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百合之花

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Ⅲ章 討滅

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この調子で討滅し切ることが出来ればとサドラー大佐は思うが

「後方から魔獣の増援が出現っ!?」
「数は?」
「推定、3000万かと思われますっ!」
「司令部より通信っ!!さらに各地から散らばっていた昆虫型魔獣が集まりつつあるとのことですっ!」
「数はっ!?」
「推定2000万っ!!続々と集まり続け、それらが一斉に此方を目指している模様っ!!」
「…よし、ちと早いが想定通り。三つ目の新兵器の準備に抜かりはないな?」

指揮をとる後方のサドラー大佐含む指揮官達は多少慌ただしくはあるものの、2メートル越えの魔王ヨトウガ達が集まりつつあることに必要以上に慌ててはいなかった。

エルルが魔王ヨトウガを作ってしばらくで500万近くに殖え、それからの半年でさらに10倍以上に殖えても彼らは何とかできる、するつもりだったからだ。

サドラン帝国の軍上層部は魔王ヨトウガという新たな脅威を目にして、新兵器を3つ創り出した。
そのうちの2つ。
アンカータンクと歩兵式小型銃機戦車は実のところ、対抗措置ではあったがこれで倒し切れるとは考えていなかった。
奴ら、魔王ヨトウガ達の数を少しでも減らし、注意を引き、一方的にやられないようにするための延命措置程度の役割しかなかった。
本命は3つ目の新兵器である。

「使用しますか?」

サドラー大佐の副官である1人が尋ねた。
が。
サドラー大佐はその質問に首を横に振った。

「まだ、早い。引きつけて相手が一塊になった瞬間に使用する。使用できる回数が限られているのだからな」
「しかし、新兵器ゆえに一度は使ってみても良いのでは?もし、いざとなった時に使えないとなれば…考えたくもありませんが」
「貴官の懸念はもっともだ。がしかし。奴らはどうにも羽虫風情のわりには学習能力が高い素振りを見せている…下手に有効打を与えれば警戒して散らばって逃げる、なんてことになれば目も当てられん」
「たしかに、そうですが…」
「ふっ、不満そうだな?」

引きつける、とは言うがその間はもちろん兵士たちが矢面に立って、戦い続けなければならない。
今こうしている間にも兵士たちは少しづつ数を減らしている。
仲間が死んでいくのを見て喜べるはずもなく、下手に新兵器を勿体ぶれば得られたはずの勝機を逃すのではと言うのが顔に出ていたのだろう。
顔に出した副官をまだ若いな、とばかりに笑うサドラー大佐。

「いえ、そんなことは」
「貴官は。」
「は?い、いえ、そんなことはないです。今この時も奴らを討滅出来るのかと言う不安に…」
。そちらではない」

サドラー大佐の言葉にキョトンとする副官。

「貴官はこの場で負けても、新兵器が通じずとも、撤退し、また別の大都市、なんなら超大都市で迎え撃てば良い、いずれは勝てる、次こそは、と頭の片隅にでも考えているのだろう?」
「……正直なところ、こんな急拵えの新兵器を、これまた急拵えで数を揃えて、急拵えの習熟訓練をして立ち向かうくらいならば、この都市での戦いは時間稼ぎと間引きに徹して、後方でしっかりと準備をした方がいいと考えてはいます」

副官の言葉に笑いながらサドラー大佐は答えた。
甘い、と。

「敵の戦力を、知能を、規模を甘く見積り過ぎている。私を含めた大佐以上のたたき上げの連中達はそうは考えていない」
「え?」
「奴らを確認してから半年と少し。たったそれだけで何千万と殖えた奴らを斃すべき時期はのだ。
でなければ手に負えなくなる。
今、討ち漏らせば奴らは学習し、さらに数を揃えて、今以上の連携をもって襲ってくる。
かと言って入念な準備のもときっちり殺そうとすれば時間がかかる。その時にはどんなに準備をしても手に負えないレベルまで数を増やしているだろう。
つまりだ。
今だけ、なのだ。
急拵えとはいえども全滅させる目があり、ギリギリ対応可能な数に収まっている今が絶好の好機。分かるか?
今を逃せばサドラン帝国は壊滅する。余裕などどこにもない」

サドラー大佐はハッキリと断言した。
今がリスクの取り時である、と。
今が攻める最後のチャンスである、と。

「さ、さすがに考え過ぎなのでは?」
「そうかもしれん。が、そうじゃないかもしれん。誰にも正解は分からん。しかし、後から正解が分かったとて、その正解への道筋がすでに無くなっていたなどザラにあることだ。日和って間違うくらいならば前のめりに間違うことを上層部は選んだのさ」
「…そう、ですか」
「そうだとも。ほら、そろそろ敵の増援がお出ましだ。ここからが本番だぞ。奴らを引きつけ続けなくてはならん。踏ん張りどころだ」

怒号と悲鳴、怨嗟や助けを乞う声が戦場に響き渡る。

「くそっくそっくそっ!後から合流してきた奴らで、どんどん増えてきやがるっ!?」
「撃っても撃っても終わりが見えねぇぞっ!!」
「あばひぃっ?」
「弾が足りねーっ!弾をよこせっ!!」
「ビィトッ!?ビィトがやられたっ!!ビィト、頼むっ!!目を開けてくれぇっ!!」
「衛生兵っ!衛生兵っ!こっちだっ!!こっちにっ…」
「ぐげぇぶろぉっ!?」
「くそおっ!おいらの歩兵式小型銃機戦車がぁっ!?」
「アンカータンクがイカれやがった!!くそっ!これだから新造兵器は嫌なんだっ、耐久性が低過ぎんぞっ!」
「ひげぇっ!?」
「死にたくねーっ、死にたくねーっ、死にたくねーよっ、おっかあっ!!」

すでに交戦していた魔王ヨトウガと後から合流した魔王ヨトウガ達を含めて、その数、実に9000万匹超。
2メートルを越す巨体でありながら餌である人間一人で複数匹が成虫になることができる上に、成虫になってからは体の維持に大気中に含まれる魔力と呼ばれるエネルギーだけで充分であることも相まって、人間がいればいるほど殖えやすい魔王ヨトウガ達は複数の大都市や超大都市を陥落させてそこにいた大量の人を餌に大繁殖していた。
後から合流したのは後から成虫になった若い個体達で、それらが合流し始めたことで空が黒ずんでいく。

彼らだけで太陽を遮るほどに密集しているからで、まるでこの世の終わりかのような光景がサドラン帝国軍の眼前に広がる。
絶望感が兵士たちに湧き上がるが、ここで漸く切り札の第3の新兵器が投入された。

その名も『殺虫噴霧大質量砲』。

いわゆる殺虫スプレーを巨大戦艦に搭載される主砲並みに巨大化したものである。

サドラン帝国軍が考えた切り札はそう。

めっちゃデカい殺虫剤であった。


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