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ティンポラス編

14 オレは断じてホモではない

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 「美味しすぎますぅぅぅ!!!」

 「あぁ、確かにこりゃぁ絶品だな。」

 さっきクローディアの元支配領域で拾ってきた二人は幸せそうに「オリモノ海洋のゲテモノスープ」を食していた。

 うん、まぁ実際おいしいからなんとも言えないんだけど、なぜドワーフはこうもネーミングセンスが致命的なのだろうか……

 気がつくと痩せ細っていた少年はいつの間にか標準的な体型になっていた。

 「この料理、回復薬でも入ってるんすか?」

 不思議に思ったオレは店主さんに尋ねる。

 「あぁ、サーモナイトの死骸には『状態異常の回復』の効果があるんです。おそらくそれが極度の飢餓状態に効いたのではないでしょうか。」

 (ドワーフってこんなに何でもできる種族だったっけ?)

 もはやオレなんかよりも断然ドワーフの方がチートまがいな気もしてくる。

 「ではそろそろ、いろいろと話して頂けますか?」

 店主さんが話を切り出す。

 「あぁ、その前に紹介が遅れたな。儂はラン・コウって者だ。よろしく頼む。」

 (乱交!? 渋い声で何言ってんだあんた! これまたド直球な名前が来たもんだな。)

 この世界の名前の下ネタ率に引きつつオレは食事にがっつく少年の方に話を振る。

 「君はなんて名前なんだ?」
 (まさかまた下ネタとかやめてくれよ?)

 「はい、俺は佐川凛と言います。よろしくお願いしますね!」

 良かった普通だ。……ん?

 「もしかして日本人か?」

 「はい、俺は日本からこの世界に転生してきました。もしかして救世主様も?」

 「あぁ、オレは江口一歩っていうんだ。君と同じく日本から来た者だよ。」

 「そうだったんですね! 救世主様も俺と同じ転生者だなんて、なんだかうれしいです!」

 「その“救世主様”ってのはやめてくれ、こっ恥ずかしい。江口で構わないよ。」

 「じゃあ俺のことも凛って呼んでくださいね?」

 そう言って少年は可憐な笑みを浮かべる。不覚にもときめいてしまいそうだ。童貞にこの顔面偏差値は刺激が強すぎる!

 「ちなみに聞くんだけど、その……凛の性別って…?」

 「あぁ、そうですよね。日本でもよく間違えられてました。俺は男ですよ。」

 ですよねーーー! あぁ畜生めっ! ラブコメの波動を感じたのに!!

 この顔で男!? この世界はなんて残酷なんだ! 

 オレは凛の肩にかかりそうな光り輝く茶髪を見つめる。

 (うむ、これはこれで男だとしてもアリなのでは?)

 って、何考えとんじゃオレはーーー! そんなのあいつモブおじさんと同レベルの思考じゃねぇか。

 落ち着け、落ち着くんだ。童貞こじらせてホモになるとか笑い話にもならねぇ!

 「そ、そうか。よろしくな、凛。」

 上擦った声でオレは凛に手を差し伸べる。

 「はい、こちらこそ、江口様!」

 凛が手を握り返してくる。

 「様付け!?」

 てかこの子の手、柔らかっ! ホントに男か、こいつ? 
 
 いいよな? 男の娘ってぎりホモじゃねぇよな!? てかどっからがホモなんだ!?

 「ん゛ん゛っ、そろそろ話を進めてもいいか?」

 ランの咳払いで、夢の彼方へ飛ばされそうになっていたオレの理性が戻る。

 「あ、あぁ…すみません。」

 「まず儂らのことだが、奴隷生活からは解放されて、ありがたくは思っとるんだが、なにぶん非力な儂ら人間はどこへ行ってもまともな働き口が無い。」

 「そこは安心してください、私たちが責任を持ってこの街であなた達を受け入れます。」

 店主の言葉にドワーフ達も大きく頷く。

 「感謝する。それから他の奴隷のことだが、あいつらは得体の知れない救世主とやらには関わりたくないと言ってどこかに逃げていってしまった。」

 「そう、ですか……」

 店主さんは残念そうな表情をする。

 まぁ、あんな異常な戦いを目の前で見せられれば……妥当な考え方なのかもな。

 「お前さん達が気を病むことはねぇ、結局はその道を選んだあいつらの責任だ。まぁ生きてりゃそのうちどこかで会えるかもしれんしな。」

 「そうですね、その人たちもうまく生き延びていることを祈りましょう。」

 「ま、ここまでは儂らの話だ。あの土地に関してはこいつの方がいくらか分かってるだろうよ。」

 そう言ってランは凛を指差す。

 「では俺からもお話しますね。」

 「さっきも言いましたけど、クローディアが倒れた後、土地の支配者になるかどうかの選択画面がいきなり俺の目の前にでてきました。」

 凛は手で四角を作りながら話を続ける。

 「でもその表示画面はどうやらランさんや他の奴隷の人たちには見えていなかったみたいなんです。」

 「見えてなかった?」

 「はい、そうですね…江口様、試しに神から渡された武器のステータス画面を開いてみてください。」

 オレはオ○ホを握ってステータス画面を表示させる。

 「これでいいか?」

 「はい、ありがとうございます。皆さん、江口様の持っている武器の上に表示されている画面が見えますか?」

 凛がそう聞くと、ドワーフ達は怪訝な顔つきで首を傾げる。

 「もちろん儂にも見えとらん。」

 横からランが言い放つ。

 「つまり、この表示を見ることができたのは俺と江口様の転生者である二人だけ。」

 「なるほど、さっき言ってたやたら簡単に支配者になれる方法が使えるのはオレたち転生者だけってことか。」

 「その通りです。そして、同じ種類の表示が神の与える武器にもついているということは、この仕組みはおそらく神が作ったものなのでしょう。」

 確かにそう考えるのが自然だろう。

 しかしなぜだ? 神は転生者をそこまで優遇しておきながら、なぜ十分な説明を与えないまま異世界に放り出したりするんだ?

 「俺からの話は以上です! この後どうしましょうか?」

 凛の一声でオレの思考はかき消される。

 「あぁ、倒したもう一人の四天王の元支配領域に行く予定だ。」

 「そろそろ一時間経ちますけど、跳躍魔法使えますか?」

 オレはドワーフ達の方を振り返って尋ねる。

 「あぁ!」「いつでも」「ばっちこい」「だぜ!」

 ドワーフ達の元気良い声に思わず笑みが溢れる。

 ドワーフ達はなぜこうも人間に優しくしてくれるのだろうか、機会があったら聞いてみよう。


 「え? さらっと流れたけど、四天王を二人も倒すとか何事だよ……なんで佐川はあんな平然としてられんの? え? 儂がおかしいのか?」
 
 わいわいと盛り上がる雰囲気にランはなんだか自分だけ置いていかれているような気がしてならなかった。
 
 

 

 
 
 
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