魔王クリエイター

百合之花

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Ⅴ章

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⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

嗚呼。
なぜこんなにも幸せなのだろう。

リアは毎日のように幸せを感じていた。
それは実に楽しく、素晴らしき日々である。
その理由は自分でも分からない。
しかし、たしかに心が満たされている。

エルルと一緒にいるだけで。
エルルの声を聞くだけで。
エルルに触れるだけで。

無限にも思える多幸感に身が包まれる。

普通ではない。
その自覚はあった。

自らに宿る力、聡明という名のスキルが異常であると自覚を促す。
その度に自己分析をするのだが、今まではっきりしなかった。
ただエルルに対する思いが煮詰まって、煮詰まって、余分な水分が飛ぶように。
ドロドロになっていく。
煮詰まって煮詰まって、そして余分なものがなくなって、ドロッとしたヘドロのような、しかし純粋な気持ちが残る。

残ったのはあまりに強いドロリとした粘性を持った好意であった。

あまりの強さに、異常に違いない、何かされたのか?と聡明スキルが囁く。
この気持ちに流されてしまえば、という誘惑に聡明スキルによって高まった知性が待ったをかける。

なぜ、どうして、理由は?

たしかにエルルは見目は良く、自分に優しく、穏やかで、畑仕事に邁進するさまは魅力的ではある。
好きになる、というのは分からないでもない。
あるが。
あるけれど、今抱く気持ちはそれを踏まえても異常なほどに強い。

そう疑うものの、エルルに何かされたわけではなかった。
エルルの魔王クリエイターにそのような力はない。
洗脳のためのスキルは付けられていないし、昆虫やゼロから創られた魔王ならば裏切らないように好意の刷り込みが行われる安全装置のような機能があるが、リアにそれは当てはまらない。
元から意思持つ生物に何かしらの強制を施せるようなものではなかった。
ではなぜ、ここまで強い好意を持つのか。
リアは不思議でならなかった。

とはいえ無理もないことである。
元々彼女に味方は居らず、愛情を受けずに成長してきた。
エルルからの優しさは愛情に飢えたリアの胸の内にさっくり入り込んできた。

初めは依存に近いものであっただろう。

愛情を、優しくしてくれるのであれば誰でも良かったし、エルルである必要はない。
自身に一番気遣ってくれて、優しくしてくれたのがたまたまエルルだったという話。

そう、初めのうちは。

月日が経ち、時間をかけて接すれば接するほど依存は好意へと置き換わっていく。

人間は元々、近しい人間に好意を抱きやすい生き物だという。

好意に変わっていくのは、実に自然だと言える。
しかし、今抱く好意はそれにしても強い。
依存していた分がそのまま好意に、としても強い。
そしてその想いは日々強まる限り。
我ながら限度が無いのでは?と笑えてしまうほど。
趣味は?と尋ねられたら、エルルくんです。と答えるくらいには好きだ。

エルルに魅力がないとは言わない。
好きになる女の子は私を含めなくても普通に出てくるであろう。
私も好きなの!と言い出す異性の1人や2人いてもそうなんだな、そういうこともあるだろうと受け入れられた。
が、ここまで強い好意を抱くほど魅力的かと言うとそうでもないのではと思う。

はて?
何故?
どうして?

ぐるぐると思考が堂々巡り。何時迄も分からないまま。

リアはエルルの世話をする。

「リアちゃん?」
「エルルくんは幸せなのかな?」

ふと。
ふと、一緒にお風呂で洗いっこをしながら呟いた。

「えと…急にどうしたの?僕の表情ってそんなことを聞かれるくらいに辛気臭かった?」

何やらコソコソとやっているのは分かっていた。
そして、それも大体

最近になって各国に出始めたとか言う、ほぼ絶滅したはずの魔獣と呼ばれた害獣のようなものが街を襲って虐殺の限りを尽くしたとは完全な農耕地たる、ここ辺境にも知られていた。
急にそんな生き物が発生するとは考えづらい。
そして、通常の人間にはあり得ないようなエルルの力。
その一片を知っているリアからすれば、それらを結びつけるのは難しく無い。
少なくとも何かしらの関わりはあると考える。
聡明スキルによって様々な考えや可能性が頭を巡る。
エルルと一緒にお湯に浸かりながら、リアはいっそのこと隠さなくてもとイラつく自分に気づいた。
エルルが何をしようと私だけは離れることはないのに。
自分の好意を見くびられていることに苛ついたのだ。

「そうだねぇ、僕は…幸せかなぁ」

にへら、と気の抜けた笑顔を浮かべるエルル。
湯に浸かっているせいか、頬を赤らめながら彼は続ける。

「むしろ、リアちゃんがいなかったらもっと陰鬱としていたかも。日頃の罪悪感もリアちゃんと一緒に居る楽しさで塗りつぶせるから」

分からせる気などない、よく分からない内容の話。
急にこんなことを言っても意味わからんだろうな、とリアちゃんを見くびったエルルの言葉だが、リアからすればソレで十分。
隠れてやっていることが何なのか粗方予想がついてしまった。
なるほど確かに。それならば私に隠したがる気持ちは分からないでもない。
苛つきはするが理解はした。
そして、今はどうでも良い。

「エルルくんも幸せ?」
「もちろん」

そう言って笑うエルルを見てふと。
ふと、気付いた。

ようやく、と言うべきか。

なまじ聡明スキルで賢くなっていたから、逆に分からなくなっていただけで別に人を好きになるのに理由なんていらない。
一緒にいて、笑って、好きと言う気持ちがあればなんだって良いのだ。

きっかけは助けられたことだろう。
しかし今ある好意はただの日々の積み重ねに過ぎない。
それだけの話だった。

私の好意は普通で、もっと好きになったってそれは普通のことで、さらには一緒に居ることが私はもちろん幸せ、エルルくんも幸せとなれば、なおさら自らの気持ちに疑問を抱く余地などない。

どろり
どろり
どろり

待ったを掛けてた聡明スキルから溢れ出す好意。
ああ。
いや。
別に待ったをかける必要もないのだ。
私のは至極当然で、至極普通のこと。




だったら



エルルくんをもっと好きになっても良いよね?



リアは一つだけ勘違いしていた。


聡明スキルが待ったを掛けたのは、今抱いている好意が強すぎて不自然だったから。
何か変だと、そう判断したからではない。

そうではないのだ。

環境ゆえか。
元々の気質か。

彼女は普通の女性よりも愛情深かった。
それも異常なほどに。

エルルに対してあまりに過ぎた愛情は良くない。
スキルによって賢くなった彼女はそう判断した。
そのため、自らの好意がこれ以上膨れ上がらないように制止をかけた。
それだけの話だった。
物事には程度というものがある。
その程度を過ぎれば様々な弊害や不幸を招く。
聡明スキルによって賢くなった彼女はそれを無意識のうちに理解していた。
ゆえにこれ以上好きにならないようにと、自身の好意に制止をかけていた。


しかし、恋は盲目とはよく言ったものである。
同じ年頃どころか、大人と比べても賢くなっているはずの彼女はそれに気づかず、いや気づかぬふりをした。
それどころか、エルルの…好きな相手の笑顔を見て、言葉を聞いて、好きが溢れた結果、制止が効かなくなった。

彼女の好意は加速する。

それこそ魔王クリエイターによる影響でエルルに好意を抱く魔王達のように。
いや、それを凌駕していくように。

リアは思った。
まずは

「あのね、今日、畑にいなかった時のことだけど…」
「り、リアちゃん?その話はもう良くないかな?ほら、もっと楽しい話をしようぜ!」


隠し事を暴くところから、ね?







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