聞かれればそう言うわけではないのだが。
『ちちうえ』
頭に声が響く。
「どうしたの?なにかあった?」
声の主は聖女三姉妹の1人、聖女ニアだろう。
僕をちちうえ呼びするのは聖女ニアくらいなものだ。
僕の住まいから少し離れた場所の雑木林にダンジョンメイカーのダンちゃんに作らせたダンジョンと言う名の実質、魔王やら、孤児たちの面倒を見させるために作った聖女やら聖女見習いやらの家でぬくぬくと過ごしているはずだが、切羽詰まっている声音だ。
緊急事態だろうか?
テレパシーというか、念話というか、遠く離れた人と電話で話すように遠隔での会話を可能にするスキルを持つ魔王を介せば、いつでも会話が可能なのだが、その魔王は他の魔王や聖女たちから嫌われており、あまりテレパシーを使われた覚えはない。
なのにも関わらず使ったと言うことは
『さどらん帝国のダンジョンが潰されたって!』
「はぁ!?」
丸一年かけてようやく軌道に乗り出しその名も「便利アイテムを人類へ布教して、それが浸透した頃に全部無くしちゃえ大作戦」計画が台無しになった知らせを聞いて僕は驚きの声をあげずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる