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有栖-3
有栖-3-7
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「嘘だろ……」
鮫島を倒し、こちらへ歩みを進める有栖に結城は思わず言葉を零した。彼の頭の中には鮫島が負けることなんて毛頭なく、また、有栖の強さも想定外だった。
逃げなければ、と思うが先程の戦闘で見せた速度で動く相手に策もなく逃げれるとは思わない。それぐらいには冷静に状況を分析出来ていた。
――どうすれば逃げ切れる?
今、背中では姫野がしがみつき震えている。邪魔だと思うと同時に、これも利用出来ないか、と考えていた。
戦うなんて論外――鮫島を圧倒した相手に自分が勝てるわけがない。
――どうする? どうする? どうする?
「逃げないんだ」
椅子に座り続ける結城と姫野に、足を止めて有栖は言った。距離としては、あと数メートル。数歩進めば、結城に手が届く。
「逃げても追いつかれるし」
「そうね」
有栖が一歩近づく。
「それに恋人を見捨てられない」
「そりゃ、素敵な考えだ」
また一歩、更に一歩。
「俺も潮時だ。無茶苦茶しすぎた罰だな」
「解ってるじゃん」
一歩、そして、一歩――近づいたときだった。
結城はズボンの腰に差し込んでいたスタンガンを引き抜き、スイッチを入れた。
戦うなんて論外――鮫島を圧倒した相手に自分が勝てるわけがない。
相手もそう考えているはず。だから、虚を突ける、と結城は考えた。スタンガンは先端に青白い光を放ちながら、有栖へと――届かない。
結城のスタンガンは有栖の革靴のかかとで防がれた。
「な、何で……」
「身代わりまで用意して逃げてきた奴が、ここにきて潔くなる――信じるわけないでしょ」
そう言って、有栖は器用に防御に使った足を動かし、そのまま結城の手首を地面と挟むように踏みつけた。
「ぐぁ!」
体重をかけたことにより、結城は膝を着き、思わずスタンガンから手を離す。そして、その痛みから逃れようと手を引くが有栖は離さない。
「ま、待てよ。解った、解った。俺が悪かった。た、助けてくれ」
「…………」
命乞いをする結城を有栖は冷めた目で静観していた。
「助けてくれたら、ほら、俺の親父は政治家で偉いんだ。重役だし、ほら、何でも欲しいものをくれてやる。金でも、何でもだ」
それを聞いて、有栖は踏んでいた足をどけて結城を解放する。安堵した表情を見せた結城は、その表情にうすら笑いを貼り付けた。
「そうだ、賢い選択だ。ここで俺を捕まえても何も得られない。任せろ。俺が親父に頼んで、何でも用意して――」
「一つ……」
結城の言葉を有栖が遮る。
「へ?」
「一つ、教えとく」
「は、は?」
「いざってときに、頼れるものが自分の力で得たものじゃないなら、馬鹿みたいに大きな声で喋るな――人間が小さく見える」
そう言い終えると、有栖は右拳を結城の顔面に向けて振り抜いた。
二転、三転、と結城は転がり、地面に伏せたまま起き上がらない。
「残念ね、話の通じない相手で」
もう聞こえないことが解っていながら、有栖はそう呟いた。
鮫島を倒し、こちらへ歩みを進める有栖に結城は思わず言葉を零した。彼の頭の中には鮫島が負けることなんて毛頭なく、また、有栖の強さも想定外だった。
逃げなければ、と思うが先程の戦闘で見せた速度で動く相手に策もなく逃げれるとは思わない。それぐらいには冷静に状況を分析出来ていた。
――どうすれば逃げ切れる?
今、背中では姫野がしがみつき震えている。邪魔だと思うと同時に、これも利用出来ないか、と考えていた。
戦うなんて論外――鮫島を圧倒した相手に自分が勝てるわけがない。
――どうする? どうする? どうする?
「逃げないんだ」
椅子に座り続ける結城と姫野に、足を止めて有栖は言った。距離としては、あと数メートル。数歩進めば、結城に手が届く。
「逃げても追いつかれるし」
「そうね」
有栖が一歩近づく。
「それに恋人を見捨てられない」
「そりゃ、素敵な考えだ」
また一歩、更に一歩。
「俺も潮時だ。無茶苦茶しすぎた罰だな」
「解ってるじゃん」
一歩、そして、一歩――近づいたときだった。
結城はズボンの腰に差し込んでいたスタンガンを引き抜き、スイッチを入れた。
戦うなんて論外――鮫島を圧倒した相手に自分が勝てるわけがない。
相手もそう考えているはず。だから、虚を突ける、と結城は考えた。スタンガンは先端に青白い光を放ちながら、有栖へと――届かない。
結城のスタンガンは有栖の革靴のかかとで防がれた。
「な、何で……」
「身代わりまで用意して逃げてきた奴が、ここにきて潔くなる――信じるわけないでしょ」
そう言って、有栖は器用に防御に使った足を動かし、そのまま結城の手首を地面と挟むように踏みつけた。
「ぐぁ!」
体重をかけたことにより、結城は膝を着き、思わずスタンガンから手を離す。そして、その痛みから逃れようと手を引くが有栖は離さない。
「ま、待てよ。解った、解った。俺が悪かった。た、助けてくれ」
「…………」
命乞いをする結城を有栖は冷めた目で静観していた。
「助けてくれたら、ほら、俺の親父は政治家で偉いんだ。重役だし、ほら、何でも欲しいものをくれてやる。金でも、何でもだ」
それを聞いて、有栖は踏んでいた足をどけて結城を解放する。安堵した表情を見せた結城は、その表情にうすら笑いを貼り付けた。
「そうだ、賢い選択だ。ここで俺を捕まえても何も得られない。任せろ。俺が親父に頼んで、何でも用意して――」
「一つ……」
結城の言葉を有栖が遮る。
「へ?」
「一つ、教えとく」
「は、は?」
「いざってときに、頼れるものが自分の力で得たものじゃないなら、馬鹿みたいに大きな声で喋るな――人間が小さく見える」
そう言い終えると、有栖は右拳を結城の顔面に向けて振り抜いた。
二転、三転、と結城は転がり、地面に伏せたまま起き上がらない。
「残念ね、話の通じない相手で」
もう聞こえないことが解っていながら、有栖はそう呟いた。
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