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ティンポラス編
20 二人の話
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オレ達が修行を始めて一ヶ月が経った。
一ヶ月……北の草原にいた敵も強くなっている可能性を考えると、これ以上修行にかまけている余裕はないだろう。
そろそろオレ達も北の草原への侵攻を考えるべきだ。
ランさんと店主さんの成長ぶりは正直ドン引きするレベルで凄かった。
ランさんは拳ひとつで大抵の物は木っ端微塵に粉砕できるほどの腕力を手に入れ、店主さんはありえないくらい多種多様な魔法を使えるようになったそうだ。聞いたところによれば、店主さん自身も数が多すぎて、いくつ魔法を体得したかもう覚えていないらしい。
一方、オレたち転生組は修行を始めたころからほとんど強くなっていなかった。
この世界には、どうやらよくある“ステータス”とかいう概念が無いらしく、肉体の成長速度は日本にいた頃となんら変わりはなかった。
そのため、転生者の強さはどうしても武器に付与されるスキル依存になるようだ。
【絶対防御】を獲得したオレはまだいいが、武器を失ったせいで結局なんのスキルも獲得できなかった凛は以前のような暗い顔ではないものの、どこか焦っているのが見て取れる。
今の凛では北の草原に行けば、いの一番に命を落とす事だろう。
「このやり方は効率悪かったかもなぁ。」
料理店の庭でオレは一人で考え込む。
「肉体的な成長が望めないなら、やっぱスキルに頼るしかない、けど凛は武器を失ってるせいでスキルを習得できない……どうしたもんかなぁ。」
ダメだ、これじゃあ堂々巡りだ。
発想を変えよう。凛を強くしなくても北の草原に巣食う敵を撃破し得る方法……
まぁ凛だけ置いていくってのが尤もな解決策ではあるが、凛の性格上それは絶対無理だろうなぁ、死んでも付いて来そうだし。
「となれば……」
オレは料理店の中に戻り、店主さんのいる奥の部屋に向かった。
「ほら、チェックメイトだ。」
「んなぁぁ!! なんでそんなに強いんですか!」
「さあな、神様も儂にいらん才能つけてくれたもんだ。」
「くぅ、さっき俺がルール教えたばっかなのに……」
「お前さんが弱すぎるんじゃないか?」
「うぐっ、次こそは負けませんから!」
チェス盤の置かれた料理店のテーブルからにぎやかなやりとりが聞こえてくる。
「そういえば江口様、カワカさんの部屋に入ったきりでてきませんね、なにか話してるんでしょうか?」
「さあな。儂の知ったこっちゃねぇよ。」
「もう、なんでランさんはいつもそんなに適当なんですか。」
「多少は適当に生きてかないと人生苦しいぞ~。先輩からのアドバイスだ。」
「なんですか、それ。」
凛は口を尖らせ、駒を再び盤上に並べ直す。
「なぁ、佐川。ちょっと聞いときたい事があんだけど」
「なんですか?」
「江口の兄ちゃんのこと、なんでそんなに慕ってんだ? ぶっちゃけお前ら、会ってまだそんなに長いわけじゃねぇだろ?」
「そうですね……」
凛が少し目線を下げる。
「同じ転生者ってことで親近感が湧いたのもあるんですけど……俺を、助けてくれたから。俺を救ってくれたから。」
ランは黙ってただ目の前の小さな少年を見つめる。
「彼がクローディアを倒した時、俺は彼の眼中にもなかった、それは分かってます。でも、彼は結果として俺を救ってくれました。俺の元いた世界では俺を救ってくれる人なんていなくて……俺を見てくれる人もいなかったんです。」
凛は一息ついて続ける。
「でも江口様は俺を見てくれた。救ってくれただけでも嬉しかったのに、俺をひとりの人間として見てくれて、俺のことが大切だと言ってくれました。」
凛は顔を上げ、はにかむ。
「そこまでいろんなものをくれた江口様は、もう俺にとって大切な人ですよ!」
「……なるほど。」
ランは目を細めて頷く。
「じゃ、江口さんの言うことはちゃんと聞いてやれよ。」
「当然です! 言われるまでもありませんよ。」
「そうかい、じゃ、安心だな。さぁて店主さんに晩飯ねだりに行こうかねぇ。」
ランは席を立ち店主の部屋に入っていった。
一ヶ月……北の草原にいた敵も強くなっている可能性を考えると、これ以上修行にかまけている余裕はないだろう。
そろそろオレ達も北の草原への侵攻を考えるべきだ。
ランさんと店主さんの成長ぶりは正直ドン引きするレベルで凄かった。
ランさんは拳ひとつで大抵の物は木っ端微塵に粉砕できるほどの腕力を手に入れ、店主さんはありえないくらい多種多様な魔法を使えるようになったそうだ。聞いたところによれば、店主さん自身も数が多すぎて、いくつ魔法を体得したかもう覚えていないらしい。
一方、オレたち転生組は修行を始めたころからほとんど強くなっていなかった。
この世界には、どうやらよくある“ステータス”とかいう概念が無いらしく、肉体の成長速度は日本にいた頃となんら変わりはなかった。
そのため、転生者の強さはどうしても武器に付与されるスキル依存になるようだ。
【絶対防御】を獲得したオレはまだいいが、武器を失ったせいで結局なんのスキルも獲得できなかった凛は以前のような暗い顔ではないものの、どこか焦っているのが見て取れる。
今の凛では北の草原に行けば、いの一番に命を落とす事だろう。
「このやり方は効率悪かったかもなぁ。」
料理店の庭でオレは一人で考え込む。
「肉体的な成長が望めないなら、やっぱスキルに頼るしかない、けど凛は武器を失ってるせいでスキルを習得できない……どうしたもんかなぁ。」
ダメだ、これじゃあ堂々巡りだ。
発想を変えよう。凛を強くしなくても北の草原に巣食う敵を撃破し得る方法……
まぁ凛だけ置いていくってのが尤もな解決策ではあるが、凛の性格上それは絶対無理だろうなぁ、死んでも付いて来そうだし。
「となれば……」
オレは料理店の中に戻り、店主さんのいる奥の部屋に向かった。
「ほら、チェックメイトだ。」
「んなぁぁ!! なんでそんなに強いんですか!」
「さあな、神様も儂にいらん才能つけてくれたもんだ。」
「くぅ、さっき俺がルール教えたばっかなのに……」
「お前さんが弱すぎるんじゃないか?」
「うぐっ、次こそは負けませんから!」
チェス盤の置かれた料理店のテーブルからにぎやかなやりとりが聞こえてくる。
「そういえば江口様、カワカさんの部屋に入ったきりでてきませんね、なにか話してるんでしょうか?」
「さあな。儂の知ったこっちゃねぇよ。」
「もう、なんでランさんはいつもそんなに適当なんですか。」
「多少は適当に生きてかないと人生苦しいぞ~。先輩からのアドバイスだ。」
「なんですか、それ。」
凛は口を尖らせ、駒を再び盤上に並べ直す。
「なぁ、佐川。ちょっと聞いときたい事があんだけど」
「なんですか?」
「江口の兄ちゃんのこと、なんでそんなに慕ってんだ? ぶっちゃけお前ら、会ってまだそんなに長いわけじゃねぇだろ?」
「そうですね……」
凛が少し目線を下げる。
「同じ転生者ってことで親近感が湧いたのもあるんですけど……俺を、助けてくれたから。俺を救ってくれたから。」
ランは黙ってただ目の前の小さな少年を見つめる。
「彼がクローディアを倒した時、俺は彼の眼中にもなかった、それは分かってます。でも、彼は結果として俺を救ってくれました。俺の元いた世界では俺を救ってくれる人なんていなくて……俺を見てくれる人もいなかったんです。」
凛は一息ついて続ける。
「でも江口様は俺を見てくれた。救ってくれただけでも嬉しかったのに、俺をひとりの人間として見てくれて、俺のことが大切だと言ってくれました。」
凛は顔を上げ、はにかむ。
「そこまでいろんなものをくれた江口様は、もう俺にとって大切な人ですよ!」
「……なるほど。」
ランは目を細めて頷く。
「じゃ、江口さんの言うことはちゃんと聞いてやれよ。」
「当然です! 言われるまでもありませんよ。」
「そうかい、じゃ、安心だな。さぁて店主さんに晩飯ねだりに行こうかねぇ。」
ランは席を立ち店主の部屋に入っていった。
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