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ティンポラス編

23 魔王降臨

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 「くそっ! やっぱ飛んでくるよな!」

 「ランさん、そっちは大丈夫ですか?」

 「おらぁ!……あぁ問題ないね。殴れば消えるみたいだ!」

 「うわぁ脳筋……」

 「うるせぇな、歳とるといろんな事は出来なくなるもんなんだよ。」

 北の草原の入り口でオレ達は案の定、紫の棒状の魔法攻撃でお出迎えされていた。

 オレは【絶対防御鉄の処女】を使用して攻撃を跳ね除け、ランさんは飛んでくる攻撃をひたすら殴るというスーパー脳筋プレイで対処していた。

 ガサッ……

 「ん、何だ?」

 オレの左耳に草のこすれる音が入ってきた。

 「へへへ…オマエ、シヌ……ココデ!」「マオウサマ、ノ、メイ…マモル」

 木々の後ろから、人語を話す大勢の骸骨が出てくる。

 「この骸骨たちは魔王の部下ってことっすかね?」

 「そうらしいな、謎の遠距離高速攻撃に加えて骸骨兵ときた。こりゃ骨が折れる。」

 「確かに二つとも相手にしてると面倒くさいことこの上ないっすね。」

 「儂の方はなんとかなるが、お前さんのその技は時間制限があるんだろ? 早く奥に進んだ方がいい。」

 しかめっ面のオレにランさんが声をかける。

 「結構な数いますけど……任せても、大丈夫っすか?」

 「問題ない、ここは任せて先に行きな……そらよ!」

 「何でそうフラグ連発するのかなぁ、この人は!」
 (なんか、むしろ逆に死にそうにない気がするわ。)

 紫の攻撃を弾きながらフラグを乱立するランさんを後に、オレは真っ直ぐ全速力で走り出す。

 「じゃあ、骸骨たちは任せます!」

 「おう、任された! 魔王ってやつはお前さんがぶっ倒してこい!」

 オレは紫の攻撃を弾きながら走り続ける。

 「くそっ、そろそろ十分経っちまう! 急がねぇと……ん?」

 走り続けていたオレの視界の先に小さく洞穴が見えてくる。

 「間違いない、この攻撃はあの洞穴から放たれてる。」

 オレは全力で洞穴に向かって走っていく。

 「うぉぉぉぉぉ! 間に合えぇぇぇ!!!」

 ズザザザザザ……!!

 オレが洞穴に滑り込むと同時に【絶対防御鉄の処女】の効果が切れる。

 「……っはぁ、間に合ったか。」

 「へぇ、よく辿りついたな。」

 全身汗まみれのオレに低く不気味な声が飛んでくる。

 「ここの支配者か?」

 「あぁ。」

 奥から小太りな体格の良い男が現れる。

 「お前……は……」

 全身の汗が上っていく。

 今のオレはさぞ顔面蒼白に違いない。

 オレはその男を知っている。忘れるわけがない。

 「ん? あぁ、お前もしかしてあの時の子猫ちゃんか?」

 男は舌舐めずりをし、ニチャァと気色の悪い笑みを浮かべる。

 その男は紛れもなく、オレの人生最大のトラウマ……

 “モブおじさん”だった。

 なんで……あいつがこの世界に!?

 こいつが魔王なのか!?

 頭が回らず、その場に硬直するオレを他所に魔王は得意げに話し始める。

 「この魔法攻撃はマジで便利なんだぜ、日本でも多くの人をイかせてきたもんだが、この技を使えば一瞬にして大勢を文字通り逝かせてやることができるんだからなぁ。」

 魔王はその太い腕を天に掲げ、背中から紫色のオーラを放つ。

 そのオーラはオレのよく知る形に変化していく。

 あの時の肉棒だった。

 あまりの速度で視認できていなかったが、あの紫の棒状の攻撃はオレのトラウマを抉る形をしていたのだ。

 「あ……。」

 言葉が出ない。

 思考が完全に停止する。

 足が震えて一歩踏み出すこともできない。

 指の一本だって動かせやしない。

 (動け……動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!!!)

 「じゃぁな子猫ちゃん、またあの時みたいにかせてやるよ!」

 紫の禍々しいオーラを放つ、巨大なトラウマの具現化がオレを貫こうと迫ってくる。

 ……それでもオレの足が地を離れることはなかった。

 (ダメだな。あぁ、オレはどこまでもこいつに……)

 迫る魔王の攻撃を前にオレはただ立ち尽くす事しかできなかった。
 

 


 
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