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退屈を楽しむ
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「貴方は現時点で、地位も名誉も名声すら彼らに及ばないかもしれない、けれども貴方には貴方の強さが有ることを自覚してほしい。もしも、貴方が耐え難い退屈と孤独と絶望で暗転のなかで苦しみ続けるなら、私からのギフトを開けると良い」個別の短い言葉を出立前の各自の表敬の時に、ケニーに耳打ちされました。
「回線をつなぎなおさなければ、導線の確保、生命維持の回復」それだけをひたすら行っては、再計算と同時に、各ダクトにやせた体を前進させては、亀裂の個所を直しては、前に前に前進していました。時折船内は大きく傾き、また揺れます。傾けば、すべての作業を辞め、出力の調整で軌道を直す作業をしました。
「僕に絶望はない。僕は考え続ける」
疲労で限界が見えたとき、『箱を開けなさい』の言葉がどこからか、命令口調で聞こえてきたのです。
「パンドラの箱を開ける前に、すべての災いは現実に起きているのなら、箱の中は希望であふれているじゃないか」
その人は今、ケニーに笑いかけました。
一つ一つの言動が、ケニーに笑いかけてくれたのです。そして、心に余裕が出てくるのを知った時には、ケニーは逆に目の中にいつもいてくれるアベイルの強さに心を寄せていたのです。
ケニーには、時々どこか遠い場所へ心が行ってしまうときがありました。
睡眠とは全く違う現象で、視野も動作も止まることはありませんでしたので、アベイルは、適当な無視と勘違いして、気がつきませんでした。時計機能で言えば、数秒の時もあれば、数日という長い時期もあります。
「えっ、と、どのくらい飛んでいた?」
と、無邪気にぼんやりしているのでなにもなかったかのように次の計算の過程が遅れているのにはっとなったり、変に挙動不審な動作をして、顔を染めたりしていました。
「大丈夫、こちらの世界は万事順調だよ」と、アベイルは答えたのです。
宇宙空間のことを大掛かりなセットだと思っていたアベイルにも、状況が何となく飲み込めたし、何となく、ケニーへの保護欲が親愛に変わっていくほどの時間が過ぎていきました。
「ディーラーがルーレットを回し、ボールを投げ入れた後でベットする方が勝率を当てやすい。私はディーラーやホイールの不正が、あったとしてもそれすらあの日も、楽しんでいたのかもしれない。ツキが『00』に確実に落ちたのを見通せたからね。でも、それは私の及ばないほどの大がかりな厄災で終わったわけだけれど」
あの日、カジノの建物そのものを崩す大規模な地割れが起きました。
国家規模の大捕物だと言われた事件でした。
そして、アベイルは、捕まり、気がつけば、積み重なった罪の大きさで刑期が下されたのです。
詭弁な裁判は簡略で、義賊でもなければ二重スパイでもないアベイルの犯罪行為。国家転覆罪というものでした。「我が国に死刑制度はない、だがこの法律は施行されなければならない」それがいわゆる『静寂なる生者の棺』という刑の第一号となりました。
遠い遠い、昔。
「私一人、盗賊が盗むなんて軽いものでしょう」と、高慢と偏見で少女が言う言葉を、同じようにアベイルは、言い返しました。
「君の価値は君にしか量れない。私に君の価値を忌まわしき商人と同じたち位置でモノを言わないでくれ」
「私はこの世界から外に出たいだけ」
混乱に乗じて、連れて逃げてと懇願するのです。
「なら、歩け、そのドレスを脱ぎ、靴を捨て、向かってくる不条理全てに裸で立つんだ」
「私ひとりじゃできない」
「…そうだ」
「今も、昔も。私ひとりじゃできないわ」
「…そうだね、誰もがそうだ。私は再びここに来ると約束しよう。その時、君が同じことを言うなら従おう」
「今じゃなきゃ嫌」
アベイルは、一生に一度だけ初めて、首を振ったのです。
「君のその高貴に満ちた傲慢さに最初私は、惹かれた。磨かれてもいない空想のダイヤを前にした君と私が睦む一夜の夜のたわごとでしかなかったんだ。君は知っていた、君は私をだまし、私もまた君を騙した、時機夜が明ける、太陽が昇り夢から覚ます。現実が現れる、君もにも私にも同じ朝が来る」
「わからない、わからないわ」
遠い、少年と少女の淡い恋の挫折でした。
「足をすくわれる前に逃げるとする。君も足元に、注意を払うといい」
「一人では歩けないのよ。このペテン師」
「今からベッドから出ればいい、そして私が入ってきた暖炉横の通路を開けて、塔の上に上がってみてごらん。君はできるはずだ。君のその足で立てる」
散らばった強盗団とまきあがる暴動の中、アベイルは逃げました。世界一治安が悪く、世界一の警備体制の国からただ独りだけ、逃げおおせました。
「二度と起き上がれない称された生きる梱包檻から、生き返ってしまうとは」と、笑うしかなかったというわけなのです。
「ケニー、ケニアン、君はいつもどこを見ている私に君を推し量る技量を試しているのか」とも、言ってみます。
とりあえず、機内の安全をかんがみ、枷をすこしばかり緩め、彼と自分の身体の清潔を行い、体が補給する充分な養分を採集保護し調理します。レンジクッカーはお喋りだが応用性がないし、第三区域の菜園はフードコンテナに自動で運ばれるだけなので育苗サイクルの升目の効率化しか楽しみにアベイルは興味をそそりませんでした。
「退屈は死を誘惑するとは言うものの、君はとても面白い。君が何を見何を見続けているのかその深い深層からの浮上をいつか話してくれるだろうか」
アベイルはケニーの髪をゆっくりと鋤きます。遠くを見つめたまなざしが、元に戻るまで自分の体でも補ていをするのです。人の体温と呼吸の動き、耳と首と脇と足と腹と局部から出る独特匂い、混ざることのない二つの空気の循環と膜だけが空調ダクトを通ってまた循環するだけの、静かな気を抜けばすぐにでも狂うほどの退屈な時間すげ代わり甘美な甘さに心が揺れ動き染まるのです。
「回線をつなぎなおさなければ、導線の確保、生命維持の回復」それだけをひたすら行っては、再計算と同時に、各ダクトにやせた体を前進させては、亀裂の個所を直しては、前に前に前進していました。時折船内は大きく傾き、また揺れます。傾けば、すべての作業を辞め、出力の調整で軌道を直す作業をしました。
「僕に絶望はない。僕は考え続ける」
疲労で限界が見えたとき、『箱を開けなさい』の言葉がどこからか、命令口調で聞こえてきたのです。
「パンドラの箱を開ける前に、すべての災いは現実に起きているのなら、箱の中は希望であふれているじゃないか」
その人は今、ケニーに笑いかけました。
一つ一つの言動が、ケニーに笑いかけてくれたのです。そして、心に余裕が出てくるのを知った時には、ケニーは逆に目の中にいつもいてくれるアベイルの強さに心を寄せていたのです。
ケニーには、時々どこか遠い場所へ心が行ってしまうときがありました。
睡眠とは全く違う現象で、視野も動作も止まることはありませんでしたので、アベイルは、適当な無視と勘違いして、気がつきませんでした。時計機能で言えば、数秒の時もあれば、数日という長い時期もあります。
「えっ、と、どのくらい飛んでいた?」
と、無邪気にぼんやりしているのでなにもなかったかのように次の計算の過程が遅れているのにはっとなったり、変に挙動不審な動作をして、顔を染めたりしていました。
「大丈夫、こちらの世界は万事順調だよ」と、アベイルは答えたのです。
宇宙空間のことを大掛かりなセットだと思っていたアベイルにも、状況が何となく飲み込めたし、何となく、ケニーへの保護欲が親愛に変わっていくほどの時間が過ぎていきました。
「ディーラーがルーレットを回し、ボールを投げ入れた後でベットする方が勝率を当てやすい。私はディーラーやホイールの不正が、あったとしてもそれすらあの日も、楽しんでいたのかもしれない。ツキが『00』に確実に落ちたのを見通せたからね。でも、それは私の及ばないほどの大がかりな厄災で終わったわけだけれど」
あの日、カジノの建物そのものを崩す大規模な地割れが起きました。
国家規模の大捕物だと言われた事件でした。
そして、アベイルは、捕まり、気がつけば、積み重なった罪の大きさで刑期が下されたのです。
詭弁な裁判は簡略で、義賊でもなければ二重スパイでもないアベイルの犯罪行為。国家転覆罪というものでした。「我が国に死刑制度はない、だがこの法律は施行されなければならない」それがいわゆる『静寂なる生者の棺』という刑の第一号となりました。
遠い遠い、昔。
「私一人、盗賊が盗むなんて軽いものでしょう」と、高慢と偏見で少女が言う言葉を、同じようにアベイルは、言い返しました。
「君の価値は君にしか量れない。私に君の価値を忌まわしき商人と同じたち位置でモノを言わないでくれ」
「私はこの世界から外に出たいだけ」
混乱に乗じて、連れて逃げてと懇願するのです。
「なら、歩け、そのドレスを脱ぎ、靴を捨て、向かってくる不条理全てに裸で立つんだ」
「私ひとりじゃできない」
「…そうだ」
「今も、昔も。私ひとりじゃできないわ」
「…そうだね、誰もがそうだ。私は再びここに来ると約束しよう。その時、君が同じことを言うなら従おう」
「今じゃなきゃ嫌」
アベイルは、一生に一度だけ初めて、首を振ったのです。
「君のその高貴に満ちた傲慢さに最初私は、惹かれた。磨かれてもいない空想のダイヤを前にした君と私が睦む一夜の夜のたわごとでしかなかったんだ。君は知っていた、君は私をだまし、私もまた君を騙した、時機夜が明ける、太陽が昇り夢から覚ます。現実が現れる、君もにも私にも同じ朝が来る」
「わからない、わからないわ」
遠い、少年と少女の淡い恋の挫折でした。
「足をすくわれる前に逃げるとする。君も足元に、注意を払うといい」
「一人では歩けないのよ。このペテン師」
「今からベッドから出ればいい、そして私が入ってきた暖炉横の通路を開けて、塔の上に上がってみてごらん。君はできるはずだ。君のその足で立てる」
散らばった強盗団とまきあがる暴動の中、アベイルは逃げました。世界一治安が悪く、世界一の警備体制の国からただ独りだけ、逃げおおせました。
「二度と起き上がれない称された生きる梱包檻から、生き返ってしまうとは」と、笑うしかなかったというわけなのです。
「ケニー、ケニアン、君はいつもどこを見ている私に君を推し量る技量を試しているのか」とも、言ってみます。
とりあえず、機内の安全をかんがみ、枷をすこしばかり緩め、彼と自分の身体の清潔を行い、体が補給する充分な養分を採集保護し調理します。レンジクッカーはお喋りだが応用性がないし、第三区域の菜園はフードコンテナに自動で運ばれるだけなので育苗サイクルの升目の効率化しか楽しみにアベイルは興味をそそりませんでした。
「退屈は死を誘惑するとは言うものの、君はとても面白い。君が何を見何を見続けているのかその深い深層からの浮上をいつか話してくれるだろうか」
アベイルはケニーの髪をゆっくりと鋤きます。遠くを見つめたまなざしが、元に戻るまで自分の体でも補ていをするのです。人の体温と呼吸の動き、耳と首と脇と足と腹と局部から出る独特匂い、混ざることのない二つの空気の循環と膜だけが空調ダクトを通ってまた循環するだけの、静かな気を抜けばすぐにでも狂うほどの退屈な時間すげ代わり甘美な甘さに心が揺れ動き染まるのです。
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