魔王クリエイター

百合之花

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Ⅴ章

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道標に取り付けられたライトを目印に奥へと歩いていく。

「ここに来るまでの噂だと魔獣みたいのが出てくる筈なんだけど…」
「浅いからまだまだ出てこないんじゃないか?
さっきから同業者にも会わないしさ」
「んー、そうかも。とはいえ油断するなよ。今まで、何人もの探索者が帰らぬ人となったって話があるんだ」
「わかってるって。無理そうならすぐに撤退。だろ?」
「分かっているならいいよ」

道中、誰にも会わずに洞窟の奥へ進むと、いくつかの分かれ道が出現する。
どの道にも道標になっているコードが続いているので、迷う心配はなさそうだ。
彼らは適当に道を選びながら更に奥へと足を動かした。

「おい、あれじゃないか?」

剣と盾の形をした魔科学武器を構えて、先頭をあるくフォルフォー少年が洞窟内に人影を見つける。

「あ、あれだね。あれは…ゴブリンってやつかな?」

サドラン帝国が穴を見つけ、調査をする過程で迷宮と呼ぶ穴に関して幾つかの情報が得られた。
まず迷宮内では現在の技術では説明が付かない不可思議なアイテムが手に入ること。
宝箱と称する箱が発生すること。
絶滅したとされている魔獣が洞窟内部では繁殖しているらしいこと。
内部の魔獣を倒すと奇妙な現象が起きることがある。

この4点である。

その上でサドラン帝国は調査を進める上で、政治的な理由、コスト的な理由から、穴の独占を諦めた。

下手に独占してしまうと、オーバーテクノロジー染みたアイテムを得られる洞穴はそれを求める他国との戦いの火種になりかねないし、それを秘匿するための費用や人的コストを考えると一般公開をした方が遥かにお得だと考えたためである。

そして一般公開されている情報の一つに魔獣の情報がある。

「お前には悪いが…死んでもらうぜ。結婚指輪の購入資金にさせてもらう!」
「ばかっ、一人で突っ込むなって何度言わせるんだよ!!」

洞穴内の浅い部分によく見かける魔獣はゴブリンと名付けられた。
名付けの由来はこの不思議な迷宮内ではなく、現在は大半が絶滅し、過去には世界中に居たとされるゴブリンという魔獣からそのまま名付けられた。
地球においてはフィクションにのみ登場する人に危害を加える敵対的な生き物という存在であるが、この世界におけるゴブリンはというと、地球で言うところの類人猿の一種。すなわちチンパンジーやオランウータンのような猿の一種、その中でも木登りをしない地上棲の猿をゴブリンと言うのである。
ゴブリンの種類にもよるが、基本的には猿に近い姿形をしており、基本的な住処が森の中ということで保護色となる緑色の肌色に、腕や足、性器周りに緑色の体毛がワサワサと生えている姿をしている。
頭には小さな角が生えており、繁殖期のオスのゴブリンは角が一時的に大きく発達し、より大きな角を持つゴブリンにメスのゴブリンが複数集まり、ハーレムを形成する習性がある。
食性は食べれそうなものは概ね食べる雑食性で、知能も猿並みには高い。
例に漏れずこの世界では人口増加による食肉利用、環境破壊による生息地の減少によって大半の種類が絶滅しており、過去には約650種ほどが居たとされている類人猿のうち640種が絶滅済み。
650種の中の約100種ほどがゴブリンの仲間とされていたが、現代ではごく一部の地域に2種類が少数生息しているだけの実は非常に珍しい生き物と言える。

さて。
フォルフォー少年とルービィ少年の目の前に出現した緑色のゴブリンはリーフゴブリンという森林内部に生息していたとされるゴブリンの一種と酷似していた。
生き残った2種のゴブリン種のうちの一種であり、一部の森林地帯にのみ生息する希少種である。
そんな希少種が、なぜまたこのような場所で発見されたの未だに誰もが分からぬまま、田舎者ゆえに絶滅して久しい、ゴブリンの希少性だの不思議だの、そんなことは知ったことではないとフォルフォー少年は剣を振りかぶる。

ざっくり。

と、剣はゴブリンをあっさり斬り殺し、そしてフォルフォー少年は異様な現象に首を傾げた。

「うわっ、死体が消えたぞ?!」
「ああ、噂には聞いていたけれど、まさか本当にこんな不思議なことがあるなんて思わなかったよ」

フォルフォー少年が斬り殺した緑色のリーフゴブリンは血を噴き出して死亡して、数秒で透けるように消えていった。

魔法がある世界ではあれど、ゲームの世界ではないのだから、死体が透けて消えるなど流石に有り得ない。

理屈が分からない不思議な現象。
一体、どう言う原理で発生したのか、誰かによって作り出されたのであれば何が目的で作られたのかもまた不思議であり。
中で手に入るアイテムもまた製造過程が分からない不思議な物品ばかり。
さらには過去に絶滅したとされていた動植物に似た存在、または過去に存在すらしていなかった不思議な生物達がなぜか存在している不思議な不思議な洞窟。
果てには日によって内部の構造まで変わっている始末。

ゆえにこの洞穴は探索する者たちから「不思議な迷宮」と名付けられ、呼ばれていた。

「る、ルービィ!な、なんかあるぞ!?」
「…どろっぷあいてむとかいう奴じゃないか?」

二人が不思議な現象にビビり散らしながら消えていくゴブリンを見ていると、そこには何やら奇妙な物品が残された。

フォルフォー少年が近づいて拾ってみる。

「…なんじゃこりゃ?毛皮…か?」
「迷宮ギルドでの登録時にどんな物が手に入るか、少しだけ聞いただろう?
ゴブリンの毛皮って奴だよ。たぶん」
「ああ、そんな感じのこと言ってたような…」
「君は受付嬢の笑顔に気を取られて、それどころの様子じゃなかったからね。しっかりしてくれよ」
「へへ、わりぃわりぃ」
「へらへらしながら謝られてもね」

フォルフォー少年が拾った毛皮は緑色の皮にビッチリと緑色の毛が生えている。
皮は非常に丈夫そうで、毛は細かく、手触りもいい。
衣服に使えばなかなかどうして、上質な服になりそうであった。
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